トップへ

GRAPEVINEが明かす、楽曲制作の現場で起きていること「良いメロを普通に仕上げるやり方は求めていない」

2016年02月08日 16:21  リアルサウンド

リアルサウンド

GRAPEVINE(写真=竹内洋平)

 GRAPEVINEが2月3日、通算14枚目のオリジナルアルバム『BABEL, BABEL』をリリースした。プロデューサーに高野寛を迎えた本作は、高い作曲センスを改めて印象付けた前作『Burning tree』を“さらに押し進めたい“との思いで制作されたという。今回のインタビューでは、実際の収録曲を手がかりに、自由度の高いバンドサウンドがどのようにして生まれたか、じっくりと語ってもらった。聞き手は音楽評論家の小野島大氏。(編集部)


・「前作(『Burning tree』)をより押し進めたいなと」(西川弘剛)


ーー前作からちょうど1年。相変わらずリリースはコンスタントですね。


田中和将(以下、田中):今回はたまたま前のアルバムのツアーが終わりそうな頃ーー6月の後半ぐらいから、制作に入れたので、1年というタームで出せましたね。


ーーツアーの間には既に楽曲があったんですか。


田中:いえ、楽曲は全然なかったんです。時間の空いてる時にジャム・セッションをやって作っていきましょうと話して。


西川弘剛(以下、西川):ツアーが始まるぐらいの時から、次のアルバムをどう作るかというミーティングをずっとしてたんです。で、早めに取りかかっていこうという結論だったんですね。今ライブは週末しかやってないので、週の半ばとかすごいヒマなんですよね。機材さえ東京に帰ってきてくれれば、スタジオに入ってジャム・セッションはできるので。


田中:曲もゼロから作ることが多いので、早めにスタジオに入って形にしていこうと。


ーー少しは間を置こうとは思わなかったんですか。


西川:2年でアルバムを2枚リリースするプランだったんで。それを考えると、それぐらいから始めたほうがいいかなと。


ーー最近楽曲はジャム・セッションからできることが多いんですね。


西川:誰かが持ってきたものから構築していく場合もあるし、なきゃないでジャム・セッションで1から作ろうかなと。両方ですね。


ーーどういうアルバムにしようという話し合いはあったんですか。


西川:具体的には特になかったんですけど、その時話に出たのは、前作の延長線上にあるものを作る方向がいいかなと。それを進めるにあたってどういうプロデューサーを立てるのがいいかなという話をずっとしてましたね。


ーー前作はけっこう手応えがあった。


西川:僕自身はすごく満足してて、あれをより押し進めたいなと思って。そのために新しい血を入れ替えるというか、プロデューサーに力を借りようと。


ーーそれが高野寛さん。


西川:いろんな候補があがってて、かなり話し合った結果高野さんにお願いしました。


ーー前作はGRAPEVINEの歴史の中でどういう位置づけにある作品なんですか。


田中:位置づけ…は難しいけど、作品としてはなかなかいいのができたと思ってますし、それまでやってきたことの集大成として、いいところは出せたんじゃないかという感触はあります。客観的に見るのは難しいですけど。


ーーレーベルも事務所も移籍第一弾だったわけですよね。新しいスタッフも加わって、新たな刺激があったんじゃないですか。


田中:そうですね。特にビクターの担当ディレクターは僕らより若い世代で、こういったタイプの楽曲を作ってみませんか、とか。その通りに作るわけではないけど、そういう意見を積極的にくれるのは非常に嬉しかった。とっかかりになりますから。それで前作の『Burning tree』はできたりしました。そういうモチベーションには繋がったんじゃないかと思います。


ーーなるほど。


田中:移籍することで考える時間もできましたからね。バンドのあり方とか音楽業界とか。そういうところではすごく刺激になったと思います。


ーーそういう刺激があって、前作では自分たちのどういう部分が出せたと思いますか。


亀井亨(以下、亀井):時間があったので、結構作り込んだ作品になったんです。セルフ(・プロデュース)でやったもののひとつの完成形みたいなものにはなったかな、と思いますね。こうやれば自分たちで作れる、という。


ーー今作ではそこで得た手応えを発展させるようなものを作りたかった。


西川:そうですね。


・「(高野寛さんは)外れた、壊れた部分もちゃんと理解してくれる方」(田中和将)


ーー高野さんになった決め手はなんだったんですか。


西川:候補はたくさんいたんですが、高野さんは一番守備範囲が広いんじゃないかと思ったんです。僕らの要求をちゃんとわかってくれて、ギター・バンドに対する理解も広いイメージがあり、かつエレクトリックな部分も強いんじゃないかと。


田中:全然接点はなかったんですけど、高野さんがアート・リンゼイとジャムってる映像を見まして。ギターですごいインプロヴァイズしてるんですけど。あ、こういう振れ幅を持ってらっしゃる方なんだなと思いまして。それでたまたま、とあるイベントでご一緒させてもらったんですよ。その時にちょっと探りを入れてみて(笑)。ほかにもたくさん候補の方はいらっしゃったんですけど、まったく楽曲のない段階でプロデューサーだけ先に決めるという流れがあったので、そういう意味で幅のある、応用の利く人がよかったというのもあります。


ーー高野さんといえば一般にはポップな歌ものが得意という印象もありますが、むしろそうでない部分が魅力的だった。


田中:そうですね。僕としてはそういう外れた、壊れた部分もちゃんと理解してくれる方なんだろうなと、というところが決め手になったところもありますね。


ーーもともと山本精一さんとやってたような方ですからね。


田中:ええ、ええ。そういうところに惹かれたというのはあります。


ーー高野さんとはどういうお話をされたんですか。


西川:最初リハスタで僕らがジャムセッションをやってる時に遊びに来てくださって。そのあと一緒に飲みにいったんですね。その時に話したのは、もうワン・アイディア欲しい場面は一杯あるので、そういうところは遠慮なく言ってほしいと。血を入れ替えたい場面はたくさんあると思うから、どんどん言ってもらえると嬉しいみたいな話はしました。


ーー高野さんはGRAPEVINEに対してどれだけ予備知識があったんですか。


西川:それは聞いてないですけど、想像するに、もう18年とかやってるバンドなんで、入りづらいだろうなと(笑)。そこにポンとよその人がやってきて、なんでもいいから好きに言ってくださいと言われても、なかなか難しいだろうなとは思いましたけど、そこは遠慮なくなんでも言ってくださいと。きれいにトリートメントしてほしいわけじゃないから。


ーーむしろ自分たちの殻を壊してくれるぐらいの。


西川:そうですね。目からウロコみたいなアイディアがたくさんあればいいな、ぐらいの気持ちでお願いしました。


ーー今回高野さんがプロデュースしたのは全部亀井さんの曲ですね。


亀井:それはたまたまですね。高野さんが関わってくださる時期が限られてたので、その時期にできあがってもっていったのがたまたま僕の曲が多かったので。


ーー亀井さんの楽曲はどの程度完成させてバンドに持ち込むんですか。


亀井:家で1コーラス分ぐらいの簡単なデモテープを作って、みんなに聞いてもらって、だいたいのイメージを説明して、あとは全員で広げていくという作業ですね。


田中:亀井君が持ってきてくれる曲は、ジャム・セッションをするネタみたいなものなんですよ。彼が作ったメロディとコード進行があって、それをとっかかりとしてジャム・セッションをする。作曲クレジットが"GRAPEVINE"になってるのは、元となるメロディもコード進行も何もない状態でジャム・セッションして作った曲、という違いなんです。この曲がどういう曲でどういう方向に持っていくのか、見定めなければいけないんですけど、そこで言葉を交わして話し合うというよりは、とにかく音を出すうちに定まっていく。


ーーなるほど。


田中:たとえば「SPF」で"ジェイムス・イハみたいな曲"というイメージがあれば、それを伝えてもらってみんなで共有したうえで、さあどうしていくか、という話です。


ーーそこで高野さんも加わって、チームのひとりとしていろいろ意見を言う。


田中:そうです。そこでパッと電気が点いた人がいれば、いろいろアイディアを交わして付き合わせながらやっていく。


ーー高野さんとやってみて面白かったことはなんですか。


田中:最初プリプロに来てくれてる時は、きっと遠慮がちだったと思うんです。こちらもそれなりに長くやってるバンドなんで、暗黙のルールみたいなものがきっとあるはずだから、外の人から見れば。最初はそういうものを探りながらの様子見だったと思う。でも高野さんにもうワン・アイディア、もう一ひねりみたいなものを求めたいという趣旨はすごく気にしてくれてたと思うんです。そこで手際よくその場でシーケンスを組み立ててくれたりとか、そういうことはいろいろしてくれましたね。


ーー長年やってきたGRAPEVINEの癖やルーティンに高野さんの新しいアイディアを加えて違うものに変えていった。


田中:もちろんまったく違うものを求めてはいるんですけど、曲にとってうまくいくかどうかが大事なんで。だから結果的にみればそう大きな変化があったわけではないかもしれないけど、けど高野色は確実に出てるし、高野さんがいなければこういう形にはならなかったと思いますね。アレンジ、構成、音色…演奏にも1曲参加してもらってます。


ーー高野さんがクレジットされてない曲は、バンドだけで仕上げたわけですね。


田中:そうですね。ただわりと早い段階からプリプロに来ていただいてたので、プロデュース名義になってなくてもアイディアをくれてる曲は何曲かあります。


・「さまざまなバリエーションがある中で、歌ものがあったほうがいい」(亀井亨)


ーーこれだけの高いクオリティの作品を短いタームでコンスタントに、しかも同じメンバーで作り続けている。長いことやっているアーティストにとって、いかに創作のモチベーションを高く維持するかは大事だと思いますが、グレイプバインの作品はいつも新鮮でテンションも高くて、ルーティン・ワークという感じが全然しないですね。


田中:ありがとうございます。


西川:いいタイミングで、いろんなプロデューサーの方と一緒にやってきてリフレッシュしてきてるというのもありますし、近年になって、セッションで曲を作るという新しい制作方法を取り入れてるのも、ルーティンにならない原因だと思います。あと…ルーティンになっててもいいかなって思う節もあるんですね。別にいいじゃないかという。なにがなんでも新しいものを求めなくても、同じことを繰り返してもかっこよきゃそれでいいかな、という開き直りみたいなものもちょっとあって。そういうふうに考えてるから、ちょっと楽なのかもしれないですけど。


田中:僕個人は最近家で曲を作らなくなってるんです。ジャム・セッションで作る方が僕にとっては刺激的なんですね。聴く音楽の傾向もどんどんそうなってきてる。AメロBメロサビ、みたいなありきたりの楽曲に飽き飽きしてるような自分もいるんです。でもジャム・セッションから作ることで、刺激的な曲がどんどんできてきてる。そういうところでモチベーションを維持できて、ルーティン・ワークにならないで済んでる、という気はします、バンドの楽しみ方として。


亀井:セッションでできる曲と家でできる曲って違うんですよ。セッションで作ると、メロディのある曲ってできにくいので、僕は家でメロディのあるような曲をネタとして作ってもっていくようにしています。さまざまなバリエーションがある中で、歌ものがあったほうがいいと思うので。


田中:申し訳ないんですけど、(メロディのある歌ものは)そこに一任してるようなところがありますね(笑)。いい歌ものはきっと亀井君が書いてくれるだろうっていう(笑)。


西川:要は曲がいっぱい集まればいいわけで。


田中:いろんなことがやれる、いろんな曲ができる、というところに持っていきたいんですね。


ーーつまり最初のきっかけは、スタジオに集まって3人が音を出した瞬間に始まる、と。


西川:明確に「こういうものを作ろう」というよりは、演奏を楽しむところから始まってますね。


ーー長いことやってるとお互いのことはだいたいわかってきますよね。こう出れば相手はこうくるだろう、という。それはマンネリに繋がりかねないんじゃないですか。


西川:いや、マンネリだと思うんですけどね。でもたぶんちょっとずつ組み合わせがずれてるから、新鮮な気持ちになる瞬間があると思うんです。一回セッションを始めると2時間3時間やってるんですけど、ほんとに数分だけですけどね、いいなと思えるのは(笑)。


田中・亀井:ふふふふ(笑)。


西川:そこから広げていくという。もうほとんど使えないです。それを聞き返す作業が相当苦痛で。3時間やったら3時間分聞き返さなきゃいけないんですよ。


ーーめちゃくちゃ大変ですね、それ。


西川:そうすね。あれさえなきゃいいのになって、いつも思います(笑)。


田中:そのジャム・セッションってテープを回すわけじゃなくてコンピューターで録音してるわけじゃないですか。すると(聞き返さなくても)波形を見てもある程度わかるんですよ。曲っぽくなって収束して、また曲っぽくなって収束して、っていう瞬間がだいたいポイントポイントであるんです。それを適当に飛ばしながら聴いていくわけです。


西川:歌ってるところと歌ってないところがあるし。


ーーああ、歌も歌うわけですね。


田中:もちろんアドリブですけど、なんとなく歌があったりなかったり、リズムやコードが変わったり、という波がどんどん繰り返すので、それをポイントで聴いていく。


・「セッションで曲のモチーフを見つけにいく」(西川弘剛)


ーーセッションで作るというバンドは結構いますけど、GRAPEVINEはどういう作業になるんですか。


西川:セッションですべて作るというより、モチーフを見つけにいく、という作業なんですね。いい部分を見つけて構築して、それを譜面に書いて、また演奏して、という。


ーーああ、一度譜面に起こすわけですね。


西川:構成を簡単に作って、それをもとに演奏して、そこからまた変わっていくんですね。


田中:一般的なジャム・セッションで作る曲のイメージとは違うかもしれないですね。ジャズっぽかったりブルースっぽかったりする曲が、いかにもジャム・セッションから作った曲だとすれば、どちらかといえばネタを見つけるためにセッションなんで。


西川:ここのリフと、全然違う時間軸のドラムを組み合わせたり。セッションなど何が出てくるかわからないので、そういうことができるんですね。そこに勘違いもたくさん入ってくるわけですよ。それが面白かったりする。


ーー勘違い?


西川:ジャム・セッションの前にお題みたいなものを設定するわけですよ。今日はどんな曲をやろうかって。


田中:みんなでユーチューブとか見たり、誰かが持ってきたiPodを流してみたり。最初はそれでボーッと2時間ぐらい音楽を聴きながら、何をするかってところから始まる。


西川:それでたとえば「オアシスみたいな曲にしよう」というお題を設定してセッションを始めても、それぞれが持ってるオアシス像が全然違うわけで。


ーーそのズレが面白い。


田中:本気でそれに寄せようとしてるわけじゃないですからね。「SPF」はジェイムス・イハっぽい曲を作ろうとして始めたかもしれないけど、そこにそれぞれにジェイムス・イハ像が投影されて、違うアイディアもどんどん入ってくる。元のイメージからどんどん離れていくんですけど、それが面白いと思うんですよ。


ーーそういう刺激が自分たちの創作のエネルギーになる。


西川:ズレていってるからこそ固執しなくていい。元(の発想)からは全然違うところに来てるから、全然関係ないものを突っ込んでも問題ないというか。自由度が凄く高いんですね。最終的には誰もオアシスのことなんて覚えてなかったりする。


田中:たとえばそれはリズム・パターンだけでもいいんです。こういう感じのリズムをやってみようと思ってセッションする場合もある。そういうところから何かを思いついたりする。


西川:適当にコード進行を書いて、この2コードだけで回していこう、みたいな時もありますね。


ーーああ、同じコード進行やフレーズをずっとミニマルに繰り返していくと、いつのまにか別の景色が立ち上がってくるような。


田中:そうそう。


西川:突然曲っぽくなる時が一瞬あったりするんですよ。


ーーみんな同じことを繰り返しているようで、だんだんずれていって。


西川:同じことをずっとしないんですよね。いい感じになる瞬間がどこかにある。


田中:それぞれが同じコード進行を繰り返しているようで、なにかしらネタにしようと思ってやってるわけですから、それぞれが。なので少しずつ変えてくる。それが合致するときもあればしない時もあるけど、そういうのを面白がって、どうにかしてネタにする。


亀井:間違って弾いたところが面白かったり。勘違いして次の展開にいったり。


西川:人のフレーズを真似して、壮大なユニゾンになったり。


田中:どこがリズムのアタマかわからなくなったりすることもある。そういうのもあとから聞くと面白くて、なんとか再現したいと思ったり。


ーーそれが最終的に実験的な即興音楽みたいなものじゃなく、GRAPEVINEなりのポップ・ソングに昇華しなきゃいけない。


西川:そうですね。なのでできあがった楽曲にはセッション感はなくて。ネタを探して、それをうまくコラージュして曲っぽく仕上げていくわけです。


・「自分色しかないのが、いいと思えない」(田中和将)


ーーGRAPEVINEは歌ものの音楽って意識はあるんですか?


西川:う~~~~ん…


田中:こだわってはいないですけどね、もはや。でもインストをやろうってわけでもないですね。


ーー田中さんの歌が中心にあることが前提で曲を作ってるわけではない?


田中:前提は前提じゃないですか?自分たちが好んで聞いているものもそうだと思うので。


西川:でもこだわりはもう、そんなにないかもしれない。ずっとインストで、最後にちょっと歌が出てくるような曲でも大丈夫かもしれない。


田中:うん。


ーー「大丈夫」って?


西川:「こんなの曲じゃない」とは言わないと思うんですね、誰も。4分間インストで最後の1分だけ歌った曲でも、GRAPEVINEの音楽として成り立つと思う、もはや。


田中:うんうん。


西川:そういう意味で「歌もの」ではないかもしれない。


田中:もちろん良いメロの良い曲は大好きですから、いわゆる歌ものもやるし。


ーーセッションで作った曲のメロディってどうやってつけるんですか?


田中:僕がジャム・セッション内でなんとなく歌ったものを、あとでちゃんとしていく感じですかね。


亀井:このフレーズは良かったな、みたいな感じで拾って。


田中:歌も同じですよ。その拾ったフレーズを元に広げていって、ちゃんと歌っぽくしていくという。


ーーじゃあよくあるような、ギターを弾き語りしながら作っていくような作り方ではまったくない。


田中:してないですねえ。


西川:断片的なものを拾っていってますね。


田中:むしろ断片と断片をつなぎ合わせて面白いと思えないと、なかなか先に進まないですね。


ーーポスト・ロック系のバンドみたいな作り方ですね。


田中:やり方は完全にポスト・ロックなんじゃないですかね。


ーーシンガー・ソングライター的な作り方ではない。


田中:もちろんシンガー・ソングライター的なものも大好きなんですけどね。でも、ヴォーカリストがそんな感じで曲を作ってこないですからね(笑)。


ーーなぜそういう作り方をしなくなっちゃったんですか?


田中:なんかね、自分色しかないのが、いいと思えないんですよね。面白いと思えない。


ーー自分色に染めたいと思う人も一杯いるでしょうけど。


田中:むしろ多いでしょうね。ワンマン・バンド的な。でも僕はそういうのじゃあんま面白くないんですよ。


ーーいつごろからですか?


田中:近年はずっとそういう感じです。自分の中でいろいろ矛盾があるんですよね。歌ものも大好きだし、良いメロの良い曲ももちろん大好きなんですけど、それを普通に仕上げるやり方は求めていない。


ーーつまり音楽の形態というより、作り方にこだわりがあるってことですかね。


田中:そうかもしれません。


・「こういうスタンスの作り方で一石を投じられればいい」(田中和将)


ーーご自分の強みってなんだと思いますか。


田中:なんでしょうねえ。それなりにいろんな音楽を聞いてきて、それなりにいろいろ対応できる感じとか、ですかね。


ーーGRAPEVINEの強みってなんでしょう。


西川:うーん…いくつかあると思うんですけど…悪ノリを楽しめるとこだと思うんですよね。その…あまりこんな感じで(視野が狭い仕草)音楽に向かってないというか。もっと面白がって悪ノリを楽しめる。そういう盛り上がりをするレコーディングが多い。


ーー決めごとにとらわれない。


西川:うん。あまり熱いことを言う人もいなくて。「そんなのダメだよ」って(頭から否定するようなことを)言う人もいない。禁じ手みたいなものがなくて、なんでも面白がってやっていける。それが強みじゃないですかね。たぶん一人のシンガー・ソングライターの人が中心にいるような現場は、そういう風にはならないんじゃないかな。その人のイメージがはっきりしてて、それをみんなで探し求めていく、みたいな。ちょっと窮屈そうな気がする。


ーーGRAPEVINEみたいな歌もののバンドは、歌がどっしり中心にあって、ほかのメンバーはそれをバックアップする、という意識でやってるバンドが多いと思いますけど。


田中:そうですね。


西川:歌が真ん中にあるのが前提ですけど、すべてをバックアップしてるかっていうと、そんなことは全然ないですね。相当歌いにくいだろうなと思って作ってる場合もあるし。


田中:今回のアルバムもそういう部分あるしね。


西川:こんなことやったら、たぶん普通のヴォーカリストだったら怒るだろうなって思うようなことも。あとで歌をずらしたりとかね。「こっちの方が気持ち悪いから」って。自分のタイム感じゃないところに歌をずらされて、普通なら怒ると思うけど。うちのバンドだから許されるのかなと。


ーー気持ち悪くなるようにずらす?


西川:その場合は、気持ち悪いのが欲しかったから。もっと気持ち悪くしたいから、歌をずらす。


田中:そのずらすタイミングを探して。


西川:ちょっとじゃなく、16分音符とか8分音符のタイミングでずらすわけです。全然素っ頓狂なタイム感で歌い出すような形にしたいと。延々気持ち悪いところを探すんですよ。普通怒りますよね、そんなことしたら。


ーーライブが大変そうですね。


田中:大変ですねえ。どうしたらいいのか…迷ってますけど。


ーーでもそういうのが面白いわけでしょ。


田中:面白いですねえ!


ーー(笑)そういうのを面白がれる性格。


田中:それはあるでしょうね。あとはそういう音楽の聴き方をしてきたから。


ーーそうして曲を仕上げていって。歌詞は一番最後ですか?


田中:そうですね。基本的には曲を作りながら自分が頭に思い浮かべるストーリーや映像みたいなものをとっかかりにします。できあがって結果的には共通する気分みたいなものはあるなと思いますけど、書いてる時は、できるだけ手癖にならないようにと思いながらやってましたね。


ーー歌詞を拝見すると、いわゆる手垢にまみれたような定型表現がほとんどないですね。それはいつものことですが、すごく吟味された歌詞という印象です。


田中:お決まりの文句はたまにしか使わない方が、お決まりの文句が強力になるんですよね。


ーー歌詞はどの段階でメンバーに見せるんですか。


田中:完成してからですね。歌入れの日に初めて披露する。


ーーこういう歌詞がつくなら、こういう風にプレイすれば良かった、みたいに思うことはありませんか。


西川:むしろプレイに合わせて歌詞を書いてるところがあるんで。曲として歌詞がつくことで世界観ができあがってる。


田中:歌詞を書く側からすると、曲とかプレイの方がストーリーを感じてるんで。歌詞を独立した読み物ととられるのは困るんですよね。楽曲のうちの一要素というか。歌がなくてもストーリーがあるものに、歌を入れるわけですから。ストーリーの一要素としてあればいいんじゃないかと、いつも考えてます。


ーー歌詞は曲の世界観を構成する、ひとつのピースであると。


田中:そうですね。


西川:歌詞が乗ることで世界観がはっきりしますよね。フォーカスされるというか。でもストーリー自体は、楽曲が持っているストーリーの方が強いと思います。


ーーそのバランスはバンド初期のころから変わらないわけですか。


田中:弱冠変わってはきてはいると思います。最初のころはもっと、いわゆるJ-POPやJ-ROCK的なものを目指してたと思いますけどね。多少売れようという気持ちもありましたし。


ーー(笑)今はないんですか。


田中:今もないわけじゃないんですけど(笑)、こういうスタンスの作り方で一石を投じられればいいな、ぐらいに思ってますね。売れる売れないというよりは。


ーーJ-POPやJ-ROCKのメインストリームから離れて存在してる感じはありますよね。


西川:ありますね、とっても。曲を作ってる時も思うし、歌詞を読んでもそう思いますね。非常に歌いづらい曲を作ってるなと。


ーーカラオケで歌いづらい(笑)。


田中:(笑)そりゃそうやなっていう。


西川:何回も聞いてるオレでも歌えないのに、普通の人がカラオケで絶対歌われへんなって(笑)。それってJ-POPやJ-ROCKから相当離れてますよね。


田中:もともとそういうところはあったと思うんですけどね。


ーーセッションで曲を作るようになって、より自由度が増して独自性が強くなって、容易に真似ができないものになっていった。


西川:別に孤高になろうと思ってやってたわけじゃないですけど(笑)。
(取材・文=小野島大)