ギャンブルにハマってしまうと、ろくなことにならない。自分1人が破滅するなら自己責任の範疇で終わることが出来るけど、現実はそうもいかない。
ギャンブルに没入してしまうと、仕事も家庭も、それまでの趣味でさえも、全てが後回しになり、ギャンブルをするためだけの金策に走るようになる。友人知人、職場の仲間に頭を下げて金を借り、家族には嘘をついて金を引き出し、売れるもの全て売り払っても金を用意し、ギャンブルに投じるようになる。そういう人間を何度も見てきた。(文:松本ミゾレ)
俗にギャンブル依存症と呼ばれるこういった人々は、はっきり言ってもう手遅れなんじゃないかと思う。見事に更正できる人間は本当に少ない。ギャンブル依存症は自覚症状がない分、極めて恐ろしい病気だ。
2月8日放送の「しくじり先生 俺みたいになるな!! 2時間スペシャル」(テレビ朝日系)に、元関脇の貴闘力が登場した。この人もまた、ギャンブルで人生を見誤り、5億円も失った過去がある。
野球賭博問題で相撲協会を解雇、依存症は人を破滅へと導く
僕は以前、パチスロ関係のサイトでコラムを書いていたんだけど、基本的にパチンコやパチスロって、大多数のユーザーは節度を持って遊んでいる。生活を圧迫しないぐらいのはした金を使って遊技するのが大人だ。だけどその遊びにマジになって大金を突っ込んでしまう人間が、残念ながら僅かながら存在していた。
ギャンブル中毒者になってしまった人の特徴としては、ビギナーズラックで大金を手にしているという点が挙げられる。貴闘力もそうだ。番組では、新弟子時代に競馬に挑戦し、40万円も儲けたという経験があった。
ほかにも、野球賭博で美味しい思いをした経験や、世界中のカジノで大金を得た思い出。これらが彼の脳を、完全にギャンブル一直線の人間にしてしまった。結果的に彼は相撲協会を解雇されるほどに落ちぶれてしまい、その後も事業を手がけて従業員を雇うも、その売り上げをギャンブルに投じるという依存症っぷりを発揮している。
ところで現在の貴闘力はどうなのかと言えば、自分で売り上げを使いこんでしまったために銀行や知人に頭を下げているうちに、自分が情けなくなって、それ以降はギャンブルをしていないと話している。
では実際にどの程度の期間、ギャンブル絶ちをしているのか。なんとその期間、たった1年半。たった1年半ギャンブルをしていないだけで、番組では、構成の都合上とはいえ、さも貴闘力が更正し、ギャンブル依存症を乗り越えたかのように紹介している。いやいや、ギャンブル依存症の恐ろしさを舐めてはいけない。本当に恐ろしい病気なのだから。
大鵬に借金を肩代わりしてもらうも、またギャンブルするどうしようもなさ
番組で散々ギャンブルの魅力を語ったかと思えば、唐突に「ギャンブルは恐ろしい」と力説する貴闘力には、得体の知れない、気持ち悪さを感じた。
「いくら使っていくら儲けた」というような話を嬉々として話し、同じ口から「後悔しています」なんて言われて、誰が「ああ、この人は本当に後悔してるんだなぁ」と思うのか。
借金をしたギャンブル中毒者が更正するきっかけとして、現実的なものとしては、どんなものがあるだろうか。たとえば誰も助けず、自力で返済する他に道がなくなれば、生まれ変われるかもしれない。でも、実際には周囲がなかなかここまで突き放すことは難しい。
どんなクズにも友人や親がいる。「1度だけなら」と借金を肩代わりする優しい人もいる。だけどこれが良くない。貴闘力もこれまで何度か、膨らんだ借金を肩代わりしてもらったことがあるそうだ。よりによってその相手が、昭和の大横綱、大鵬である。
1994年、大鵬は三女と貴闘力の結婚を心から祝福した。その大鵬が、義父として本気で心配し、貴闘力の借金を返済してしまった。しかし、せっかく借金が帳消しになったのに、貴闘力は再びギャンブルの世界にのめり込んでしまったのだ。
貴闘力はギャンブル依存を克服するきっかけとして「周囲が心を鬼にして、お金を貸さないのが本当の優しさ」と話していたが、それは彼の言う台詞としては相応しくない。彼は本当に親身になっていた大鵬を、かつての相撲界の英雄と称され、日本中で愛されたあの大鵬を裏切ったのだから、これだけは口にしてほしくなかった。
また、ギャンブル絶ちをしている間に、周囲からの誘惑もあったことについても話しているが、結局その誘惑に負けてしまうのは当人の心の資質に原因がある。僕には責任転嫁にしか捉えられない話だった。
悪いことは言わない、少しでも疑いのある人は専門病院へ!
個人的な話で恐縮だけど、ついこの間、知人があらゆる人脈を通じて金を無心していることが分かった。この知人、家庭もあるというのにギャンブル依存症ど真ん中の人生を謳歌していたが、ここにきてもはやギャンブルでいくら大勝ちしようと、返済しきれないぐらいに借金が膨れ上がってしまったようだ。そのせいで家族は毎日泣いている。絶えず届く督促に、家族が心の休まる時間もなくなった。
そんな状態に陥っているのに、まだギャンブルをするための借金をする。限度額いっぱいまで、あらゆる会社から金を借り、ギャンブルをする。こうなっちゃ人間はおしまいだ。
そして僕自身、ギャンブル依存症の父親がいた。父親はこさえるだけこさえた借金をそのままに、逃げ出した。それ以来会っていない。祖父母と母親は黙々と返済していたが、母親は壊れてしまった。自制が効かない人間がギャンブルなんてすべきじゃない。
もしもあなたが、少しでも「あれ? 俺最近ギャンブルのこと考える機会が増えてないか?」と思ったなら、悪いことは言わない。ネットでギャンブル依存症の診断テストをして、結果が怪しいなら、依存症治療の専門病院を訪れてみてほしい。
ギャンブル依存症は自分だけではなく、大切な人を巻き込む恐ろしい病気だ。それを自覚し、治療をし、家族に洗いざらい自分の病気を理解してもらい、周囲を裏切らないためにも、全国各地のギャンブル依存症専門の治療機関を頼ってほしい。
貴闘力は最後に「負けても笑える金額でギャンブルをしよう」と話している。語るに落ちた、というやつだ。彼は今後この言葉を言い訳にして、またギャンブルをしてもおかしくないと僕は思っている。
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