2016年02月11日 10:51 弁護士ドットコム
2月に入り、大学の入学試験はピークを迎えている。京都大学では今年の入試から、受験生が持ち込む時計の使用を禁止した。試験会場に電波時計を設置し、対応するという。スマートウォッチを使った不正受験を意識しての対応とみられる。
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一方で、昔からある「なりすまし」による不正を行なう者もいるようだ。独立行政法人大学入試センターは1月、2015年までの10年間で、65件の不正があったことを発表した。報道によると、この内の2件は「替え玉受験」だった。1つは、2008年に東京都内の大学の試験場で発生。もう1つは、2010年に京都市内の大学の試験場で起きたという。
この2つのケースでは、かかわった生徒は、全科目の受験が無効と判断されただけで、刑事処分は受けていない。「替え玉受験」は、倫理的にはもちろん間違った行為といえるが、法的には問題ないのだろうか。水野順一弁護士に聞いた。
「受験者以外の人が、本人の替わりに大学や資格試験を受ける『替え玉受験』は、過去にもたびたび、社会問題となっています。1975年には、津田塾大学の入試で、志願者の父親が女装して試験を受けた事件が発覚しました。
中でも、大きな社会問題に発展したのが、1991年に明治大学の入学試験で14人の志願者が替え玉受験をした『明治大学替え玉入試事件』です。志願者の1人が某有名人の息子だったことも、注目を集めた要因でした」
この事件では、どのような罪に問われたのだろうか。
「明治大学替え玉入試事件では、替え玉受験にかかわった同大職員を含む5人が『有印私文書偽造罪』(刑法159条1項)、『同行使罪』(同161条1項)で起訴されました。
組織的規模で行われていた上、有名人の息子や著名なスポーツ関係者がかかわっており、社会的な影響もあったため、刑事処分を求めることになったのでしょう。センター入試で発覚した2件の替え玉については、社会的な影響もなかったと考えられ、刑事事件に発展しなかったのではないでしょうか」
明治大学の替え玉受験事件では、なぜ「有印私文書偽造罪」(刑法159条1項)、「同行使罪」(同161条1項)に問われたのだろうか。
「まず、『私文書』とは、『権利・義務に関する文書及び事実証明に関する文書』をいいます。そして、『事実証明に関する文書』とは、判例によれば、『社会生活に交渉を有する事項』を証明する文書のことです。
入学選抜試験の答案は、採点の結果が学力を示す資料です。これをもとに合否が判定されるので、志願者の学力の証明に関するものであり、『社会生活に交渉を有する事項』だとされました。
次に『偽造』とは、他人の名義を勝手に使って文書を作ることです。要するに、名義を偽ることですので、当然、他人が志願者になりすます替え玉入試では『偽造』となるでしょう。そして、志願者になりすました他人が答案を提出すれば、『行使』となります。
また、替え玉として受験した者のみならず、関与した者も共犯となります。
明治大学替え玉入試事件では、替え玉で合格した学生は、合格が取り消されました。『替え玉』役の大学生は起訴猶予となったものの、退学・停学などの厳しい処分をうけています。また、金銭を渡した某有名人も仕事を失うなど、社会的な制裁を受けたといえるでしょう」
水野弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
水野 順一(みずの・じゅんいち)弁護士
中央大学法学部法律学科卒。2004年弁護士登録。2010年なります法律事務所開設。共著書3冊。地域に密着した法的サービスを目指しています。離婚等男女問題、相続、借金、交通事故など一般民事事件及び刑事事件を取り扱っています。最近では、離婚等の男女問題を多く取り扱っております。
事務所名:なります法律事務所
事務所URL:http://www.narimasu-law.net