フェラーリは自身が当初目標としていた「2度の優勝」を上回る3度の優勝を達成し、2015年シーズンは期待以上の成果をあげた。
その上でフェラーリは今シーズンも進歩を続け、ポイントを得るためにメルセデスに接戦を仕掛けなければならない。そうなることを期待している人間が大勢いるのだ。しかしながら昨年のプレシーズンとは異なり、現在までフェラーリからは何の声明も出されていない。会長のセルジオ・マルキオンネとチーム代表のマウリツィオ・アリバベーネは、手の内を隠しているようだ。
圧倒的なメルセデスの支配下に置かれる側となったフェラーリは、この2年間でメルセデスにあと少しで手の届くところにまで接近し、チャンスを手繰り寄せ始めていると感じる者もいるだろう。しかしマルキオンネとアリバベーネの発言に注目すると、そこにはマラネロ内に不安があることに気がつくはずだ。
スタッフが団結して努力していけば、今シーズンはメルセデスを追い詰めることができる。昨年は有望だったが、現状に満足していたらこれまでに得たものを無駄にすることになる。マルキオンネはクリスマスに、以下のように発言した。
「自分とチームスタッフに助言をするならば『ライバルによく気をつけろ』だ。2月のテスト期間に入ってからのメルセデスを目にするまでは冷静でなどいられないのだから、今から3月までは苦難に耐え、一生懸命に仕事をしていこう。優勝回数や表彰台回数に関わらず、この期間を最大限に活用してこそ、最後の最後にやっと一息つけるのだ」
アリバベーネはより深刻に不安を感じているようだ。フェラーリが最後にコンストラクターズタイトルを獲得したのは8年前、ドライバーズタイトルに至っては9年前になるのだから無理もない。2016年は再び、フェラーリの年になるだろうか?
アリバベーネは「我々は本当に一生懸命に仕事にあたっている。緊張感を抱いているし、将来に不安を感じて恐れてもいるので、気を抜いてなどいられない。2015年には(コンストラクターズランキング)2位になったが、1位のライバルがこれから何をしていくのかを、常に意識しなければならない。昨シーズンの彼らが一強状態だったことを考えればことさらだ」
「新たなことを始める上での意欲や興奮に起因するものなので、この不安感は前向きで、むしろ良いものだ。レッドブルやウイリアムズといった我々のライバルチームを、ひとつとして過小評価するべきではない。彼らも当然、脅威になり得る。マクラーレンも競争相手になるかもしれない」と語る。
当然ながらすべての目は、またもセバスチャン・ベッテルに注がれる。4度のチャンピオンを獲得し、1993年以来初となる無勝の2014年を過ごしたフェラーリを窮地から救った男だ。マルキオンネは昨シーズン後半に別人のように変化を遂げたキミ・ライコネンが、今シーズンは「驚異的な1年を送るだろう」と期待とプレッシャーをかけている。
予選がアキレス腱となっているライコネンが、少なくとも土曜日の午後にベッテルに近づくことができるようになれば、ふたりはメルセデスのルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグのコンビにプレッシャーをかけることが可能になる。今シーズン開幕に向け、メルセデスが打ち負かすべきライバルチームであり続けるだろうことを、ベッテルは認識している。しかし、その支配に風穴を開けるだけの自信も見せた。
「メルセデス好調の原因はパワーユニットだけではなく、色々な要素の組み合わせだったんだ」とベッテル。
「メルセデスは素晴らしいマシンだったし、大幅な進歩もしていた。彼らのエンジンが強いことは分かっているし、今後もそうであると予想しているから、それについてはわざわざ語らなくてもいいだろう。彼らに挑戦するならば、誰であれ大きな前進が必要だ。そしてそれが僕らの目標なんだ。より強いマシンをつくり上げるために、多くのことを試そうとしている。ライバルチームの会議室で何が起きているのかはもちろん分からないが、マラネロで何が起きているのかは知っている。それはとても期待が持てそうなことだ」
メルセデスの内部にはフェラーリを警戒する声があり、メルセデスAMGハイパフォーマンス・パワートレインのマネージング・ディレクターであるアンディ・コーウェルが最近これを表明している。もしも、ウイリアムズのテクニカル・ディレクターを務めるパット・シモンズが述べた、パワーユニットに関する意見を鑑みると、コーウェルが懸念を抱くのも理解できる。
メルセデスエンジンのユーザーであるシモンズは「正直に言うと、フェラーリエンジンとカスタマー向けメルセデスエンジンの違いは全くないと考えている。放熱とかそういった部分はよく分からないが、そのレベルでの分析はしていない。しかし我々が行うすべての計算で、パワーの面では同等であることを証明している」と発言している。
これが事実だとすると、フェラーリは昨年築き上げてきた進歩の上に、さらなる発展を上乗せしていくことになる。内部の抱える不安が、長年待ち続けた栄光に繋がる可能性すらある。