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『真田丸』主人公より父役・草刈正雄の存在感が際立つ理由  “成長物語”としての側面を探る

2016年02月07日 15:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『真田丸』公式サイト

 民放ドラマは「2ケタがやっと」の中、毎週20%に迫る高視聴率を叩き出すなど、独走状態のNHK大河ドラマ『真田丸』。視聴者や識者から絶賛の声が相次いでいるが、その秘訣はやはり自称「大河ドラマオタク」三谷幸喜の大胆な脚本にある。


参考:松重豊、吉田鋼太郎、遠藤憲一……実力派アラフィフ俳優が脚光を浴びる理由とは?


 初回から大河ドラマの定番である主人公の幼少期をスルーして、真田家の主君・武田家の滅亡を描き、4話では早くも本能寺の変を起こして、物語から織田信長(吉田鋼太郎)を退場させてしまった。これだけの大事件にも関わらず、あまりの急展開に「エッ? もう信長が死んじゃったの?」と思った人は多かったのではないか。


 そして最も驚かされたのは、主人公の真田信繁(堺雅人)が全くもって目立たないこと。際立つのは父・真田昌幸(草刈正雄)の知略やたくましさばかり。とりわけ信長に呼び出されて会いにいく4話で見せた昌幸の存在感は圧倒的だった。


 信繁に「決して下手に出てはならぬ。真田は負けたわけではないのだ。これもひとつの戦である。父の戦いぶりをしかと目に焼きつけておけ」と勇ましく言い聞かせたと思ったら、信長を待つ間に大あくびの余裕を見せる。さらに、織田信忠(玉置玲央)と徳川家康(内野聖陽)から裏切りを糾弾されると「方便でござる」としらを切り、信長と対峙して「良い面構えじゃ」と認めさせるシーンなどで魅了した。


 逆境に立ち向かう意志の強さや、主君を変えるしたたかさなど、昌幸が主役級の活躍を見せているのは100%間違いない。しかし、それは全て三谷の計算であり、堺も承知して信繁を演じている。現時点での信繁は、「昌幸の行動に従うだけの次男」であり、温厚でのんびりしたキャラクターもあいまって、明らかに脇役。ただ、その姿は今後の伸びしろを感じさせるものであり、ドラマ序盤の信繁はまだ10代半ばにすぎない。毎月少しずつ進化して主役らしさを身にまとっていくのだろう。


 すなわち現在の信繁は、「単に好奇心旺盛なだけで、品格に欠ける」くらいのキャラクターがちょうどよく、「偉大な父・昌幸を間近で見てモロに影響を受けることで、歴戦の兵に育っていく」という“成長物語”を見せようとしているのだ。だからこそ現在の昌幸があそこまで魅力的に描かれ、実質的な主役として君臨しているのだろう。


 そして今後、武田家の人質だった信繁は、上杉家の人質になり、さらに秀吉の人質になっていく。偉大な父に加えて、上杉景勝(遠藤憲一)や豊臣秀吉(小日向文世)などのさまざまな大人物を目の当たりにした信繁はどんな影響を受けるのか? どのタイミングで魅力あふれる主役として覚醒し、物語のど真ん中に立つのか? 家康を苦しめるクライマックスの前に、まずはそこが見どころとなる。



 そんな信繁を演じる堺の気になるコメントを見つけた。初回冒頭シーンの信繁は49歳であり、赤備えの鎧をまとい最後の戦に挑んでいるが、堺に言わせれば「これはあくまで仮の姿」という。つまり、「一年間撮影を重ねる中で、終盤に向けてより凄みのある信繁を作り上げていく」という決意表明なのだ。堺は撮影現場で見聞きし、感じたものを採り入れて、自らの演じる信繁をパワーアップさせようと試行錯誤している。こうしたことができるのは年間ドラマならではであり、堺はそれを見据えて一年間を逆算した演技プランを考えているのではないか。


 “成長物語”という観点で見れば、敵役の家康も同じ。現時点では、うっかり火傷したり、信長の顔色をうかがったり、昌幸を過剰に警戒するなど、いかにも小物のムードを醸し出しているが、これも仮の姿。戦国の世をくぐり抜け、天下人になる家康の変化も当作の見どころであり、演じる内野の姿が注目を集めるだろう。


 最近の大河ドラマでは『軍師官兵衛』で黒田官兵衛を演じた岡田准一が、有岡城での幽閉を経て姿を一変させ、出家して剃髪姿の如水になるなど徐々に凄みを増す様子が話題になったが、今回も信繁と家康の変わり身に期待できそうだ。


 『真田丸』における三谷の脚本は、女性たちによる現代劇風のコメディーシーンこそあるものの、「史実しっかり描き、笑いはほどほどに抑制しよう」という意志を感じる。武田勝頼(平岳大)の最期に涙腺を刺激され、織田信長の危うさにドキドキし、明智光秀(岩下尚史)の「敵は本能寺にあり」にハッとさせられたように、今後も単なる信繁の成長物語ではなく、親兄弟が袂を分けて戦うようなシビアなシーンを見せてくれるだろう。(木村隆志)