2016年02月08日 10:42 弁護士ドットコム
厚生年金に入る資格があるのに、実際には年金額の少ない国民年金に加入している労働者が約200万人いると推計されることが、厚生労働省の調査で明らかになった。
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厚労省は1月中旬、加入義務があるのに厚生年金に入っていない可能性がある約79万の事業所を対象に緊急調査すると発表した。塩崎恭久厚生労働大臣は悪質な事業主について、刑事告発を検討する考えを明らかにしている。
厚労省の動きをどう見ればいいのか。社会保険労務士としても活躍する蝦名和広税理士に聞いた。
「厚生年金は社会保険の中の一つで、通常、健康保険とセットで加入します。株式会社等の『法人』や、従業員5人以上の個人事業主(一部適用除外)に勤めることで加入できます」
加入できるのは、正社員だけなのだろうか。
「よく勘違いされますが、そうではありません。使用者は、有期契約社員やパートタイマー等の非正規労働者でも、一定の要件を満たせば、加入させる義務があります」
どんな要件だろうか。
「非正規雇用の労働時間と労働日数が、それぞれ、正社員のおおむね4分の3以上である従業員は、厚生年金の加入手続が必要になります。
たとえば、正社員の1日の所定労働時間が8時間で、労働日数が22の場合、1日6時間以上、月17日以上働いている場合は、要件をみたします」
厚生年金に入らないと、何が問題なのだろうか。
「労働者は、未加入の状況だと、将来もらえる年金額が少なくなってしまいます。
厚生年金は、国民年金の上乗せ年金になっており、厚生年金の保険料は、会社が半分負担してくれるため、将来もらえる年金額にも差が出てしまうのです」
どのくらいの差が出るのだろうか。
「現役時代の給料額にもよりますので一概に言えませんが、厚労省の2014年度のデータでは、国民年金のみを受け取っている人の年金額(月額)が約5万4000円であるのに対して、厚生年金受給者の平均受給年金額は約14万5000円となっています」
厚労省の調査で、加入逃れの実態が明らかになった場合、事業者はどんな対応を迫られることになるのだろうか。
「まず刑事罰については、調査によって未加入が判明した場合、事業者は、6月以下の懲役か50万円以下の罰金を科される可能性があります。
また、本来加入すべき該当者全員の保険料を最大2年分、さかのぼって支払うことを命じられます。
本来、保険料の負担は事業者と従業員の折半ですが、今回のケースのように『2年分の保険料の支払い命令を受けたので半額を徴収します』と従業員に言うのは、無理があるのではないでしょうか。
2年分さかのぼっての保険料になると、負担額も非常に大きくなります。また、そもそも会社が手続を怠っていたのが原因です。
従業員から落ち度を指摘された場合、負担割合を従業員に請求するのが難しいケースも出てくるかもしれません」
【取材協力税理士】
蝦名 和広(えびな・かずひろ)税理士・特定社会保険労務士・行政書士・海事代理士
北海学園大学経済学部卒業。税務、労務、新設法人支援まで、幅広くクライアントをサポート。趣味は旅行、1児のパパ。
事務所名 : 税理士・社会保険労務士・行政書士 蝦名事務所
事務所URL:http://office-ebina.com
(弁護士ドットコムニュース)