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特撮、メンバー全員が語るバンドの成熟「みんなで音を出せば、ちゃんと特撮の音になる」

2016年02月06日 21:21  リアルサウンド

リアルサウンド

特撮(写真=下屋敷和文)

 NARASAKI(ギター)、ARIMATSU(ドラム)、三柴理(ピアノ)ーー楽曲提供やプロデュースやサポートなど、各方面で大活躍中のメンバーが、音楽的方向性もジャンルも本当に多岐にわたる曲を持ち寄り、ジャムセッションで仕上げ、それを大槻ケンヂ(ボーカル) が「人の人生や世界の動きは、クルマのウインカーを指2本で動かす程度の、ほんのちょっとした力で変わってしまう」というコンセプトでまとめた特撮のニューアルバム『ウインカー』。「今の時代に即した新しい音でラウド&ヘヴィなロックをやる」という目的(だったように当時は見えた)で結成してから16年、活動休止を経て再始動してから5年。他に類を見ない、自由で、ユニークで、しかし難解とは逆でロック好きのツボを突きまくる音楽集団、特撮は作品を重ねるごとに、どんどんそんなワン&オンリーな方向へと進んでいる。(兵庫慎司)


・「経験を積めば積むほど、基本に戻る」(ARIMATSU)


ーー「今回はこういうアルバムにしよう」というような話し合いはーー。


ARIMATSU:もちろんありましたよ。


大槻ケンヂ(以下、大槻):集まってミーティングみたいなの、したよね?


三柴理(以下、三柴):やったやった。


NARASAKI:まず、自分の場合、曲作りがすっごい難航してて。全然出てこなくなっちゃってて……コンセプトが定まってなかったので。ロックを作る上で、体幹的なものが重要だなあと思って、メンバーに集まってもらって、ジャムる形でその場でリフを作ったりして。


ーージャムで曲を作るというのはーー。


NARASAKI:ほぼ今回初めてですね。


ARIMATSU:今回みたいに、ゼロからみんなでスタジオに入って、っていうのは。


三柴:それはそうかもしれない。


NARASAKI:コンセプトを探してたというか、これだ!というアルバムにするためのものがほしかったんですけど、それが自分の中になくて。でも、実際に集まってみんなで音を出したら、「ああ、みんなで音を出せば、ちゃんと特撮の音になるんだな」ということがわかって、安心しました。


ARIMATSU:まあ時代が時代なんで、だんだんそういう作り方ってしなくなっていくものなのかもしれないけど。でも、逆にキャリアを積めば積むほど、そういうところに帰っていくのかなという気も、今回、したというか。まっさらな状態でスタジオに入って、リフを弾いて、そこにリズムをつけて曲を構築していくのって、バンドの基本なので。経験を積めば積むほど、そういう基本に戻るのかな、という気はしましたね。


ーー大槻さんは?


大槻:僕はね、詞を書いて歌いに行くだけだから、録音の過程においてはわからないことが多くて。でも、それがいいと自分では思っていて、あの、バンドによっては曲を作らないボーカルの人があれこれ言うバンドもあるのかもしれないけど、僕は基本的に「どうぞどうぞ。ここだけやらしてよ」というタイプだから。その方がミュージシャンは、自由にできると思ってるんですよ。だから、ある程度の曲ができるまでは、何も言わないです。


ーーその場にはいるんですか?


大槻:いたりいなかったり。


ーー筋肉少女帯の時と同じ感じなんですね。


大槻:何をやっても僕、そうです。電車っていうバンドもやってるけど、そこでもそうだし。特撮の場合も、楽曲がある程度できあがるのを待って、トータルでどういうふうになるかなというのを想像しながら、たまに「ナッキー(NARASAKI)、もうちょっと明るい曲も1曲ちょうだいよ」とか「この曲は保留で次のアルバムにしとこうよ」なんてことを、時々言う感じですかね。だから、サウンドがある程度作られたところから歌詞のコンセプトを作っていって、それを投げて、また作ってもらって……っていう順番ですね。



ーー今回そのある程度できたサウンドを最初に聴いた時、びっくりしなかったですか?


大槻:あのね、最初に届いたのが「荒井田メルの上昇」と「富津へ」と「ハザード」だったの。あともう1曲、保留になった曲で……アンビエントっていうの?ムーディーっていうの?


三柴:ボサノバでしょ?


大槻:ボサノバだったね。だから全然ラウド・ロックじゃなかったので、「うわ、すごい方向に行ったなあ」と思ったんだけど、そのあとアーリー(ARIMATSU)が持ってきた曲が、ハードロック2曲だったので。で、エディ(三柴)の「ハンマーはトントン」と「旅の理由」というクラシカルな曲があって。「愛のプリズン」は最初から入れようと言っていたからーーあれはハードな曲だから、それでなんとなく「ああ、これはいい感じのバランスのアルバムになるな」と思いました。だから、ボサノバの曲を保留にしたのは、英断だったでしょうね。あれが入っていたらまた違う感じになったと思うな、曲として強かったから。
 僕はね、今回、どれもこれも曲がいいと思ったの、最初に。これはおもしろくなると思いましたね。あと、なんとしてでもノセようっていうんじゃない感じじゃない曲調っていうのかな、そういうのが、成熟したリスナーを対象にできる気がしましたね。


NARASAKI:まあ、今回は自分の気持ち的には、まず最初に、大槻さんの見せ方として、メロがはっきりとしていて、あんまり声を張らずに歌える曲っていうのが、今の大槻さんの魅力を引き出せるものなんじゃないかな、というふうに考えて。それで、いわゆるラウド系じゃない曲から作り始めた、っていうのはありますけど。


大槻:以前の特撮と比較して、もし変わっているところがあるとしたら、やっぱりみんな年齢的に成熟したところがあって、音も成熟した部分があると思うのね。個人的に「あ、こう考えるとわかりやすいかな」と思ったのは、たとえば今回「アリス」という曲があって。重いヘヴィ・ロックなんだけれども。かつて「殺神」という曲が……3枚目のアルバムかな(『Agitator』、2001年リリース)。それもヘヴィな曲なんだけれども、今回の方が洗練された感じがあるなあと思って。あと、その3枚目に「人間以外の俺になれ」っていう、ブギーみたいな曲があって。今回も「人間蒸発」っていう、ブギーで始まるモーターヘッド的な曲があるんだけれども、どっちかというと昔の方が作りこんでるんだよね。今回はもっとバンドっぽくバーンとやっちゃってる。その荒々しさが逆にバンドとしての成熟なんではないか、というような気がしましたね。


・「発見があっておもしろかった」(大槻ケンヂ)


ーー僕は少し前にVOGUE JAPANという雑誌の「アラフィフミュージシャン特集」みたいな企画で、大槻さんにインタビューさせていただいたんですがーー。


大槻:ああ、ありましたね。


ーーその時大槻さんは、自分がやっているのはラウドロックだから、歳をとっていきながらやり続けるには向いていないジャンルなんだ、とおっしゃっていて。


大槻:そう、そうなんですよ。今回のアルバムで思ったのが……最終的にはラウドロックではあるんだけれども、ボーカリストとしてきついっていうところじゃない部分での、ハードさを出してもらった気がするの。そこはとってもうれしかったですね。


NARASAKI:そうですね。めずらしく……自分はけっこうデモの時点で作りこんでいくことが多いんですけど、「人間蒸発」っていう曲は、「譜割り・文字数などはおまかせします」みたいな、わりとふんわりとした感じで歌詞をお願いして。それでおもしろくなったな、大槻さんの文才とかかっこいいところがけっこう引き出せたな、うまくいったなと思っております。


大槻:あと、僕はアーリーの作ってきた曲が……リズム主体の曲じゃない? だから、これにどういうふうに詞をのせようか、すごい悩んだんだけど……でも個人的には、「中古車ディーラー」とか、うまいこといったなあと思って。つまり、ガーッときてガーッと終わる曲だから、「どうしよう?」と思ったんだけども……テレビ東京で、昔、昼間にやっていたガーッときてガーッて終わる、70年代のアメリカのB級映画。あれでいこうと思って。


ARIMATSU:(笑)へえー。


大槻:ナッキーはいろんな人に曲を作ったりしてるので、曲を聴くとなんとなくわかるものがあるんだけれども、アーリーの曲は「どうしよう?」っていう。そこで、自分の中で発見があっておもしろかったですね。エディ(三柴)の曲も、根本がクラシックだから、すごくね、歌詞作るのが難しいのよ! すごい壮大に曲が展開するから、「どうしよう?」って。それが今回おもしろかったなあ、「旅の理由」って曲で。あ、あの曲の間奏で「ライト、レフト、ライト、レフト」ってエディの声が入ってるじゃない? あれはその場で言ったんだよね?


三柴:うん。仮歌の時にポッて出て。


大槻:それがOKになってて、あれはおかしかった。


三柴:誰にもダメって言われなくて。あれは……『モンティ・パイソン』が終わったあと、そのメンバーが始めた『リッピング・ヤーン』っていう番組があって。その番組の中で、「過剰にサービスするホテル」みたいなのがあって、客に「このカーテンはこういうふうに開きますよ。ライト、レフト、ライト、レフト」ってずっとやってて「バカにすんなよ!」って怒られる、っていうギャグがあるんだけど。それを急に思い出しちゃったんじゃないかな、と思う。


大槻:ええっ? そうなの? ていうか、エディ、『モンティ・パイソン』好きなの?


三柴:うん、イギリスの笑いのものはけっこう観てる。


大槻:そうだったのか! いやあ、こういうので初めて知るねえ。30年以上の付き合いだけど知らなかった(笑)。


・「ものすごいロックなアルバムができた」(三柴理)


ーーご自分の曲に「中古車ディーラー」というタイトルを付けられるお気持ちは?


ARIMATSU:いや、だって毎回そうだから(笑)。


大槻:だって最初にアーリーの曲に付けたのは、「水天宮と多摩センター」だし。


ARIMATSU:「湘南チェーンソー」だったり。だからもうこの15年の付き合いで、違和感はないです(笑)。「きたっ!」ぐらいで。


NARASAKI:「ダンシングベイビーズ」よりはね。


全員:(笑)。


大槻:あれすごいよねえ。あの曲、どうかしてるよなあ。


ARIMATSU:(笑)どうかしてるんだ?


大槻:うん。なんかねえ、あの当時、僕、いちばんおかしかった頃で。大槻ケンヂが公園で、赤ちゃんとふたりで歌って踊ってるのを誰かが見てる、っていう歌で……おかしかったなあ、あの頃は(笑)。『綿いっぱいの愛を!』に入ってるから、2005年くらいなんだけど。


ーーでも、これだけみなさんがジャンルも方向性もバラバラな曲を持ってきても、「ウィンカー」というテーマで、ビシッと統一したコンセプトアルバムに仕上げられるものなんですね。


大槻:僕は……あの、「愛のプリズン」を入れようというのは最初から思ってたから。「愛のプリズン」さえ入っていれば、あとはどんだけ好きにやっても辻褄が合う、と思ったんですよ。とにかくあれは本当によくできた曲で、しかも、ほんとに大槻ケンヂの作詞人生の中で、ひとつの頂点に達したと思ってるんです。そこからまた『ウインカー』を出して、違う方向に行こうと思ったんだけど。だから、「これは絶対おもしろい!」っていう曲が1曲入ってるから。もう「ホテル・カリフォルニア」が入ってるようなもんだから。


全員:(笑)。


大槻:もう「ホテカル」はある! 「天国への階段」はもうあるから、あとはどんだけ好きにやってもいいだろうと。


三柴:あと今回のレコーディングね、RIKIJI(サポートメンバー/OBLIVION DUST、MEGA8BALL)のベースがすっごいグルーヴしてて。ほんとにいいベース弾いたなあと思って、あの人。今回そのせいもあって、ロックしてるなあと思う。聴いてて気持ちいいんですよね。ほんとにロックなアルバムになったのは、彼のおかげも大きいのかなと思います。サポートに助けられた。


ーーそうか、ジャムる時から一緒にやってたんですね。


三柴:ええ、スタジオに来てもらって。


大槻:僕より確実にスタジオにいました(笑)。


三柴:全体的にものすごいロックなアルバムになりましたね。歌謡曲みたいなことをやってんのにロックだって言ってる人が多い中、ずいぶんロックなアルバムができたなあと思って、うれしいですね。


ーーそのロック感が出ているところもそうですけども、バンドをやっていることの楽しさが、すごく伝わってくるアルバムにもなっていますよね。


ARIMATSU:うん、今回けっこう長くスタジオに……それこそ去年の夏前から入ったりしてたんで。すごく身体に染みついている感じですよね、1曲1曲が。そういう意味でも楽しかったし、思い入れもあるし。


大槻:ズバリ言って、特撮は、いい環境でレコーディングをさせてもらってると思うなあ。僕がほかでやってるインディーズのバンド……電車は、俺、歌入れ、1日か2日だったもんなあ(笑)。


・「金持ちになろうよ」(NARASAKI)


ーーだから、メンバーそれぞれすごく忙しい中で、それでもこのバンドで作品を作るしライブを行う、というのは、かなり強いモチベーションがないとやらないですよね。


ARIMATSU:活動を停止してから復活、ってことになってからは、やるからには、みんな忙しい中でもしっかりとクオリティがあるものをやりたい、というのは強いので。


大槻:ただ、商業的成功とか、そういったことに対するギラギラしたものはないよね、最近はね。


ARIMATSU:そうですね。それよりも、作品としていいものを作りたいと。


大槻:それは、年齡的なものもあるだろうし、みんなほかでもいろいろやってるしね。


NARASAKI:僕はめちゃくちゃ金持ちになりますよ! このバンドで。


大槻:えっ、このバンドで? ああー……そっかあ(笑)。


ARIMATSU:そこはまあ、レコード会社さんにがんばってもらって(笑)。


NARASAKI:金持ちになろうよ。


大槻:「金持ちになろうよ」っていい言葉だね(笑)。ね? あったよねそういうの、なんだっけ……「家族になろうよ」だ(笑)。いいなあ。


ーーNARASAKIさん、なにゆえに突然金持ちになる宣言を?


NARASAKI:いや、なんかみんなあきらめムードだから(笑)。


全員:はははは!


大槻:いや、あきらめっていうんじゃないけど、まあ、そういうところに照準をしぼってもいないなあ、っていう、大人のーー。


NASARAKI:いや、だってこの席にレコード会社の方もいらっしゃるんで。俺はその手前ね、「がんばって売っていきましょう!」って言いますよ。


大槻:でもレコード会社も、そんなに特撮で儲けようとは思ってないと思うよ?


全員:(爆笑)。


大槻:(レコード会社の方に)でしょ? でしょ? わかるもん!


NARASAKI:「そんなことないです」って言うしかないじゃん!(笑)。


大槻:わかるもん、長いことやってたら。でも、それは悪いことじゃない。逆に、特撮の肩にレコード会社の社運がかかってたら困るもん。


ーーでもまあ、儲けるためだとしたらーーこのメンバーくらいキャリアがあって、サポートやプロデュースや曲提供をいっぱいしている人たちの場合、いちばんお金にならない仕事は自分のバンドだ、というのはよくききますね。この年代のミュージシャンだと。


NARASAKI:まあ、俺はそのタイプかもですね。


ーーそれでだんだんバンドが動かなくなっていく、ということも多いみたいで。


大槻:うんうん。でもミュージシャンってそういうのも、いろいろ紆余曲折があるっていうのが普通なんじゃないですかね。っていうふうに、最近思うようになったな。お金持ちになったらいいな、というのは……フレーズとしてはおもしろいけど、実際には考えないもんなあ。


NARASAKI:まあ、久しぶりに集まって売れるものを作らなきゃと思ったら、こういう感じにはならないかなと思いますけどね(笑)。


大槻:ああ、いかにも売れるものを作ろう、って考えた場合はね。そうだね、それを求められないのが特撮のいいところじゃないですかね。


NARASAKI:まだ言う(笑)。求められてるかもしんないけどね。


大槻:いや、それは俺は思うよ! 絶対にセールス的なことを考えて作ってくださいと言われたら、あんまりおもしろくなくなっちゃうもんなあ。


NARASAKI:まあ、そうだね。おもしろくなくなっちゃうかもね。
(取材・文=兵庫慎司)