2016年02月09日 11:11 弁護士ドットコム
いじめ問題に取り組むNPO法人「ストップいじめ!ナビ」(http://stopijime.jp)が2月5日、報道関係者を対象にした勉強会を東京都内で開いた。同団体の代表理事で評論家の荻上チキさんは、現在の報道は「(いじめられた子どもの)命綱になっていない」「マスコミのいじめ報道には欠けている視点がある」と語り、メディア報道の是正を求めた。
【関連記事:「同級生10人から性器を直接触られた」 性的マイノリティが受けた「暴力」の実態】
荻上さんは、いじめ報道のほとんどが、具体的な被害が出てしまった後に、「なぜそうなったのか?」「加害者はどんなにひどいことを言ったのか?」「学校の先生がいかにいじめを見過ごしたのか?」など、いじめの詳細を伝えることに重点が置かれていると指摘する。
いっぽうで、「いじめを議論する上で重要な着眼点である『予防』『発見』『対策』『検証』という4つのサイクルが機能していたのかという検証は、あまりされません。これらの取り組みが他の学校と比べてどう脆弱だったのかという観点も、報道には必要です」と語った。
いじめに関する報道は、学校でいじめを受けていた児童・生徒が自殺したときに加熱することが多い。新聞やテレビでは、いじめの具体的なやり方や遺書の内容が詳細に伝えられ、いじめによっていかに尊い命が失われたかといった側面が強調されがちだ。しかし荻上さんは、そのような報道には問題があると批判する。
「報道が繰り返し人の自殺を取り上げることで、抑鬱している人の背中を押し、自殺という出口があるのだと伝達してしまう。これを『ウェルテル効果』といいます。かつて、ゲーテの著書『若きウェルテルの悩み』に影響された人々の自殺が相次いだことに由来します。
いじめ自殺についても、『こんなに可愛い児童の尊い命が、残虐ないじめによってなくされてしまった』と報道することで、『自殺することでヒーローになれるんだ』『自殺というゴールによって、いじめっ子に復讐できる』という誤ったメッセージを送ることを、メディアは抑制しなければなりません。
ニュース番組でパネルを使って『こんなにひどいことがあったんだ』とセンセーショナルにあおることもあります。メディアは炎上を加速させる方向に向いており、(いじめ被害者の)命綱になっていないのです」
では、いじめ報道において、メディアに求められることは何か。荻上さんは「子どもたちへの影響に配慮した報道をしてほしい」と話す。
「テレビのワイドショーは、大人だけではなく、不登校の子どもが見ることもあります。そうした番組で、いじめられたときの相談先や、『いじめを受けたらこういう記録をつけるといいよ』といった具体的な手段を伝えてはどうでしょうか。
反対に、『今の学校はこんなにひどい』というメッセージを発信すると、ますます学校に行きたくなくなってしまう。今の報道には、いじめ対策の成功例や、いじめに対するポジティブな取り組みに関する報道がほとんどありません。報道が子どもたちにどんな影響をもたらすのか、意識してほしいと思います」
最後に荻上さんは、メディアへの要望として、「最悪の状況から脱することは可能だというメッセージを伝えてほしい」と強調した。「せめて番組の字幕スーパーや記事のはじっこに枠をつくって、困ったときの連絡先を伝えてほしい。困っている人に『出口があるんだよ』と伝えることも、報道の役割です。自殺を止める『ゲートキーパー』にメディア自身がなるんだという意識をぜひ持ってほしいと思います」と締めくくった。
(弁護士ドットコムニュース)