12日、東京・青山で開催されたホンダの2016年モータースポーツ活動計画発表会。この場で、今季スーパーGT500クラスのホンダNSXコンセプト-GTが、ハイブリッドを搭載しないという発表がなされた。
■衝撃の“ハイブリッド非搭載”宣言
事前に噂は出ていたとは言え、ある意味2016年のスーパーGTを占う上で衝撃のニュースだったと言えるだろう。2014年からGT500クラスに導入された『クラス1』規定のなかで、唯一ミッドシップレイアウト+ハイブリッドという機構でシリーズに臨んでいたホンダNSXコンセプト-GTが、2016年に向けて「ハイブリッドシステムを非搭載」とするアナウンスを行ったのだ。
クラス1規定は、DTMドイツツーリングカー選手権との車両レギュレーションの統一を目指し14年に導入されたもの。DTMの全車がそうであるように、骨格となるモノコックを中心にFRレイアウトを前提としてデザインされていた。しかし、2012年に当時の伊東孝紳ホンダ社長が「NSXコンセプトの日本発売に合わせてスーパーGTに参戦させたい」と表明。GTアソシエイションではホンダの意向を尊重し、市販向けのレイアウト同様のミッドシップ+ハイブリッドでの参戦を特例で認める方向で調整した経緯がある。
14年から登場したホンダNSXコンセプト-GTは、FRレイアウト前提の共通シャシーをなかば強引にミッドシップ化し、70Kgのハイブリッドユニット重量が加算され開幕時には1090kgという競技車両最低重量で参戦。ただし、ハイブリッドのアシスト仕様可能域はエンジン回転数7500rpm以上と、高速域での使用に限られていた。
序盤数戦は、ミッドシップ化にともなう熱害に苦しみトラブルが多発。14年の第4戦からは特別に対策が認められたほか、競技車両最低重量が1077kgに軽減され、その後はライバルたちとほぼ互角のパフォーマンスを発揮していた。
■ハイブリッド非搭載の理由は、バッテリーの供給元
しかし、NSXコンセプト-GTは予選やレース中はしばしば速さをみせたものの、2014年、15年ともにシーズン1勝のみに留まっていた。原因として、ハイブリッド分の重量が負の影響を及ぼしているのではないかという説があった。当然他車よりも重ければブレーキングや加速で不利になるうえに、タイヤにも優しくない。また、レーシングハイブリッドは決して燃費を助けることが第一ではないため、重量分の燃費の不利がハンデとなり、給油時間も明らかにチャンピオンを獲得したニッサンGT-Rよりも長かった。
12日、ホンダから発表された「ハイブリッドシステム非搭載」の報は、クラス1規定3年目に向け、重量軽減によりライバルとのパフォーマンス差を減らすことが目標なのか……!? とも思われた。しかし、発表会の質疑応答の際、松本雅彦ホンダGTプロジェクトリーダーは、この考え方を否定し、バッテリーの供給元の都合によるものだと強調した。
「昨年、バッテリーサプライヤーから『バッテリーを供給することが非常に厳しくなった』という連絡がきました」と松本プロジェクトリーダーは語った。
「他に代替として、私どもで制作するということを念頭に置いて考えてはいたのですが、開発の期間、そして費用等も含めて非常に厳しいという判断となりました。その結果、今年から非搭載として、やむなく参戦することになりました」
■非搭載によるプラスマイナスはなし!?
すでにホンダは今オフ、セパンで開発車両の99号車、TEAM KUNIMITSUの100号車、NAKAJIMA RACINGの64号車が走行。また、先週には鈴鹿でARTAの8号車、DRAGO Modulo Honda Racingの15号車、KEIHIN REAL RACINGの17号車がテストを行った。いずれもハイブリッド非搭載での走行だったと言われているが、ドライバーのフィーリングはどう変化しているのだろうか。
数名のドライバーに聞いたが、やはりハイブリッドを下ろしたことによる重量減は、フィーリングとして感じられた様子。ただ、一方で「ストレートは伸びなくなった」という声もあり、「プラスマイナスでパフォーマンスは変化はない」というのが統一した意見だった。
また、興味深いのはハイブリッドによる回生の有無について。ブレーキング時に回生が入らなくなったことで、レーシングカーとして自然なブレーキングが実現できるようになったという声もあった。
■性能調整は開幕に向け調整へ
そんな中でNSXコンセプト-GTについて気になるのは、今後の性能調整だ。ハイブリッド重量分は軽減されたとしても、レーシングカーにとってミッドシップはFRよりも有利にあるというのは定説だ。ほかのFRレイアウトの2車との間でどんな調整が施されるのか。
GTアソシエイションによれば、詳細な調整値はまだ決定はしていないとのこと。今後、14年の時と同じように走行等で得られたデータを精査しつつ、開幕までには調整値が決定することになるという。
今回のハイブリッド非搭載決定は、ホンダにとってはミッドシップ+ハイブリッドという機構をもつ市販車のイメージとの関連として手痛い部分もある。性能調整によりパフォーマンスが著しく上がることはないと思われるが、ハイブリッド非搭載により生まれるメリットを武器に、マイナスイメージを結果で払拭するしかない。
「昨年はSUGOでの1勝に留まりましたが、2016年は体制も新たに攻めの年にしたいと思っております。今年は3年目のNSXコンセプト-GTにとって正念場の年となると考えており、弱点を克服すべくチーム一丸となって開発を進めてまいります」と松本リーダ-は力強く宣言した。