トップへ

Mardelasが目指すヘヴィメタルの革新と、ジャンルの超越「関心のない子たちの耳にも届けたい」

2016年02月07日 17:11  リアルサウンド

リアルサウンド

Mardelas

 昨年4月にアルバム『Mardelas I』でメジャー・デビューしたヘヴィ・メタル・バンドMardelas(マーデラス)。紅一点のシンガー・蛇石マリナを中心に、テクニカルかつエモーショナルなギタープレイが魅力の及川樹京、そしてLIGHT BRINGERのリズム隊としても知られるhibiki(Ba)、弓田“Yumi”秀明(Dr)という強力な布陣で精力的なライブ活動を続け、昨年12月に発表したメジャー・ファースト・シングル『千羽鶴 -Thousand Cranes-』も好評を博すなど、着実に知名度を高めている。


 今回リアルサウンドでは、バンドの創設メンバーである蛇石と及川にインタビューを行なった。2人の音楽的ルーツから出会い、Mardelas結成とバンドの個性、そして2月11日に予定されているワンマン・ライブ『Mardelas Premium One-man Show 会場限定シングル発売記念 -Snake to Revive-』への意気込み、同日に会場限定販売されるシングル『Snake to Revive』で蛇石が過去に在籍したバンド・DESTROSE時代の楽曲をMardelasでカバーした理由まで、たっぷりと話を聞いた。(西廣智一)


・「音楽への目覚め、メタルとの出会い」


ーーまず最初に、おふたりの音楽のルーツを聞かせていただきたいなと思います。マリナさん、最初に音楽に目覚めたのは?


蛇石マリナ(以下、蛇石):小学校に入るちょっと前ぐらいに、ピアノを習い始めまして。中学ではオーケストラの部活に入って、ヴィオラというすごくマイナーな楽器を弾いていました。中高一貫の学校だったんですけど、どうせだったら新しいことを始めてみようかなという気分になったんです。ちょうど高校2年生か3年生のときに友達に誘われてバンドをちょっとやったことがありまして。そのときはハード・ロックじゃなかったんですけど、その記憶があったから「バンドもいいかも」と思ってサークルを覗きに行って、そこで出会ったのが彼(及川)だったんです。そのサークルには私たちが今やってるような音楽を思いっきりやってるような人たちもいたし、オシャレなポップスやちょっとジャジーなことをやってる人たちもいたし。いろんなジャンルがある中で「私にメタルは合ってるんじゃないか?」と勧めてもらったのがきっかけで、ちょっとやってみようかなみたいな感じで今に至ります。なのでジャンル的にはいろんなところを渡り歩いて来た感じですね。でも振り返ってみれば、今の自分が曲を書く上でそのルーツはかなり深く関係してるのかなと思います。


ーー1つのジャンルに固執しているわけではなくて、幅広く経験してきたものが今の音楽に集約されていると。


蛇石:そうですね。どんなジャンルでもメインの旋律が美しいものが正義だなというのが、私の中にあるので。ジャンルで括るというのはMardelasにおいてもあんまりやりたくないことなんです。


ーーちなみに歌うことには、バンドを始める前から興味があったんですか?


蛇石:高校の頃、友人に誘われて乗り気になったってことは、たぶん歌いたい気持ちはどこかにあったんでしょうね。ただ、ちょうどピアノを始めるときに母から「あなた、歌はやめておきなさい」と言われるぐらい、歌がちょっと壊滅的な感じで(笑)。当時は自分が歌うことに対してあまり自信がなかったので、そういう思いはどこかに隠していたんでしょうね。


ーーなるほど。それでは樹京さんは?


及川樹京(以下、及川):私は小学生のときにピアノを習わされていてですね(笑)。その頃は好きではなくて、楽譜も読みたくないとか言っていたくらいで。音楽もボーッとしていても耳に入ってくる、ランキングに入る曲だったり父親や母親が聴いてる曲しか聴いてなくて、全然音楽が好きというわけではなかったんです。でも中学生になったときに文化祭で友達がバンドをやっていたのを見て、カッコいいし自分も目立てるきっかけになるんじゃないかと思って、そのときに彼らがやっていたL'Arc~en~CielやGLAY、THE BLUE HEARTSにハマり、同時にギターも始めたんです。だから最初は全然メタルではなくて。その頃はヴィジュアル系がブームで、そういったバンドの楽譜をコピーするところからだんだんハードな方向に自分の趣味も移っていって。よく雑誌に彼らが影響を受けたアーティストが載っているじゃないですか。そういうのを通じて彼らが影響を受けたDEAD ENDとかを聴くようになりました。


ーーそうだったんですね。ちなみにメタルに目覚めたのは?


及川:ちょうどその頃、SEX MACHINEGUNSが「みかんのうた」でブレイクした時期で。確か「LOVE LOVEあいしてる」で生演奏したときに、ポール・ギルバートがサイドギターで入っていたんですけど、「こんなにギターを速く弾ける人がいるんだ!」って驚かされたんです。そこからは難しいことができることがカッコいいみたいな(笑)。私は山口県出身なんですけど、周りにあまりハード・ロックが好きな人がいなくて、高校の文化祭ではハイスタ(Hi-STANDARD)をやっていました。大学で上京して先ほどのサークルに入部してからは洋楽のメタルにどっぷり浸かって、ANGRAやSONATA ARCTICA、STRATOVARIUSなどを聴いてメタルを開拓しつつ、並行してギターも練習して今に至ります。大学のときはオリジナル曲はやってなくて、ずっと自分の耳でコピーしてギター・ソロを練習するという活動をしていました。


蛇石:恐ろしい数をコピーしてましたね。そのサークルでは固定のメンバーでバンドを組むんじゃなくて、みんながやりたい曲を1曲ずつ持ち寄って、一緒にやってくれるメンバーを探すみたいな感じだったから、わりと自分の好みじゃない音楽にも触れる機会が多かったんですよ。そういう経験がMardelasの音楽性につながってるんじゃないかと思ってます。


・「初めからやりたいことが自分の中で決まっていた」


ーーちなみにお互いの第一印象は?


蛇石:後輩に厳しい、怖い先輩だなと。


及川:私は……不良娘みたいな(笑)。


蛇石:言うねぇ(笑)。


及川:ちょうど浜田麻里さんのコピー・バンドをやりたかったので、歌ってもらおうと声をかけて一緒にやったんです。技術的にはまだ荒削りだったけど、声を含めてとても存在感があって。そういう存在感って後天的に身に付けることが一番難しいんだけど、彼女にはボーカリストにとって一番大切な要素が備わっていたんです。


ーーそこからオリジナル曲を演奏するバンドを始めたと?


蛇石:彼から一緒にバンドをやろうと声をかけてもらって楽曲制作を一緒にやっていたんですけど、表に出る前に解散してしまったんです。私、そのときにやっていた音楽がすごく好きで、それがMardelasの原点になっているんです。忘れられないと言ったらアレですけど、そのバンドが解散してしまったことが悔しくて。いつかこういう曲を再びやるためには、自分も何かしらの形で活動しなくちゃいけないなって、よくわからない使命感に駆られまして(笑)。そこで出会ったのが、前のバンドのDESTROSEなんです。


ーーそこからDESTROSEで経験を積んで、しばらくしてからMardelas始動に向けて改めて動き出すわけですね。


蛇石:初めからやりたいことが自分の中で決まっていたし、やりたい音楽性や世界観が自分の中にしっかりあったからこそ、前のバンドを辞めたんです。で、ソロとかバンドとかユニットとかいろいろ形があると思うんですけど、自分がやりたいのはバンドだと。集団でカッコいい存在を作りたかったんですよ。でも最初はメンバーもいなくて1人だし不安もあって。とにかく動かなくちゃいけないって思いから、ソロ・プロジェクトという形でMardelasを始動させたんです。


ーー最初からバンドという形が頭の中にあって、そこに近付けるためにとにかく動こうと。


蛇石:そうです。なのでDESTROSEを辞めてから最初のサンプル音源を上げたのもかなり早かったですし、そのときから彼に声をかけていて、一緒にやってくれることが決まっていたんです。でも、そこからこんなにも早く理想のメンバーが集まるとは思ってなかったので、運が良かったなって。だって私、DESTROSEを脱退したのがアルバム発売の1年前ですから。必死だったんでしょうね。やりたいことをやるためにバンドを辞めると決断したんだから、とにかく前に進もうと。


・「縁とタイミングが重なってできたバンド」


ーー樹京さんはマリナさんから誘われたとき、どう思いましたか?


及川:私はちょうどSCREAMING SYMPHONYってバンドをやっていたんですけど、それまでちょっとブランクがあって。マリナと一緒にやっていたバンドを解散したときに、仕事として音楽をやることを諦めていたんです。でもSCREAMING SYMPHONYに入って、音楽に対してまた気持ちが沸き上がってきた頃なんでしょうね。「以前一緒にやってたようなことを復活させたい。今の実力ならもっとやれると思うんで、あのときにやりたかった曲を一緒にやりましょう」と誘いを受けて、迷わず「一緒にやりましょう」って答えました。


蛇石: アルバムの「Daybreak」と「Phantasia」がまさにその曲で。「Daybreak」という曲がなかったら、もしかしたらちょっと違う方向性になっていたかもしれないですね。この曲はいつか何かしらの形で世に出したいなという思いがずっとあって。なので、彼とベースのhibikiと3人でまず出したインディーズ・シングルが「Daybreak」と「Phantasia」なんです。


ーーそのhibikiさんや、後から正式加入したYumiさんもそうですけど、LIGHT BRINGERというバンドで活躍してきた方々と一緒にバンドをするというのも、すごく大きな出来事ですよね。


蛇石:そうですね。hibikiとは私が前にいたバンドで、彼のセッション・バンドと一度対バンしたことがあったんですよ。そこですごく仲良くなって、私がそういう決断を下して1人で新しいことを始めようと思ったときに「こういうことになったけど、もしよかったら何でもいいから助けてくれない?」と電話したら「いいよ」と言ってくれて。そのときはLIGHT BRINGERが活動休止することをまったく知らなかったんですけど、それで一緒にやってもらえることになったんです。それからドラムを探すときに、Mardelasの前身バンドで作ったサンプルを聴いていたhibikiが「ああいう曲に合うのは、やっぱりYumiさんだと思うよ?」と言ったので、まずはサポートで頼んでみようかって話になって、お願いしたのがきっかけです。で、いざスタジオに入って合わせてみたら、しっくりという言葉しか見つからないぐらいハマッて。何回かライブをやってから、自然な流れで加入が決まったんです。


ーーいろんな縁がつながっていったと。


蛇石:縁とタイミングですよね。自分が「脱退するなら今だ」と思ったタイミングもそうだし、樹京が音楽をまた真剣にやりたいと思ったタイミングもそうだし、そういうことがいろいろ重なってできたバンドなんだと思います。


・「歌心がある音楽が好きっていう共通点でつながっている」


ーーそしてMardelasは2015年4月に1stアルバム『Mardelas I』でメジャー・デビューを果たします。このアルバムはいわゆるハード・ロック/ヘヴィ・メタルだけではなくて、もっと広い意味でロックやポップスにカテゴライズされるような楽曲も含まれた、非常にバラエティ豊かな内容です。とにかくメロディがキャッチーで耳に残りやすいし、そこに楽器隊のテクニカルな演奏が加わることで非常に聴き応えのある作品だと思いました。


蛇石:ありがとうございます。このアルバムを作るにあたって一番大きかったのは……レコーディング前にプリプロダクションをやるんですけど、みんなと「Mardelasってどんなバンドにしたらカッコいいんだろう?」って話をしていなかったのに、最初から共通のイメージができあがっていたんです。ここまで弾いたらメロディを壊してしまう、でもここにソロを入れたら起伏としてすごく効果的なんじゃないかとか、そのさじ加減が最初からみんなの中である程度共有できていたので、難なくアルバムを完成させられたんです。


及川:そのさじ加減が、アレンジする上では一番難しいところで。昔は弾きまくるアレンジを結構していて、あまり客観視できてなかったんです。でも今はその判断もやっとできるようになってきて。特にhibikiくんはプレイヤーとしてだけでなく、アレンジや作曲の才能もある人で、話していて意見が合うんです。「LIGHT BRINGERだったらもっとやってもいいけど、Mardelasはこういうのが合わない」って、すごく客観的にバンドを見てくれていて。ドラムのYumiさんもそうなんですけど、そういうところにバンドでやる醍醐味があると思うんです。


蛇石:Yumiさんもすごいフレーズに気を遣って考えてくるよね。


及川:ツアーの移動中に車の中で音楽を聴くとき、Yumiさんは意外と90年代のJ-POPを流すんですよ。結局みんな、歌心がある音楽が好きっていう共通点でつながっているんですね。


蛇石:そうだね。みんなの共通のルーツがメタルなのはたぶん誰が聴いてもわかると思うんですけど、ポップス的な目線で引き算が考えられる、そういう感性がすごく似てるんだろうなって。そしてMardelasというバンドを客観視できる目が4人全員にあるから、こういうバンドになったんだろうなって私は思います。


・「『人の感情、情念、性』と『日常と非現実の融合』」


ーーさらに昨年12月にはシングル『千羽鶴 -Thousand Cranes-』もリリースされました。表題曲含め、新曲は「Mardelasらしさ」や「Mardelasとは?」という部分を追求することにこだわっているように感じました。


蛇石:「千羽鶴 -Thousand Cranes-」という曲はタイトルのとおり、川端康成の小説『千羽鶴』を題材にしてるんですけど、曲の世界観、特に作詞面はより深められたかなっていう手応えがありまして。私の中で作詞において永遠の二大テーマとして「人の感情、情念、性(さが)」と「日常と非現実の融合」というのがあるんですけど、『千羽鶴』を読んだときに登場人物の女性に情念をすごく感じて、ちょっと表現してみたいなと思って書いたのがこの曲なんです。


ーー1stアルバムのときから感じていたことなんですが、マリナさんの書く歌詞からは日本語というものに対する強いこだわりを感じるんです。


蛇石:ありがとうございます。曲を生かすも殺すも詞だと思っているので、確かに言葉の選び方にはものすごく気を遣っています。それに言葉にも音があるので、アクセントやイントネーションがピッタリはまらなかったら意味がない。言葉を書くことって基本的な知識さえあれば誰でも書けるじゃないですか。でもすごく奥が深いというか。意味的にはこれなんだけど言葉的にはこれじゃないとか、逆もしかりなんですけど、そういうことがあるんでパズルみたいですね。入り込んでは引いて見てを繰り返す、もっとも時間も身も削る作業です。人によっていろいろこだわりがあるとは思うんです。音がカッコ良ければいいっていう人もいるし、ストーリーが一番大事だっていう人もいるし、わかりやすくて誰にでも理解できる歌詞がいいっていう人もいる。でも私はそれぞれのいいところを取りたいんです。


ーー「千羽鶴 -Thousand Cranes-」は小説『千羽鶴』が題材になっていますが、作詞するときは映画や小説を題材にすることが多いんですか?


蛇石:わりと実体験が多かったりします。実体験であればあるほどいいと思っているので、極力自分の周りに起きたことを、言葉の選び方でちょっと非現実的にして。そこがさっき話した「日常と非日常の融合」ということなんです。不思議な言葉をつなげてるんだけど、どこかリアリティがある。そういう世界観が好きなので、どの曲にも基本的には実体験が3割は入ってます。だから歌に入り込めるというのもあるんですけど。もちろん本を読んだり映画を観たりしても「これは私の話じゃないけど、この人の気持ちがものすごくよくわかる」とか、そういうのって感情のひとつの経験だと思うので、それもひとつの実体験と見なして歌詞を書くこともあります。とはいえ、ステージ上で自分のことであるかのように歌うには題材選びも大事なので、テーマの選び方もステージングにとって重要なんですよ。


ーー実体験を書くことって、ときにつらくなりませんか?


蛇石:結構しんどいですよ。自分の汚い部分もさらけ出すわけだし。でもそれでこそ「人の感情、情念、性」の真実だと思うし、そういう部分をMardelasで表現したい。となると、自分の身を削るしかないんですよね(笑)。


ーーしかし音楽への向き合い方が凄まじいですね。


蛇石:hibikiからは頑固だって言われました(笑)。頑固というか、我が強いというか。


及川:(無言で頷く)


蛇石:あ、今「うん」って頷いた(笑)。


及川:気が強いんです。ステージでもそういう部分が出てるんじゃないですかね。負けないという強い気持ちが。


蛇石:気力ってすごく大事ですよね。名だたるアーティストのステージを観ていると、音だけじゃなくて気迫も伝わってくるし。たぶん人が感動するのって、そういう部分だと思うんですよね。もちろん音でも人を感動させられるけど、ライブでは五感すべてを使っているわけですから。だからそういう部分を引き出すためにどういう曲を書いたらいいのかなと、私は常に考えてるんです。


・「メンバーとスタッフとファンが一致団結するようなライブ」


ーー2月11日には東京キネマ倶楽部でのワンマン・ライブ『Mardelas Premium One-man Show 会場限定シングル発売記念 -Snake to Revive-』も控えています。今年初のワンマン・ライブ、どういった内容になりそうですか?


蛇石: 2015年はMardelasが本格的に始動した年で、土台固めの1年だったと思うんです。そこから2016年というのは、去年1年間かけて作った土台をもとにしながら、とにかくリリースとライブをガムシャラにやる年にしたいんですね。だから2月11日はその幕開けの1日したい、メンバーとスタッフとファンが一致団結するようなライブにしたいなっていうイメージがあります。


ーー当日は会場限定シングル『Snake to Revive』も販売されます。この作品はDESTROSE時代の楽曲をMardelasでカバーした内容ですが、なぜこういう作品を制作することにしたんですか?


蛇石:そもそも『Snake to Revive』の3曲と、先に『千羽鶴 -Thousand Cranes-』でカバーした「Sword of Avenger II」の4曲は、DESTROSE時代に私が作詞作曲した曲なんです。ライブでは演奏してたんですけど、その4曲をアルバムに入れることはもともと考えてなくて。でもライブ後にお客さんから「あの曲が入ってるCD、ありますか?」と聞かれることがあって。自分のファンは前のバンドの音源を持ってるんですけど、「Mardelasでやってるバージョンが聴きたい」という声も意外にもありまして、だったらライブに来てくれるお客さんから出た意見なので、ライブ会場だけで売ろうと。そういうお客さんの声と私たちのアイデアが一致して実現した作品なんです。


ーーなるほど。「Sword of Avenger II」含め、MardelasバージョンはDESTROSEバージョンをよりパワーアップさせた印象があります。特にボーカルにより深みが加わったような。


蛇石:ふふふ。そうですか?(笑) 普通レコーディングってクリックを聞いて歌うことが多いと思うんですけど、Mardelasの曲を録るときは一切クリックを聞かないんですよ。他のメンバーのプレイに感化されながら歌ってるから、「今のYumiさんのプレイ、カッコいいな」とか「今のhibikiのフレーズ、いいな」とか歌ってるときの自分の心情もやっぱり歌に表れますし(笑)、そういうのが引き出してくれてるのかもしれないですね。


ーーずっと歌ってきた曲だけど、そういうところでちょっとした違いが生じると。


蛇石:そうですね。あと、アレンジや曲の構成はほぼそのままなんですけど、細かい部分が変わってたりするんですよ。キメがさらに締まってたり、こっそりすごくテクニカルなフレーズがよぎったりと、それだけでも別の曲を歌ってる感覚になるというか。もちろん原曲を否定してるわけじゃないですよ。でも、やっぱり歌っていて気分が違うんです。


ーー演奏してる人がそもそも違うわけですもんね。


蛇石:違いますね。ただ、他の3人にとってはカバーだけど、自分にとっては再レコーディングになること。どこまでなぞってどこまで変えればいいのかっていう加減が、とても難しいですね。新曲を歌うときには使わない脳を使うというか。いろんなことを気にしすぎてしまうこともあって、再レコーディングって難しいなと改めて思いました。


・「表現力という意味での限界も上がっている」


及川:実は私、「Sword of Avenger」のアレンジを当時手伝ってたんですよ。


ーーえっ、そうなんですか?


蛇石:「Sword of Avenger」は彼と一緒にやってたバンドの曲なんです。なので、この曲に関しては原点回帰の意味もあるんですよ。


ーー広い意味でMardelasの始まりの曲だと。


蛇石:そうです。ちょっと旅をしてきて、2人のもとに帰ってきた曲ということで、他の曲とはまたちょっと違いますね。


及川:しかも世に出ているバージョンはあるけど、そのまま弾いたとしても同じものにはならないです。ドラムがまず全然違うし、そこに乗るギターも歌とせめぎ合っているし。シングル『千羽鶴 -Thousand Cranes-』の話に戻るんですけど、アルバムのときは自分のギターがちょっと優等生すぎたなと感じる部分があって。でもライブを何回も経験するうちに、自分のメンバーとしての自覚も芽生えたしバンド内での立ち位置もわかってきたので、ボーカルがこれぐらい来るだろうからギターもここまで弾いても曲は壊れない、むしろ楽しいんじゃないかというのもわかって、あのシングルではギリギリまで弾き倒しました。なにせボーカルが強烈なんで(笑)。


ーー加減のレンジが1stアルバムのときと比べたら、より広がっていると。


及川:限界値が高まりましたね。自分のできる限界も上がってるし、ボーカルの限界も上がっている。表現力という意味での限界も上がっているから、それに負けないギターを弾かなきゃいけないと思いました。


蛇石:「千羽鶴 -Thousand Cranes-」はギターのレコーディング前に「歌詞を送ってくれ」と言われたんですよ。歌詞の世界観をギター・ソロでも表現したいから、仮でもいいから送ってくれと言われたので、できたのをそのまま送ってできたのを聴いて「なるほどな」と思いました。


・「Mardelasにしかできないことを1つのジャンルに」


ーーそういった成長もありつつ、2月11日のライブを軸にしてMardelasは2016年もさらに進化していくんでしょうね。お二人には今後バンドとしてどうなっていきたいか、どんな存在になっていきたいか、もしくはどういう音楽を届けたいかなど、今思い描いている目標はありますか?


蛇石:Mardelasのライブ・バンドとしての魅力をもっとみんなにも知ってほしいと思います。4人組のロック・バンドって、私はすごくカッコいいと思うんですよ。ボーカル、ギター、ベース、ドラムと1つのパートに1人ずついて、4人が生でぶつかり合ってお互いを引き出し合う、その世界をみんなにもっと知ってもらいたいです。音楽性に関しては1つのジャンルに縛られたくないと言ったらありきたりなんですけど、「Mardelasってどんなバンド?」って聞かれたときにジャンルの説明が難しいバンドになりたいですね。メタルとかロックとかポップとかそういうことじゃなくて、MardelasはMardelasなんだよっていう。Mardelasだからできること、Mardelasにしかできないことを1つのジャンルにすることを今は目標にしています。やっぱりこのメンバーに代わりはいないと思っているので、この4人が集まったからこその魅力をライブでも表現したいし、音源でも表現したいなと思っています。もう1つの目標としては、自分が影響を受けてきたアーティストさんみたいに、Mardelasを聴いて楽器を始める若い子がもっと出てきてくれたらうれしいなと。曲をコピーしてもらえたらこんなに幸せなことはないですし、そういうきっかけになれるバンドになりたいなと思ってます。


及川:今はこういうハード・ロックがルーツの音楽って、好きな人以外の耳になかなか届かなかったりするなと常々思っていて。そういう現状を壊せる先駆けになりたいですね。曲のバリエーションにも自信があるしアレンジも自信があるので、このシーンだけに従属するんじゃなくて、自分がマシンガンズで受けた衝撃みたいなものをまだ関心のない子たちの耳にも届けて、ハード・ロックやヘヴィ・メタルへのきっかけになるような存在に近付けたらなと思ってます。やっぱりこういう古き良き時代の音楽は廃れちゃいけないと思っているし、そんな自分の思いもこのバンドをきっかけに広めていきたいなと。なので気合いを入れて積極的にライブをやって、若い子たちだけじゃなくいろんな人たちに向けてカッコいいものを表現していきたいなと思ってます。
(取材・文=西廣智一)