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娘に「いらない子」と暴言をはく妻…それでも夫が「親権」をとれない理由

2016年02月14日 09:11  弁護士ドットコム

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離婚するにあたって、「子どもの親権を夫と妻のどちらが取るか?」はトラブルになりやすい問題です。弁護士ドットコムの法律相談コーナーには、ある男性からこんな相談が寄せられていました。


「ストレスがたまると、2歳の娘に『産まなければよかった』『いらない子』などと暴言をぶつける妻にうんざりし、離婚を考えています。娘は私が育てたいと思っていますが、2歳だと母親が有利とも聞きます。でも、妻の『暴言』を理由に、私に有利な交渉を進めていくこともできるんですよね?」


子どもに暴言をはく妻に代わって、夫が親権を取れるのでしょうか?近藤公人弁護士に詳細な解説をしていただきました。



A. 親権の判断では、「母性優先の原則」というハードルがある


妻の「暴言」だけを理由に、夫が親権を取れるとは限りません。


両親が離婚した際、子どもの親権は、「子に取ってよい環境はどちらなのか」、つまり「子の利益」という視点で決めます。考慮されるのは、「親側の事情」(就労状況、経済状況、年齢、子に対する愛情の度合いなど)、子ども側の事情(子の意思、年齢、性別、心身の発育状況、親や親族との情緒的結びつきなど)などです。


これらをふまえた上で、監護の継続性(主に子どもを育ててきた者を優先する)、母性優先の原則、兄弟姉妹不分離の原則、子の意思の尊重(おおむね十歳以上の場合)、面会交流の許容性(他方の親が子と面会交流をすることに対して、寛容になれるか)などが重視され、最終的な判断が下されます。


娘が二歳というご相談者のケースでは、特段の事情がなければ「母性優先の原則」が適用され、妻が親権を持つでしょう。「母性優先の原則」とは、子どもが乳幼児の場合、特段の事情がなければ、母を親権者とし、養育することが子の幸せだとする裁判所の考え方です。


妻の暴言は確かに問題ですが、親権争いで夫に有利な事情になるかは、暴言の程度によります。例えば、暴言が子の人格を全否定する内容だったり、数年間毎日言い続けているような場合、子が妻に対して信頼や愛情を抱いていない可能性があります。その場合、妻の監護能力(子どもを育てる能力)が否定され、夫が親権をとれるかもしれません。ただ、暴言の理由が、一時的なストレスや教育の一環としての躾であれば、監護能力を完全には否定できないでしょう。


このように、夫が子どもの親権を獲得することは、難しいのが現状です。妻が育児をせず、夫が「主夫」として、ほとんど全ての育児をしていたような場合は、夫の親権が認められる可能性もあるでしょうが、あくまで例外です。


どうしても親権を取りたい場合は、離婚前に妻と別居し、子どもを引き取って育てたり、または養育環境をしっかり整えすぐにでも自分のもとで育てられる環境を作るなどの方法があります。「妻より夫が育児をする方がよい」と家庭裁判所の調査官に判断させれば、夫も親権者になりうるでしょう。


      



【取材協力弁護士】
近藤 公人(こんどう・きみひと)弁護士
モットーは「依頼者の立場と利益を第一に」。滋賀県内では大きな法律事務所に所属し、中小企業の法務や、労働事件、家事事件など、多種多様な事件をこなしている。
事務所名:滋賀第一法律事務所
事務所URL:http://www.shigadaiichi.com/