2016年02月08日 18:21 リアルサウンド
2012年に結成され地道なインディーズでの活動を経て、2015年にメジャーデビューしたアイドルグループ、夢みるアドレセンス。ティーン誌のモデルを中心とした編成で、その高いビジュアルと、エッジの効いた音楽性で注目を集める彼女たちが2016年1月20日にリリースしたニューシングル『舞いジェネ!』は、豪華な制作陣でも話題となった。
作詞・作曲にバンド・OKAMOTO’Sのオカモトショウ、編曲・サウンドプロデュースをagehaspringsが手がけ、レコーディングにはOKAMOTO’Sメンバーも参加したこのディスコナンバーには、どのようなプロデューサー陣の戦略と思想が込められていたのだろうか。
今回は、結成段階から現在まで一貫してプロデュースを担当してきた伊藤公法氏に、グループアイドルとしてのコンセプトとその戦略を、ソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズのチーフプロデューサーであり、これまでスチャダラパーやゆらゆら帝国、フジファブリック、凛として時雨などを手掛けてきたチーフプロデューサーの薮下晃正氏に楽曲面でのプロデュース方針をそれぞれうかがった。(武田俊)
・「『クラスにいそうな子』的なアイドルの売り方に、逆張りをする意識も」(伊藤公法)
——改めてですが、夢みるアドレセンス(以下、夢アド)のグループアイドルとしての活動経緯からうかがえますか。
伊藤:夢アドの場合は、まずメンバーありきでスタートしたんです。5人中4人が、『ピチレモン』というローティーン向けのファッション誌でモデルをやっていて。1万人に1人とも言われるポテンシャルを持った彼女たちを、どうアイドルとしてプロデュースするかが、最初の課題でした。
——グループアイドルのブランディングとして「クラスにいそうな子」というものがありますが、夢アドの立ち位置はその真逆とも言えます。
伊藤:例えば、中学の頃、同級生の女子で、すこし話しかけにくいタイプの、クラスの男子ではなく隣の高校の先輩と仲がいいような女子っていましたよね。大体3限終わりに制服を着崩して教室に入ってくる、みたいな。すごく話しかけにくいんだけど案外頑張って話して見ると、意外と優しくてめちゃくちゃイイヤツっていう(笑)。そういう女の子のポジションが、いまのアイドルシーンの中にあったらおもしろいなと。僕自身、そういう子と話せなかった経験もあり(笑)。それを何かいい形にできないか、というイメージから、思春期を意味するアドレセンスを冠したグループ名にしたんです。
——男性なら、誰しもが身に覚えのありそうなエピソードですね(笑)。
伊藤:また一方で、「クラスにいそうな子」的なアイドルの売り方に逆張りする意識も持っていました。2012年に結成し、地道にインディーズ活動を続ける中で徐々にファンも増えていったんですが、特徴的なのがファン層のあり方なんです。
——他のアイドルグループとは異なるんですか?
伊藤:夢アドの無料ファンクラブ会員は、男性と女性の割合が6:4。まず女性の割合がとても多い。この女性ファンの多くが11、2歳の頃に『ピチレモン』読者で、夢アドメンバーからおしゃれの楽しさを学んだという方がすごく多い。イベントなどで他のアイドルグループと楽屋をご一緒すると、「ずっとファンでした!」みたいな会話も巻き起こっているんですよ。
——初発の時点から、同世代の女性ファンがついてきていると。
伊藤:個人的に忘れられないのが、大阪の比較的小さな規模のインストアイベントの際に、同世代の女の子のファンがひとりで来ていて、涙を流しながら彼女たちのステージを観ていたことですね。
——インストアということは、特に照明もない明るい場でライブしているわけですよね?
伊藤:そうなんです。「ここまで情熱的なファンがいるのか!」って驚きました。でも考えてみると、それが夢アドの本質なんじゃないかと思って。
——楽曲面でのプロデュースをされている薮下さんには、夢アドらしさはどう写ったんでしょうか?
薮下:自分はこれまでロックバンドを始めとするシンガー・ソング・ライターを中心にプロデュースしてきたので、アイドルについては正直門外漢でした。そんな中、同世代の音楽業界人の中でもアイドルにハマる人がここ数年凄く多くなっていて。おそらくAKB48やももいろクローバーZに端を発しつつ、BiSやでんぱ組.incなど、ロックフェスに出演するアイドルも現れ、まさにジャンルをクロスオーバーする熱量というものが生まれていた。そんなアイドルカルチャーに興味を持ちながらも、ズバッとはハマれない感覚がありました。
——どういう部分に違和感を感じたんですか?
薮下:違和感というより、僕らのような職業プロデューサーではなく、やはりアイドルに強い強迫観念を持った方が手綱を引いていくべきジャンルだと感じていたんです。でも、初めて夢アドを見た時にそのフォトジェニックな演者としてのポテンシャルの高さに驚きました。アイドルはこうあるべきみたいな固定観念があまり感じられず、モデル出身の女の子たちが何か新しいカルチャーを作ろうとしている。そんな気がしたんですよね。
——特定の色を持ちすぎていないというわけですね。
薮下:そう、良い意味でアイドルとしてのアイデンティティがはっきりしていなくて、見方によっては乃木坂46のような側面もあるし、私立恵比寿中学のような側面もある。個々のモデル、役者としてのポテンシャルと、グループとしてのレンジの広さに魅力を感じたんです。その反面、最終的に何をやりたいのかが解りにくかった。
伊藤:そんな薮下さんの客観的な考えを聞きながら、一緒にディスカッションを重ねていくことで、どう打ち出していくかを固めていったんです。この過程がとても重要。というのも、アイドルグループってスタッフの戦略とモチベーションの影響を受けやすいんですよね。
薮下:ダイレクトに戦略が反映するジャンルだけに、仮にうまくいってないアイドルグループがあるとしたら、それは当人以上にスタッフの考え方に問題があるケースが多いように思います。それを避けるためにも慎重に理論武装をし、コンセプトをユニークなものに仕上げていく必要があります。
伊藤:身内で褒め合うつもりはありませんが、彼女たちのキャリアの中で明確に潮目が変わったな、と思ったのがソニー・ミュージックさんとご一緒させていただいた2015年。様々なアイデアを、多角的に検証することができるようになったことがとても大きかったんです。
・「アイドルマターを踏まえながら、どう逸脱できるか」(薮下晃正)
——では、楽曲を振り返りながら、お二人のお考えをうかがいたいと思います。まず、2015年の『Bye Bye My Days』。メジャーデビュー曲ですね。
伊藤:テーマとしては、インディーズ時からのキーワードである「同世代の共感」「等身大の自分」を踏襲しました。それらをより純度を高く結晶化することを目標に置き、これまでの活動との連続性を意識したんです。これによって、当時はもちろん、これから先もまた力を発揮する楽曲になったと感じています。
——キーワードに連続性を持たせたのは、メジャー化に懸念を感じる既存のファン向けのブランディングだったのですか?
伊藤:そうですね。とはいえ、『Bye Bye My Days』の歌詞をその文脈で読んでみると、すごくエモーショナルにできています。〈新たな景色を見にちょっと急ごう〉といったフレーズは最近聞き直してすごくいいな、と自分でも思ってしまいました。
薮下:すごくわかりますね。僕らはここからご一緒させていただいたわけで、手探りな部分もあったんですが、結果的にすごく深読みもできる新たな門出を感じさせる象徴的な楽曲になったと思います。大きくメジャーデビューへと舵を切りつつ連続性を持たせたことで、インディーズ時代からの世界観とメジャーの雰囲気がクロスフェードして滲んでいる。 振り返ってみると、初めてということもあり、アイドル楽曲としての親和性を過剰に意識していた部分もあったかもしれないですね。
伊藤:アイドルってリリースイベントや対バンなど特殊なレギュレーションが結構ある。そういう部分で導入期の苦労もあったと思います。
薮下:でもすごくここで学びましたね。「なるほど、リリイベってこんなに前からこんなにたくさんやるんですね」って(笑)。お客さんとの暗黙のルールもありますよね。例えば、コールって自然発生的なものではあるんだけど、それをどれだけ誘引出来る楽曲かも重要ですし、落ちサビの存在なんかも特徴的。これまで頭で理解していたつもりのアイドルマターを、皮膚感覚で知る時期でした。
——今のお話を踏まえると、2ndの『サマーヌード・アドレセンス』は、アイドルマターを理解した上での新たなチャレンジと受け取れます。
薮下:夏のアンセムみたいな楽曲を作りたいというイメージがあり、サンプリングという手法を使ってみようというテーマが先にあったんです。夢アドとしてサンプリングしたら面白そうな夏の名曲って何だろうって言うディスカッションの中で、『サマーヌード』が挙がってきた。
伊藤:2ndについては、チョイスをある程度おまかせしました。せっかくご一緒したので、自分の価値観との距離感をある程度持たせることでチームとしてのクリエイティビティーを最大化できると考えました。
薮下:前作で学んだアイドルマターを踏まえながらも、どんだけそこから良い意味で逸脱できるかを僕らは考えていました。アイドルソングって、ライブでみんなで盛り上がるツールとしてはこれほど優れたものはないんですが、一方でアイドルファンではない人が家でアルバム一枚を通しで聴くというのは、ハイコンテクストなので結構難易度高いんじゃないかと思うんですよね。なのでアイドルファンではない方にもライブのみならず日常的に聴いてもらえて、なおかつFMラジオでもかかる夏のアイドル・ソングにできないかと思っていて。
——『サマーヌード』という、夏のスタンダードナンバーを選んだのはどういった意図があったんでしょう?
薮下:様々なアーティストがカバーをしてきた名曲ですが、世代や聴く人を選ばない匿名性を有した楽曲であり、これまでサンプリングもされたことはなかった。そういった意味でアイドル・ソングとしてリコンストラクションしてみたら面白いんじゃないか、と思ったことが大きいですね。実は『サマーヌード』のオリジナル自体僕が当時ディレクターとして手掛けていて(笑)、この趣旨を真心ブラザーズのお二人に直接相談したところ面白がってくれて快諾してくれました! 元曲の歌詞は男子目線なわけですが、女子目線でのアンサーソングとしてトライしてみたかった。
——ちょうどこの時期、アイドルファンではない音楽好きの人がさかんにソーシャルメディアでMVをシェアしていた印象もあります。
薮下:もちろん名曲だけに賛否両論あって当然で、例えば吉田豪さんが「『サマーヌード』好きとしては、いつものサビにいかないのは違和感がある」と言われていました。でも、色んな意味で引っかかってくれた方は多かったんじゃないかな。MVを、初音ミクのオペラ『THE END』のプロデュース、BUMP OF CHICKEN、ぼくのりりっくのぼうよみや、Awesome CIty Clubなど話題のMVも手掛ける東市篤憲さんに、編曲はクラムボンのミトさんにお願いしたことで、敢えてクラシック化している楽曲をアイドル・ソングとして批評的に再構築できたと思います。
——既存ファンの方にはどう受け取ってもらった印象ですか?
伊藤:実験的な楽曲でもあるのでティピカルなアイドル・ソングと比べるとライブでは若干ノリにくそうではありますね。でも、ライブのセットリストとして考えると、バリエーションが生まれ、ライブエンターテインメントとしては豊かなものになったと思います。中盤戦が始まる前や、アンコール1発目などに配置することで、会場の雰囲気を変えることができる。
薮下:アイドル・ソングとしては、異質な曲なんです。でも、夢アドを知らなくてもDJ的な感覚でも使ってもらえる曲になりましたね。この曲くらいから「なんか変な大人たちが絡んでるんじゃないか?」って認知され始めている印象もありますね(笑)。
伊藤:リリース後にTwitter上で多く聞かれた声としては、「ドラマで歌ってた山Pの曲がパクられてる!」っていうものでしたね(笑)。色んな意味で話題にしていただけました。
薮下:これは余談ですが、元曲の『サマーヌード』はその後に真心ブラザーズ自身が『ENDLESS SUMMER NUDE』という形でセルフカバーしていて、このバージョンを「サマーヌード」として認識している方が多いんじゃないかな? この時ののアレンジはSMAPなども担当されているCHOKKAKUさんで、NEWSの山下さんのカバー時にも、オマージュとしてCHOKKAKUさんが再度アレンジを手掛けています。そしてその時の演奏は、何と今回の『舞いジェネ!』をお願いしたOKAMOTO'Sだったんです! リレー的に繋がっていて、僕らの間では、真心自身のセルフ・カバーの『ENDLESS SUMMER NUDE』、NEWSの山下さんの『サマーヌード』、そして『サマーヌード・アドレセンス』の3曲をして勝手に"サマーヌード・トリロジー"だねなんて話したりしていました(笑)。
・「『舞いジェネ!』はターニングポイントとなる」(薮下晃正)
——『サマーヌード・アドレセンス』のルーツが今回の『舞いジェネ!』にまで繋がっていたわけですが、そんな同曲についても構想からうかがってみたいです。
伊藤:「アイドルグループの3rdシングルは重要」だという定説があって、まずそこを意識しました。スタッフ内でもお互いの手札やその切り方がわかってきた頃で、1番脂が乗っている時期なので、ファンの方が1番盛り上がれる曲を考えたんです。これまでの夢アドはギターロック調の楽曲が多かったんですが、そこから抜け出て踊れる楽曲はディスコナンバー。まずここが決まりました。
薮下:僕は夢アドについては、常に変化し続けることをアイドルとしてのメソッドにしていきたいと思ってきました。夢アドらしさを考えていた時、元々「思春期解放戦線」みたいなアグレッシブなテーマが期初にあったことを思い出したんです。10代の革命応援ソングをイメージした際に、そこに合う音楽としてもディスコはぴったりだろうと。一方でアイドルソングというジャンルにおいてレイド・バックしたディスコナンバーはこれまでにも数え切れないほどあったわけで、そのクリシェからどう逸脱するかで悩みましたね。
伊藤:もう一方の革命といったテーマについては、思春期である彼女たちが自分たちの世代を鼓舞するという姿勢を打ち出していくことを描きたいと思いました。ちょうどそんな話をしていた時に、18歳の参政権や、安保に対してのSEALDsの活動が話題になっていたんです。
——何かを刷新するために、同世代に対して強く呼びかけていく、と。
薮下:政治的なイデオロギーは別としても、SEALDsについてはユースカルチャーとしてのパワーをすごく感じていて。10代から20代前半の若者が嫌なものに対してちゃんと思考し、直接的に行動していることに衝撃を受けたんです。
——世の中の大きな動きに対して、リスクがあっても自分たちの価値観を表明するということですよね。
薮下:世代的にも夢アドのメンバーが国会前でスピーチしてても、おかしくないのかもしれない」とも考えましたね。デモという形式ではなかったとしても、10代の子たちが世の中に対して物申していく時代なんじゃないか? そんな風に思えた時に、じゃあどんな音楽がそこにハマるのか?例えば国会前のデモのコールみたいに聴く人たちを鼓舞していけるのかと。ここはかなり悩んだ部分です。
伊藤:インディーズ時代から含めた現時点での集大成という意味合いもあり、インディーズ時代に楽曲プロデュースを依頼していたagehaspringsさんにアレンジをオファーすることだけは決めていたんです。カルチャーとエンターテイメントとのコラボレーション、J-POP界きってのアレンジ集団agehaspringsさんにカルチャーとしての何を素材として加味するのか?それを判断するのに時間がかかりましたね。
薮下:そんな時に知人でもあるOKAMOTO’Sのレイジくんにどこかのイベントで偶然あって、彼らの『OPERA』という新しいアルバムのサンプルを手渡されたんです。これがロックオペラとして仕上がった、多彩な音楽性を感じさせる素晴らしいコンセプトアルバムだったんです。これだけ広い間口を有したOKAMOTO'Sだったらこれまでに無いアイドル・ソングを作ってくれるんじゃないかと思い曲をお願いして、agehaspringsさんと融合させてみることにしました。歌詞はオカモトショウくんにこれまで話したようなテーマを提案させてもらい一緒に練っていった感じです。
——今改めて歌詞を見てみると、印象的なフレーズがいくつも目に入りますね。
薮下:ショウくんとも「日本がもし終わっても」なんて過激なこと歌ったら怒られたりするんじゃないか、とか話していたんですが、意外と全然そんなことなかった(笑)。「ちょっと日本ってもうヤバいよね」「どうなっちゃうんだろう?」っていう空気感が生まれている中で、「大人たちの都合でそんな簡単に終わらせないよ、だってまだ思春期だもん!」というコンセプト。最近メンバーたちも現場で見ているとこの曲に感情移入して気持ちよく歌っているのも印象的です。
伊藤:何度も自分たちのグループ名が登場しますし、自分事として歌詞を歌えているんでしょうね。
薮下:当初の歌詞はもっと、彼女たちを神目線のアイドルの救世主的な形で描いていたですが、ちょっと待てよと。いきなりまだ新人アイドルの夢アドが代表して「がんばれ!」とか言っちゃうのはあまりにも僭越じゃない(笑)? ということで、敢えてアナグラムとしてグループ名を歌詞に組み込んでいくアイデアが生まれたんです。そこで「日本がもし終わっても夢みるアドレセンス」というフレーズが出てきて、これはロジックとしても通るし、キャッチーでいいんじゃないか、となっていったんです。
伊藤:奇しくも昨今色んなスキャンダルが乱立して、Twitterやソーシャルメディアでも話題になっている中で、色々な面で時代と符号している楽曲になったのは感慨深いです。「舞いジェネ!」というタイトルも、何度も深夜までみんなで考えあぐねた結果出てきましたよね。
薮下:イメージのもとになったのは、ショウくんが歌詞に入れこんでくれたThe Whoの『マイジェネレーション』でした。「大人が価値観を押し付けてくるけど、俺たちの時代はこれだ」という60年代のメッセージは、現代の日本においても普遍的であり『舞いジェネ!』でも踏襲しています。 タイトルは『マイジェネレーション』×『ラブジェネ』って感じの言葉遊びからですかね(笑)
伊藤:世相に対してアジテーションになっている歌詞は、同時に、アイドルシーンの文脈で言っても、まさに「ここからが夢アドの時代だ!」という高らかな宣言になっているような。
——すでにリリースイベントがスタートしていますが、現場ではどんな受け止められ方をしていますか?
伊藤:裏方のロジックはさておき、サビのフリにあわせてみんなが踊っているという事実が重要だと思っています。綿密に考えてリリースしたものが、理屈抜きで盛り上がる楽曲に仕上がったことは大きな成功だと思います。
薮下:これは勝手に思ってるんだけど、女の子にカラオケで「日本がもし終わっても」なんて歌ってもらえたらエモくないですか(笑)? すごくグッとくると思う。経済にしても政治にしても、ニュースなんて絶望的な話題しか今出てこないじゃないですか。そんな気分にピッタリと寄り沿っているダンスチューンなんじゃないかな。
——これからもイベントで、研ぎ澄まされていくのでしょうね。
薮下:『舞いジェネ!』は夢アドにとっておそらくターニングポイントとなる曲だということは、間違いないでしょうね。例えばモーニング娘。の『LOVEマシーン』なんかは、アイドル・ソングなのに洋楽テイストなディスコ・アレンジと当時の世相を反映したアグレッシヴな歌詞が共感を呼んでクラブでもガンガンかかりましたよね。そうやってアイドルの範疇に留まらない受け取られ方をしたことで、社会現象にまで広がっていった。そう考えると、夢アドのストーリーはこの『舞いジェネ!』から新たに始まっていくという予感があります。
伊藤:ディスカッションを繰り返しこれ以上はできない、というところまで突き詰められた純度の高い楽曲なので、リリースイベントが終わった後も、手厚く世の中にプレゼンテーションしていきたい。本当にアイドル文化って、とても楽しいものですし、生きがいになり得るんですよ。その楽しさを広めるためにも、ももクロが格闘技文化圏を、でんぱ組.incがネットカルチャーを巻き込んでいったように、他の文化圏の人たちに好きになってもらいたいです。
——逆に言えば、次のリリースがすごく難しくもあるのかな、とも感じます。
薮下:そうですね。ただ、次も広義な意味でダンスミュージックが大きなテーマにはなっていくでしょう。それはジャンルに固執するわけでは決してなく、例えばそれが所謂ロックだったとしても、もはや「ダンス」は絶対に欠かせない要素であるということです。ロキノン系のバンドで言えば、KANA-BOONとかKEYTALKでも4つ打ちのダンス・チューンはセット・リストから決して外せないものですよね。そういった意味でも、ダンスミュージックとしての要素を取り入れることで、アイドルソングでもポップスとしての汎用性を持ち得ると思うんですよ。
伊藤:夢アドのファンの子ってとてもいい子が多いんです。クラブで朝まで遊ぶみたいなことにはまだ少し抵抗があるけど、踊ってみたい。そんな子たちが踊れる楽曲をつくっていきたいです。
薮下:重要なのは常に時代の感覚を呼吸して変化し続けることです。個人的に好きなのが、知り合いの飲み屋の親父が「老舗のレシピがあったとしても、毎日素材も客も全ては変わるんだから、味の方も常に変化し続けないと同じ味は出せない」って言ってたこと。これはアーティストもそうで、一見安定しているように見える人ほど、試行錯誤を繰り返しているんです。夢アドも一つの形に固執しないことで、夢アドとしての魅力を維持する。そんなやり方をしていきたいですね。
——そんな変化の先にある、完成形みたいなものは想像されているんですか?
伊藤:夢アドの最終的なビジョンとしては、思春期を応援するという切り口におけるプラットフォームになれたらと思っています。何者かになりたくて夢みる人は年齢関係なくみんな思春期だと思ってて。夢アドというプラットフォームがどのジャンル、どの職種、どの媒体、どの作品とも符号するものになったらいい。
薮下:僕が、ティーンネイジ・ドリームという言葉を使っているのもその意味です。グループ名の通り、全ての人が「思春期を永遠に夢みる」ためのインフラとして機能していけたらおもしろいですよね。アメリカでは、ドラマや小説、音楽においてもヤングアダルトみたいなテーマがあるように儚いからこそ「永遠の10代」を夢想する、素晴らしい10代のまま死にたい!みたいな価値観が当たり前のようにあります。、日本にはそこまでの感覚はまだリアリティがないけど例えば、現メンバーが卒業した後もプラットフォームとして続け、ある種のヤングアダルトをテーマにしたアイドルのリアリティ・ショーのように見せていくこともできるのかもしれませんね。
伊藤:マーケティング的な観点から言うと、最終的には今の10代とどうコミュニケーションをとったらいいのかが、メディアや企業の人もわかりにくくなっている。強烈におもしろいものにしか今の若い子たちは紐付いてないんだけど、そのおもしろさが多様化しているのが現状です。そんな同世代の、文字通りアイドルとしての役割を夢アドが担えないかと思ってます。
薮下:重要なのは、どうやってそれをサスティナブルなものにするかでしょう。音楽業界全体を見ても、今やデバイスやマネタイズの手法が多様化している状況の煽りで、危機感ばかりが増長されてしまっている。その中では、どう売るのかではなく、それこそコンテンツ自体の魅力が全てであるという本質的な考え方に戻る必要があるかとも思います。一方で先のことが分からない時代であることを寧ろ楽しんで、現状の市場やコミュニティを意識しながら常に変化を続けるべきなのではと考えています。
(取材・文=武田俊)