アリさんマークの「引越社」の現役社員が、会社に対して長時間労働や残業代未払いなどを訴えている姿に密着した2月9日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)が、ネットで大きな反響を呼んでいる。
同社は赤井英和さんのCMでお馴染みの業界大手だが、現在全国約30人の元従業員から集団訴訟を起こされている。番組が密着取材した小栗健さん(仮名・34歳)も、「労働環境が劣悪過ぎる」と声をあげたひとり。同社の現役社員でありながら、いまも会社と闘い続けている。(文:みゆくらけん)
事故の弁償金を会社に借金。負のスパイラルに
小栗さんが訴える問題は、月に300時間を超える「長時間労働」や「残業代の未払い」、車両事故の弁償金を社員個人に負担させる「弁償金制度」だ。
カメラに映し出された小栗さんのある月の給与明細には、月の残業が147時間(総労働時間は342.8時間)と記されている。これは国が基準とする過労死ラインの100時間をゆうに超える。しかしこれだけ働いても、手にする給与は27万円余りだ。
さらには業務中に車両事故が起きても、個人に高額な弁償金を背負わす有様だ。小栗さんは事故の弁償金48万円を会社から請求され、会社に借金するカタチで負担した。その際、会社が加入しているはずの保険のことなどは何も教えてもらえなかったという。小栗さんはこのような状況をこう話す。
「長時間労働で体が疲れてきて、運転とか作業中の注意も散漫になって、また事故を起こしてしまう。事故を起こすと、給料から弁償金としてお金が天引きされる。(すると)借金がどんどん膨らんで辞められない状況に。グルグルと負のスパイラルの"アリ地獄"と呼ばれています」
このような状況に疑問を持った小栗さんは、会社に是正を求めるため労働組合に加入し、団体交渉などを通して問題を解決しようとした。労組の書記長によると同社に対する相談は小栗さんが初めてではなく、元従業員が毎週のように相談に来ては加入していく状態だったという。
その言葉遣い、大阪のイメージ悪くなるからホンマ止めて
労組の書記長は、「(引越社は)非常に組織的で悪質な問題だということに気付いた。現役の社員の方が加入すると、これから"制度を変える"という交渉をしっかりとやることができる」と述べている。
しかし会社は、組合に加入し動き始めた小栗さんを突然「シュレッダー係」に異動させた。社員でただひとり、オレンジ色の服を着させられての作業である。あんまりだ。2回の遅刻が異動理由だとする会社。これに抗議した小栗さんに対し、録音していたボイスレコーダーからは上司の怒鳴り声が響いた。
「こらァ、オンドレェ! なんでもかんでも組合の名前出したらいける思うたらあかんど!」
剣幕と威圧感が凄い……。組合が会社前で行った抗議活動に対しても「何してくれとんねんオメエ!」と幹部らが吠えていたが、その言葉遣い、大阪のイメージがまた悪くなるからホンマ止めて欲しい。
さらにこの1か月半後、会社は小栗さんに懲戒解雇処分を言い渡してきた。つまり、クビである。解雇した理由を、井ノ口晃平副社長は「会社の重要書類の漏えいが一番です」と、小栗さんが書類を週刊誌などのメディアに見せたことだと話している。
この後、小栗さんが懲戒解雇は不当だとして裁判所に申し立てを行ったところ、会社から突然「復職」を命じる書面が届けられた。しかし50日ぶりに出勤した小栗さんに用意されていたのは、またもシュレッダー係だった。
「アリさん(意味深)」「奴隷さんやんけ!」
小栗さんと同社の闘いは、東京都労働委員会や裁判を通して今後も続く。会社側は「組合側の主張は理解しがたい内容。裁判所の方で判断を仰ぐしかない」と、小栗さんに対する対応の正当性を強気に訴えている。
一方で小栗さんは、「アリさんマークの引越社は弁償金を返せ!働いても借金が増えるアリ地獄!?ブラック企業を許さない」と書かれた横断幕を掲げ、今日も闘っているが、番組を見た視聴者からは、驚きの声が多数あがっていた。
「今日のガイアの夜明け恐ろしすぎた」
「アリさん(意味深)」「奴隷さんやんけ!」
「アリさんはなんで大きくなったんですか? 社畜の酷使だろうなぁ」
特に給与については、「労働環境も労働時間もおかしいけど、これだけ働いて27万円て。まさにアリ地獄」という声も。ホンマ、アリさんマークが「アリ地獄」とは、なかなかパンチのある表現だ。引越社の幹部もVTR出演していたが「危機感がない」と呆れる人も。
「労働者を敵にまわした会社の商品やサービスは利用されなくなる。それが今の社会。 社会性のある会社に利益をあげさせたいのが現代」
このほか番組では、2015年4月に厚生労働省で発足した「過重労働撲滅特別対策班」(通称「かとく」)が有名小売チェーンを摘発する様子なども取り上げた。今回の放送、テレ東はなかなか踏み込んだと評価できるのではないか。
あわせてよみたい:ブラック企業の「退職後嫌がらせ」の実態