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空想委員会が語る、チームの結束と音楽への自信「自分の素を出した方が、お客さんと向き合える」

2016年02月10日 18:21  リアルサウンド

リアルサウンド

空想委員会

 自ら「低恋愛偏差値」と名乗り、ダメダメなラブソングを歌う3人組ギターロック・バンド、空想委員会が、メジャーデビュー作となった『種の起源』からおよそ1年半ぶりとなる2ndアルバム『ダウトの行進』をリリースする。シンプルなギターロック・サウンドだった前作とは打って変わり、今作では様々な音色を散りばめたバラエティ豊かなアレンジを展開、バンドとしての引き出しの多さを見せつけている。また、ヴォーカル三浦隆一の書く歌詞の世界も、音楽への感謝を歌にした「ミュージック」をはじめ、自らの死生観と真っ向から向き合った「新機軸」、Perfumeにインスパイアされて(!)書いたという「ワーカーズアンセム」など、内向きの妄想系ラブソングばかりでなく外の世界へと目を向けた楽曲がグッと増えているのが印象的だ。メジャーデビューから1年以上が過ぎ、活躍の場を広げていくことによって、3人の見える景色も変わりつつあるのだろうか。『安全かつ健全にはしゃぎ、全員で楽しむ事』をテーマにしたライブも、着実に成果を上げているという空想委員会。彼らに新作についてはもちろん、心境の変化や自らの結婚観(?)など、ざっくばらんに語ってもらった。(黒田隆憲)


・「届いた先の顔も見えるようになった」(三浦隆一)


ーー前作『種の起源』でメジャーデビューを果たして、1年半以上経ちます。自分たちを取り巻く環境はどのように変化しましたか?


岡田典之(以下、岡田):ここ最近は、お客さんの年齢層が広がりましたね。今まで見に来てくれたファンの子たちの、親御さんとかあるいは妹さんとか。そういう幅広い年齢層に広がっているのが、やっていて如実にわかりました。


佐々木直也(以下、佐々木):僕らは、ライブのテーマとして『安全かつ健全にはしゃぎ、全員で楽しむ事』を掲げているので、そこが認知されてきたのかなって思います。初めて見にきてくれた人も、以前からのファンの人も、みんなで楽しめるような空間づくりっていうのを心がけているから、「空想委員会のライブだったら、子どもたちが見に行っても心配ないな」って考えてもらえるようになってきたのかもしれないですね。「娘と一緒にライブを見に行って、それから親子の会話が増えました」という感想をもらったり、車椅子で遊びに来た人も一緒になって楽しめる空間を、お客さんたちが率先して作ってくれたりしたのが、とても嬉しいです。


三浦隆一(以下、三浦):今までは、バンドが何か一つアクションを起こしても、うまく伝わらなかったり、長続きしなかったりすることが多かったんですけど、最近は手応えも感じるし、届いた先の顔も見えるようになったので、やり甲斐みたいなものも感じますよね。バンドとして存続させてもらっているような、そんな気持ちもあります。「生かされている」というか。


ーー「観客ゼロ」だった頃と比べたら……(笑)。


三浦:もう、全然違いますよね(笑)。いてくれるだけで、感謝しかないです。最近は歌う内容も変わってきていて。それは、今言ったように「届ける相手」が見えてしまったので、その相手に「何を届けるのか?」、「どう届けるのか?」っていうのを、考えざるを得なくなったんです。お客さんだけでなく、メンバーに対する責任もありますし、スタッフさんに対してもある。責任だらけなんですけど(笑)、責任を「与えてもらっている」とも感じるので、そこに応えつつ、そこを超えなきゃなっていう意識もありますね。自分にプレッシャーを与えながら作業していくことが多くなったというか。


ーープレッシャーが、モチベーションにもなっている感じですね。


三浦:そうですね。必要のない人間だったら、責任感なんて与えてもらえないと思うので。


ーー主に佐々木さんと岡田さんが手がけているサウンド面も、『種の起源』から大きく進化しましたね。


岡田:「前作とは大きく変えていこう」というふうに、最初から考えていました。新しい音もどんどん取り入れているし、曲調に関しても今までやってなかったことにどんどん挑戦していきましたね。


ーー確かに、ギターバンドというフォーマットにこだわらない曲が増えました。


佐々木:僕の曲に関しては、例えばグロッケンシュピールのような音を入れたり、インスト曲「Silver Bullet -instrumental-」では、KORG KAOS PADで音を重ねたりしました。バンドサウンドでは出来ないものを作りたかったんですよ。他にも、シングル曲ではバイオリンを入れてるし、「物見遊山」では、「なんじゃこの音?」って驚くような音を入れています。「新機軸」のギターソロの前では、ポール・ギルバート(Mr.Big)にインスパイアされて電動ドリルの音をピックアップで拾って録りました(笑)。


ーー他にインスパイアされたことはありましたか?


佐々木:僕の場合は、ライブ映像が多いかもしれないですね。ライブで盛り上がる曲を書きたいときは、誰かのライブ映像を見ながら書くんです。音声を消して、そこに自分で作った曲を当てはめながら(笑)。普段よく聞いていたのは、フォール・アウト・ボーイとかマルーン5とか、テイラー・スウィフトとか。結構アゲアゲの曲ですね(笑)。


三浦:今回のアルバムだと、「ワーカーズアンセム」は完全にPerfumeですね。僕は広島にPerfumeさんのワンマンを見に行って、そのときに観たライブがあまりにも凄すぎて。特に「だいじょばない」に衝撃を受け、それを空想委員会でやりたい!と思って作った曲なんです。遅い4つ打ちのビートで、Perfumeに提供して踊ってもらえるような曲、っていうイメージを勝手に想定して作りました。


佐々木:「ワーカーズアンセム」のレコーディングのとき、三浦くんメッチャ楽しそうだったよね(笑)。


三浦:それこそPerfumeさんのライブ映像に、「ワーカーズアンセム」を重ねて喜んでました(笑)。


・「信頼関係は、日に日に増す一方です(笑)」(佐々木直也)


ーー「新機軸」は、ご自身の死生観と向き合った楽曲で、今までの空想委員会にはなかったものですよね?


三浦:キッカケは、星野源さんの著書(『蘇える変態』)を読んだことなんです。病気をされていた時期のことが書かれていて、それを読んでから色々考えるようになって。例えば、僕の祖父が入院してから亡くなるまでの間とか、自分は何を考えていたんだろうって。もっと(祖父の)話を聞けばよかったなとか。それで、初めて「死」に向き合うような歌詞が生まれたんです。よく、「たとえ死んでも自分の記憶の中に、その人は生き続ける」って言いますけど、それって、誰かと会うことで自分がその人に影響され、それまでの基準や価値観が変わっていくということなのかなって思うんですよね。そもそも、「確固たる自分」なんてものは存在しないし、いろんな人と出会って、どんどん変わっていけばいいって最近は思っています。


ーー「不在証明」では自分の居場所、存在理由について歌っています。こういう気持ちになることって、今もあるのですか?


三浦:この曲の歌詞は、バンドも何もない時、就職活動をしていたときの自分の心境を書いているんです。「この先、何かいいことあるのかな」「生きてて意味があるのかな」とか(笑)。結構考えていた時期で。でも、そのときにこういう曲を書いたとしても、今回のような歌詞にはならなかったと思うんですよね。ある程度時間が経って、今の状況だからこそ、自分の気持ちをちゃんと整理して、聞いている人にも届くような歌詞になっているのだと思いますね。この曲は、今の僕自身のことも“込み”で聞いてもらって、「今、不安や恐れがあっても、好きなことを貫けばいつかいいことあるかもよ」って言いたい。


佐々木:いや、この曲はすごいっすよ。


三浦:はははは。


佐々木:レコーディングのときに、歌っているのを聞いて、すんごくよくて、息するの忘れましたから。この歌詞で言ってること、今も僕が時々思うんですよね。やっぱり、曲を作っているときって、普段考えないようなことも考えたりするんです。「死んだらどうなるんだろう、誰か悲しんでくれるのかな」とか(笑)。


ーーそんなこと、メンバーの中で一番考えなさそうですけどね(笑)。


佐々木:あははは。意外に考えちゃったりするんですよ。だから、この曲はすごく響いたのだと思います。


ーー「容れ物と中身」では、“見た目で女性を選んでしまう自分は、結婚できるのか?”といったことがテーマになっていますが、この問題に関しては、おふたりはどうですか? 女性を“見た目”と“中身”、どちらで選びます?


三浦:これ、二人とも言葉に気をつけて答えてね、下手すると女の子から嫌われるよ(笑)。


岡田:ええっと、見た目より中身重視で……(笑)。


佐々木:僕は中身ですよ! だって、可愛い子って性格悪いじゃないですか(笑)。


三浦:その決めつけもどうなんだ!(笑)


ーーきっと佐々木さんは、過去に辛いことがあったんですね(笑)。


佐々木:はい、過去にそういう恋愛をしたんです。なので、“付き合う前は三回デートして性格見極めなきゃダメ”っていうルールを自分に課していますね。


三浦:え? なんの話してんの? 関係なくない?(笑)


佐々木:いやいや、中身を知るために大切なことだって。


ーーまあでも、結婚するとなると、色々考えますよね。


三浦:そうなんですよ。最近、結婚する人が周りに多くて。いやーちょっと、すげえなと。だって、いつかはおじいちゃんおばあちゃんになるわけでしょう。それでも幸せっていうことは、やっぱりみんな中身で選んでるってことですよね。僕はそうなれるかなって思ってしまう。「容れ物と中身」は、そういう悩みを歌った曲です(笑)。


ーーでも、三浦さんの歌詞って、ちょっと自分を俯瞰して面白がって見ている視点があるから、こういう歌詞を書いても嫌味にならないのだと思います。


岡田:ああ、確かに、三浦さんにはそういうところありますね。


三浦:そうか、自分じゃわからないけど。


ーーメンバー同士の信頼関係はどうですか?


佐々木:信頼関係は、日に日に増す一方です(笑)。シングルのアレンジをやっているとき、締め切りまであと1日ってなってテンパってたら、岡田君からメールが来たんですよ。「自由にやっていいよ、信じてるから。佐々木くんは何やってもカッコいいから大丈夫」って。三浦君からも、「大丈夫。信じているから」みたいに言われて。「え、なにこの人たち?」と(笑)。


ーー青春映画みたいじゃないですか。


佐々木:そうなんですよ。今まで長く活動してきて、そんなの言われたこと一度もなかったのに。それで二人のことを、ますます好きになりました。


ーー(一同笑)


岡田:前作のミニアルバム『GPS』を作っている頃から、明らかに三浦さんが変わり始めてて。歌詞も自分のことだけじゃなくて、外に向けたものになって。はたから見てても、何か吹っ切れた感じがしましたね。何か、自由にのびのびと楽しくやっている感がすごくあった。それが頼もしく感じましたね。僕ら2人も、今まで以上に自由にやれるようになりました。


ーー三浦さん、何かキッカケがあったんですか?


三浦:ZAZEN BOYSとASIAN KUNG-FU GENERATIONのライブを袖で観たのは大きかったですね。ああ、今までの自分の意識じゃダメだと思ったし、このラインに行かなきゃ、お客さんと真っ向勝負しなきゃダメなんだなっていうふうに反省しました。それはでも、気負いっていうのとは全然違って。むしろどんどん素に戻っていったんですよ。自分を素のまま出した方が、ちゃんとお客さんと向き合えるっていうか。心を開いてステージに立つ方が、相手から来るものに対してもちゃんと返せるってことが、ライブをたくさんやって分かったんですよね。だから最近はほんと、わがまま野郎全開です(笑)。


佐々木:今やっているツアーとかすごいですよ。俺らに想定外のこと仕掛けてくるから。


三浦:きっとお客さんも、2人のテンパった顔を見たいんじゃないかと思ってさ(笑)。


佐々木:セットリストにない曲を急にやり始めたりとかね。そういうの、昔だったら考えもしなかったことですね。「決めたことをしっかりやっていこう」っていう感じだったんですけど、今は会場の雰囲気を見て決めたりとか、演奏しながら「次こういうことをやろう」って考えたりとかするようになって。それは自分たちにとっては成長だと思いますね。


三浦:ステージで3人が何をやろうと、お客さんがあったかい目で見てくれる感じはすごくある。最近はやりたい放題だからね(笑)。でも、それがバンドだけで完結するものじゃなくて、みんな巻き込んでやりたい放題にして。結果的に初めて来た人も、一人で来た人も、「面白かった!もう一度行きたい」って思ってもらえるようにしたいっていう気持ちは、バンドもスタッフもみんな同じです。そう、最近は初めての人がすごく多いんですよね。輪はどんどん広がっていっている気はします。


・「とにかく、ずっと音楽をやっていきたい」(岡田典之)


ーーライブのテーマは、『安全かつ健全にはしゃぎ、全員で楽しむ事』ですが、そう思うようになったキッカケは?


佐々木:演奏している側としては、「ここのアレンジをこんな風に変えてみた」とか、「曲と曲の間のタイミングをこういうふうにこだわってみた」みたいな、ライブでしか出来ない工夫を色々考えてやっていて、そういうところまで見てほしいんですよね。そして何より、怪我してほしくない。すべてのお客さんに楽しい気持ちで帰ってもらいたいんです。


ーー三浦さんは、40代や50代の男性ファンが多いらしいじゃないですか。


三浦:そうなんですよ(笑)。なんか、会社の部下みたいに思うんじゃないですかね。「おい三浦、しっかりしろよ」みたいな。


ーーああ、なるほど(笑)。昔の自分を見ている感じもあるのかもしれないですね。


岡田:ああ、絶対それあると思う(笑)。「俺もあんな感じだったなあ」って。


ーー「昔は恋愛でもがいてたなあ」とか。


三浦:(笑)。日々生きてることでモヤモヤする感じとかは、同じこと考えていたかもしれないですよね。それに、「なんかやりづれえなあ」「会社、居心地よくねえなあ」とかは、今も漠然と考えているかもしれない。そういう人たちが、少しでも日常を忘れて楽しんでくれたら嬉しいですね。


ーー以前のインタビューで、「今でも『手を抜けばすぐに需要がなくなる』という危機感はずっと持っていて、特にライブには力を入れてます」と言っていましたが、その危機感は今も変わらず? 


三浦:いや、そういう危機感は今はあんまり感じていないですね、そういえば。昔は、「俺がキッチリ作り込んでやらなきゃマズイ」っていうのがあったんですけど、もう信頼できるチームが出来ているので、危機感というよりは、「このチームの中で自分は何が出来るのかな」っていう気持ちに変わったかもしれないですね。いろんな人がいるなかで、僕にしかできない仕事があって。佐々木も岡田もそれぞれあって、そこで何をどうやるのか?っていう風に意識は変わったと思います。


ーーでは最後に、今後の展望を。


三浦:バンドとしては「代わりの効かないバンドになろう」っていうのが目標です。いろんなバンドがたくさん存在するけど、「こういう気分のときは、空想委員会を聴く以外にないよね」って思われる存在になりたいですね。


岡田:とにかく、ずっと音楽をやっていきたいですね。そのための知識や技量をコツコツ身につけていきたい。


佐々木:個人的には、稲葉浩志さんのバックバンドでギターを弾くのが夢ですね。


ーー佐々木さんはB'zの大ファンなんですよね。彼らのどういうところが好きなんですか?


佐々木:それを話し出すと、あと1時間必要ですよ?(笑)
(取材・文=黒田隆憲)