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アラフィフ男性の恋愛ドラマはなぜ増えた? “21世紀版寅さん”久留里卓三の魅力から考察

2016年02月12日 07:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『東京センチメンタル』公式サイト

 2016年冬ドラマのライナップで、ひときわ目をひくカテゴリーがあった。「50オトコの恋愛」ものだ。ひとつは『お義父さんと呼ばせて』、もうひとつは『東京センチメンタル』である。


参考:松重豊、吉田鋼太郎、遠藤憲一……実力派アラフィフ俳優が脚光を浴びる理由とは?


 近年50オトコの恋愛を描いたドラマとして、記憶に新しいのは小泉今日子、中井貴一主演の『最後から二番目の恋』だ。鎌倉を舞台にいわゆるアラフィフ同士の男女二人が繰り広げた恋愛コメディは続編やスペシャルドラマも制作されるほどの人気を博した。しかし、今季の恋愛ドラマは少し様子が違う。50オトコが主人公となって若い女性と恋愛模様を織り成していくのだ。


 さて、50代男性が恋愛対象として注目されはじめたのは、2007年に『カレセンー枯れたおじさん専科』(アスペクト)(*1)が出版された頃にさかのぼる。50代以上の男性を好む30代以下の若い女性を「カレセン(枯れ専)」(*2)と称し、ムーブメントが起きた。以来、「枯れ専」はオジさま好きな若い女性の代名詞にもなり、いまでも根付いている。『カレセンー枯れたおじさん専科』によると、彼らの魅力として、「一人の時間をもてあまさない」「携帯やメールに依存しない」「金や女を深追いしない」「自分の人生を受け入れている(若ぶらない)」などが挙げられている。あれから約10年、今どきの中年男性の実態はどうなのだろうか。


 「枯れ専」ブームの影響を受けてか、近年インターネットのナレッジコミュニティには50代男性からの恋愛相談が持ち込まれるようになったという。なかには、プラトニックな関係を呈しているにも関わらず、男性が20代の女性に対し「脈があるのではないか?」と考え、さらに冷え切った関係の妻と別れて、あわよくば彼女と第二の人生を歩みたいと恋愛への希望を密かに抱いているという相談もあった。(*3)また、いまどきの50代はバブル世代にあたり、恋愛をよりカジュアルに捉え、結婚2度目であっても、お見合いより恋愛結婚を望む人が多く、20代、30代より恋愛願望が強いともいわれている。(*4)


 つまり、今どきの50オトコは、枯れてなんかいないようだ。落ち着いたオトナの魅力をにじませながらも、その胸の内は恋愛に対してアグレッシブで、若いときと変わらずに謳歌しようという姿勢を保っている。


 ドラマ『東京センチメンタル』(テレビ東京)の主人公、久留里卓三(吉田鋼太郎)もまさにそんな今どきの50オトコを体現している。東京・下町にある言問橋の老舗和菓子屋「くるりや」を営む55歳、私生活では3度の離婚経験があり、いまなお独身だ。普段は、白衣に眼鏡をかけて和菓子職人として黙々と店頭に立つも、訳ありのマドンナが卓三のもとを訪れるたびにアルバイトの須藤あかね(高畑充希)に店番を託し、中折れ帽を被っては一眼レフカメラをぶらさげ、コートを翻してデートに出かけてしまう。


 これまでに登場したマドンナは、親友の妻、日暮里のキャバクラ嬢、21歳の大学生、イタリア帰りのバイオリニストと、年齢も境遇もバラバラだ。みな、卓三の優しさを頼りにしてくるりやを訪れ、卓三はその都度ほのかな恋心を抱きながら、東京・下町をマドンナと共に歩く。まるで映画『男はつらいよ』シリーズを彷彿させるストーリー展開だ。


 『男はつらいよ』の主人公・車 寅次郎はマドンナに対して、熱に浮かされたように恋心を燃やし、家族や隣近所まで巻き込んだ騒動まで巻き起こしてしまうが、女性に対する対応は硬派そのものだ。ときには寅さんに甘えて投げやりな発言をする女性に対し、叱って、諭してみせ、抱きつかれて泣かれても遠慮なく肩を貸し、決して自ら手出しはしない。


 一方、久留里卓三は美人に頼られると恋心はすぐに着火し、下心があけすけになってしまう。たとえば女性に抱きつかれた場合、「じゃあすみません。僭越ながら僕も」と心の中でひとりごち、遠慮なく肩に腕を回す。次に女性が声を発した瞬間にはすでにロマンチックモードに入ってしまい、「もっとキツくですか。」と思わず声に出して、暴走してしまう危うさがあるのだ。そして、恋心を感じると行きつけの蕎麦屋の店主・荒木(小栗旬)に相談せずにはいられない。そのさまは若い男性となんら変わりがない。一見、ダンディズムに身を包み、スマートに下町デートを楽しんでいるように見えるが、秘めた思惑が物語の中で全て台詞となって表現され、いまどきの50オトコ久留里卓三の弾むようなときめきが手にとるようにわかってしまう。恋に対しての純情ぶりだけをみると久留里卓三は「21世紀版寅さん」とも言ってもいいのかもしれない。


 2014年7月にIINA株式会社が恋愛ゲーム「制服の王子様」のユーザーを対象に行った調査によると、「40代以上の男性と付き合える」という女性が全体の95%を占め、さらに結婚対象における年齢差については、20歳以上でもOKという人が全体の67%にものぼった。(*5)


  若い女性が求める中年男性への「安心感」、「なんでも受け止めてくれる」、「包容力」と、いまどきの中年男性が求める若い女性との恋愛願望の需要と供給が一致しているいま、50オトコの恋愛を描いたドラマが増えたのも頷ける。江口洋介、堤真一、仲村トオルなど、ぐっと渋さを増した俳優陣が続々と50代を迎える今後、中年男性を描いた恋愛ドラマの需要はますます高まりそうだ。(内藤裕子)


<引用文献>
*1 カレセン http://zokugo-dict.com/06ka/karesen.htm
*2 カレセン―枯れたおじさん専科 (アスペクト)
*3 exicite.ニュース(2015.10)「50代男と20代女、恋愛関係に発展する可能性はある?」
*4 dot.(2015.11) 若者より恋愛願望強い? バブル世代にお見合いパーティー人気
*5マイナビニュース(2014.7)「枯れ専ブーム到来?女性の95%が「40代以上の男性でもOK」