2016年02月07日 08:51 弁護士ドットコム
世界各地の建物の壁などに、社会風刺的な作品を描くことで知られるイギリス在住のストリート・アーティスト「バンクシー」。その正体は不明とされているが、作品は世界的に人気があり、過去にオークションで1億円以上の落札価格がついたものもあるそうだ。
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報道によると、そんなバンクシーの新作が1月下旬、ロンドンにあるフランス大使館の向かいのビルの壁でみつかった。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」に登場する少女が涙を流している姿が描かれていた。イギリスに渡ろうとして、フランス北部の港町に集まった不法移民に対して、現地警察が催涙ガスなどを使用したことを風刺したものとみられている。
ところが、この新作は、発見からわずか数日で撤去されてしまった。バンクシーの作品は過去に盗難されたことがあり、ビルの関係者は「壊されたり、盗まれたりしないよう、撤去して保管する」と説明したという。
今回のバンクシーの作品は、工事中のビルの壁にはられたベニア板に描かれたものだった。もしオークションなどに出品されると、高額で取引される可能性もあるが・・・。日本の法律に照らし合わせると、今回のようなバンクシー作品は「誰のもの」といえるのだろうか。高木啓成弁護士に聞いた。
「バンクシー作品は『誰のものか』ということを考える場合、モノの『所有権』と、作品の『著作権』とに、問題をわけて考えなければなりません」
高木弁護士はこのように切り出した。所有権は誰にあるのだろうか。
「今回のように、バンクシー作品が、ビルの壁にはめられたベニア板に描かれている場合、そのベニア板の『所有権』はベニア板の持ち主にあります。バンクシーが絵を描いたことは、そのベニア板の所有権の帰属に何も影響しません」
では、バンクシー作品の『著作権』はどうだろうか。
「バンクシー作品の『著作権』は、その作品を描いたバンクシー自身に帰属します。たとえ、バンクシーが無断で他人の所有物に絵を描いたとしても、その持ち主に作品の著作権が帰属することにはなりません。
このように、作品が描いてあるモノの『所有権』と、作品の『著作権』が別人に帰属することは、よくあることです。
たとえば、絵画を買った場合、その絵画の『所有権』は購入者にあるけど、その『著作権』まで取得するわけではありません。絵画の『著作権』は画家に帰属していることが通常です。これと同じ状態になっているわけです」
では、ベニア板の持ち主とバンクシーは、具体的には、それぞれ、どのようなことができるのだろうか。
「ベニア板の持ち主には、そのベニア板について所有権がありますから、自宅に持ち帰ったり、売却したり、捨ててしまうことも自由です。また、そのベニア板を、展覧会で展示することもできます。
ただ、ベニア板の持ち主は、バンクシー作品の『著作権』を有しているわけではありませんから、ベニア板に描かれているバンクシー作品をコピーして販売するようなことはできません。
もし、そのようなことが起きた場合、バンクシーは、ベニア板の持ち主に対して、差止や損害賠償を請求することができます」
ところで、バンクシーの新作が描かれたベニア板は、ビルの壁に設置されて、誰もが目にすることができる場所にあった。このような場合、一般の人は、バンクシーの作品を写真にとったり、インターネットにアップロードすることはできるのだろうか。
「日本の著作権法には、屋外に『恒常的に』設置されている美術作品について、著作権が大幅に制限されるという規定があります。
ただ、『恒常的に』というところが微妙なポイントです。作品が描かれた後、持ち主が長期間にわたって、このベニア板を同じ場所に設置されたままにしているような場合であれば、一般の人は写真を撮ったり、インターネット上にアップロードしたりするなどの利用が可能と考えられます。ただし、複製して販売するような利用はできません」
高木弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高木 啓成(たかき・ひろのり)弁護士
福岡県出身。2007年弁護士登録(第二東京弁護士会)。ミュージシャンやマンガ家の代理人などのエンターテイメント法務のほか、IT関係、男女関係などの法律問題を扱う。音楽事務所に所属し、作曲活動、ロックドラマー、DJとして活動するほか、「hirock’n」名義でiTunes等にて自らの楽曲を音楽配信している。
Twitterアカウント@hirock_n
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事務所名:アクシアム法律事務所
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