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Sexy Zone「カラフルEyes」に隠された“まさかの展開”とは? 矢野利裕が音と歌詞から読み解く

2016年02月08日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

大谷能生、速水健朗、矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)

 Sexy Zoneの「カラフルEyes」は、一聴してぜいたくな作りだ。というのも、音数の多いこの曲は、全編生オーケストラで演奏されている。とくに、生楽器でのホーンとストリングスは、それだけで豪華に響く。


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 プログラミング技術によって、低予算でクオリティの高いサウンドをいくらでも作れてしまう現在において、全編にわたって生楽器であるということは、それだけでなんらかのメッセージ性を感じる。筆者が抱いたのは、良い意味での歌謡曲感である。すなわち、Jポップ以前の、生バンドをしたがえて歌われていた、あの歌謡曲感だ。Sexy Zoneに対しては、ドレスアップがわざとらしくならない、という点において、少年隊的なきらびやかな雰囲気を担っていると思っている。その少年隊が「仮面舞踏会」でデビューしたとき、歌番組にはいまだ、生演奏を披露するバンドがバックにいた。「カラフルEyes」のアレンジをしているのは、少年隊の「仮面舞踏会」を手がけた船山基紀だが、「カラフルEyes」もまた、そのような時代の雰囲気がシミュレートされているように思える。曲調としては、少しフィリー感の入った70年代ソウルだが、もう少しポップス寄りで、モータウンあたりを感じさせる。


 ジャニーズで言えば、ブラック・ミュージックの意匠を積極的に取り入れた、90年代前半~なかばのSMAPに近いか。シンプルなメロディもSMAPのようだ。その意味で、少しマニアックな視線で往年のジャニーズを見ていた人などは、気に入るかもしれない。と、このように書いていると、ノスタルジックなだけの楽曲かのように思うかもしれないが、もちろんそれだけではない。とくに言葉の選びかたと乗せかたは、凝っていて面白い。リスナーの特権として、この曲における「うたのしくみ」(細馬宏通)を、自由に考えたい。


 歌詞カードを見ながらでないとわからないが、1曲を通じて強調されているのは、「Eyes」と「愛す」が発音的に掛かっているということだ。つまり、この曲の中心にあるのは、歌詞の一節を借りれば「瞳(Eyes)で愛す」ということである。このとき重要なことは、「瞳で愛す」ということに、「言葉では明示しない」ということが含意されている、ということだ。すなわち、「言葉では明示せずに、瞳(Eyes)で愛する」というのが、この曲のテーマである。


 だとすれば、こんな見事な出だしはない。歌詞を確認せず、最初に音のみで聴いた、筆者のようなリスナーのうち、いったいどれほどの人が、最初の「Ah~i‐sh[無声音] Ah~i‐sh[無声音]」を「愛す愛す」という言葉として認識していただろうか。さらに言えば、「愛す」に続く「Loving you」の直前、「You said」が挿入されていることに、どれほどの人が気づいただろうか。つまり、この曲は、最初の時点ですでに、「愛す」を言葉で明示しない、という意志を持っているのだ。だからこそ、最初のメロの出だしは、「今僕のことを好きだと言ったの?」という歌詞になっている。実はイントロの時点で言っていたのだ、「愛す」と。したがって、この歌詞には、ふたつの主体が存在している。すなわち、周到に隠しながら「愛す」とささやき続ける主体と、それを必死に聴き取ろうとする主体という二者だ。後者の主体は「Show me your love(あなたの愛を見せて)」と願うが、前者の主体はそれをなかなか見せようとしない。「カラフルEyes」という曲は、そのような二者の「愛=eye」をめぐる闘争の場となっている。


 初めて明示的に「愛す」と言われるのはサビの「目で愛す愛す愛す」の部分だが、他人の気持ちに鈍感な筆者は、それとて「目で合図合図合図」だと思って聴いていた。「目」でするアクションと言えば「合図」でしょう、と。しかも、さらにニクいのは、サビの2周目、「Colorful Eyes Eyes」の「Eyes」の部分と韻を踏むかたちで、「大好き」の「だい‐sh[無声音]」が挿入され、そのまま「sh[無声音]‐き」と続き、直後にはもう「Kiss Kiss Kiss」となっていることである。つまりここには、「瞳で合図を送られていたと勘違いをしていたら、気づいたときにはもうキスを奪われていた!」という構造がある。しかも、いつのまにか「大好き」と告げられてもいる! 「まさかの展開」というのは、単にキスをされたことではなく、この一連の「展開」すべてを指している。指摘するのも野暮だが、「Kiss Kiss Kiss」のなかに二度の「好き」が入り込んでいることも、もちろん見逃せない(聴き逃せない)。


 最初、なんとなく聴いていたとき、途中の佐藤勝利の「僕も君が好きだよ」というセリフに対して、やけに唐突な印象を受けた。「『僕も』って、こいつ、いつの間に誰に告白されたんだ?」と。まあ、目立つブレイクの部分なので、唐突でもインパクトがあれば良いのだろうと思っていたが、歌詞を確認したのちは印象が変わる。そうか、「いつの間に」どころか、最初から最後まで「愛す」と言われ続けていたのだ。だから、明示されない「愛=Eye」をしっかりと受け取って「僕も君が好きだよ」と応える、というのが、この曲が示す物語なのだ。うむ、趣向が凝らされている。情報量が多くて、演奏と同様、ぜいたくな楽曲だ。(矢野利裕)