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Suchmos、LUCKY TAPES、THE DHOLE……「踊る」という概念を塗り替える若手ベーシストたち

2016年02月11日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Suchmos『LOVE & VICE』

 アシッドハウスやネオソウルを背景に持つグルーヴと、開かれたポップネスを併せ持った音楽性で注目を集めるSuchmosが、4曲入りのEP『LOVE&VICE』を発表した。ファースト・アルバム『THE BAY』の制作時にギターのTAIKINGとDJのKCEEが加入して、現在は6人編成で活動するSuchmosだが、アタマから6人で制作に取り掛かったのは今回が初めてであり、『LOVE&VICE』はまさに新章の幕開けとなる作品。ブラックミュージックの大波が押し寄せ、星野源やceroが傑作を作り上げた2015年を経て、2016年はより若い世代の飛躍が期待されるが、Suchmosはその中心にいると言えよう。


 チーム感を大事にする6人はそれぞれが個性的なプレイヤーであるが、ここではベーシストのHSUに注目したい。ブラックミュージック、とりわけファンクの流行によって、グルーヴの中軸を担うベーシストに注目の集まる機会が増えているが、Suchmosの音楽的な要でもあるHSUのプレイは非常に攻撃的。あくまでヴォーカルを中心に据えながらも、ギターやキーボード、スクラッチといったうわもの以上に、HSUの個性的なフレージングが際立っている。もちろん、こうした傾向はグルーヴミュージックにおいては健全だが、決して派手なスラップを披露するわけでもなく、あくまでフレージング、もしくはタイム感で存在感を発揮しているのが素晴らしい。


 リード曲の「STAY TUNE」においては、YONCEの歌うファルセットを生かした流麗なメロディーを後ろで支えつつ、中盤の間奏におけるヴォーカルとのユニゾンから、短いブレイクを挟んで、後半から自由に動き回り、完全に曲の主役へと躍り出る。アウトロの勢いそのままに、最終盤にだけ出てくるラウドなギターパートへと突入していく展開は非常にスリリングだ。また、「FACE」では不穏なイントロで曲の雰囲気を決定付け、インストの「S.G.S.2」では音色を目いっぱい歪ませて、リフでグイグイとビートを先導するなど、やはりどの曲でもベースの役割は大きい。もちろん、ただ押しが強いというわけではなく、パートによって抜くところは抜いて、他の楽器を目立たせているのも、いいベーシストの条件である。


 ステージでは熱っぽいパフォーマンスを繰り広げるYONCEの隣で、クールにさまざまなフレーズを繰り出し、グルーヴマスターとして君臨。その姿は、メンバー全員がフェイバリットに挙げるジャミロクワイのオリジナルメンバーで、ローリン・ヒルやマーク・ロンソンとの仕事でも知られる名ベーシスト、スチュワート・ゼンダーを彷彿とさせる。


 そのファンキーなプレイを生かし、昨年は星野源の『SUN』にも参加するなど、すでに幅広いアーティストの作品やライブで活躍しているOKAMOTO’Sのハマ・オカモトは多くの人が知るところだと思うが、ここでは今後が期待される若手のベーシストをあと2人紹介しておきたい。


 まずは先日ニューシングル『MOON』を発表したLUCKY TAPESの田口恵人。音源としては洗練されたソウルミュージックという印象が強く、そこには「オシャレ」というキーワードが付与されることも多いが、彼らのライブを観たことがある人ならわかるように、田口のプレイスタイルはむしろいなたさや泥臭さが先に立つルーツ色の濃いもの。その音源とライブにおける独自のバランス感が、LUCKY TAPESの個性になっていると言えよう。Keishi Tanakaのライブでサポートを務め、最新シングル『Hello,New Kicks』にも参加するなど、徐々に活躍の場を広げつつある。


 もう一人は、THE DHOLE名義での初作『HERD THERE』を発表した元TAMTAMの小林樹音。TAMTAM時代はダブを背景とするロウの効いた重心の低いベースを特徴としていたが、THE DHOLEではその持ち味を生かしつつ、ロックからベースミュージックに至る、より折衷的な音楽性を志向し、プレイヤーとしての懐の広さを提示している。また、ゆるめるモ!のようなぴのソロ作『Return To My Innocence』で表題曲の作・編曲を手掛けるなど、ソングライター/プロデューサーとしての顔にも注目だ。


 昨年SuchmosのYONCEに取材をした際、彼が「踊らなきゃいけない理由は、いい音楽があるから」とサラッと言ってのけたのが印象に残っている。「いい音楽」を担うベーシストの存在は、日本における「踊る」という概念の変化にも大きな影響を及ぼすはずだ。(金子厚武)