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映画の“続編”に必要なもの何か? 『スター・ウォーズ』から『ファインディング・ドリー』まで多様なアプローチを考察

2016年02月06日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

 映画において人気作品の続編を作ることは、決して簡単ではない。続編が作られるということは、第一作が成功して評価を得たことの証であり、そこで得たファンがかなり高い確率で観てくれるという意味で興行的にもメリットは大きいが、鑑賞者は必然的に前作との比較をするため、より評価が厳しくなりがちである。続編を楽しみにする人々はもちろん、前作と同等かそれ以上の興奮や感動を求めるので、制作側はすでに築いた世界観になにかしらの新しい視点を提供しなければいけないが、かといってあまりにも異質な作品にしてしまうと、それはそれで「ファンの期待を裏切った」と批判されてしまう。


参考:『ジュラシック・ワールド』がシリーズ最高傑作である理由 速水健朗が見どころを解説


 だからこそ、多くの作品は前作で描いたストーリーをなぞる形で、さらに過剰な演出を施すという形式に落ち着く。スーパーヒーローは新たな武器でより強大な敵に挑み、モンスターは増殖してしつこく付きまとい、涙の感動物語はさらに深刻度を増して死人も出る、といった具合に。もちろん、それで作品のスケールがアップして人気シリーズとなる場合もあるし、登場するキャラクターなどに愛着を持てる場合は、そのお約束感も楽しみのひとつとなり得るだろう。


 しかし最近は、うまく切り口を変えることで過剰な演出を抑えつつ、ファンたちの期待に応えようとする作品が目立っている。たとえば、今年7月公開予定『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』は、そもそも前作が『不思議の国のアリス』の後日談を描いた作品だったが、今作ではアリスら登場人物がさらに成長しているうえ、しかも過去にタイムスリップするストーリーが描かれるとのこと。つまり、アナザーストーリーで新たなキャラクターを与えられた登場人物が、原作の世界に近づくという、非常に凝ったアプローチとなっているのだ。


 昨年公開された『ロッキー』シリーズの最新作『クリード チャンプを継ぐ男』も、意欲的な続編だった。『ロッキー』シリーズはそれまでシルヴェスター・スタローン演じるロッキーの戦いが描かれ続けてきたが、前述した過剰な演出のサイクルに陥っている感は否めず、その評価は回を追うごとに下がってしまった印象だった。しかし、『クリード チャンプを継ぐ男』は、同シリーズに並ならぬ情熱を持ったアフリカ系アメリカ人の監督、ライアン・クーグラーが、脚本家や監督としても同シリーズに参加していたシルヴェスター・スタローンからメガホンを譲り受ける形で制作。ストーリーにおいてもロッキーがアフリカ系アメリカ人の若き才能、マイケル・B・ジョーダン演じるアドニス・ジョンソンのトレーナーになり、ともにチャンピオンを目指すという内容で、当サイトで宇野維正氏が指摘したように「ブラック・ムービー」としての側面も与えられていた。(参考:まさかのオリジナル『ロッキー』超え!? 『クリード チャンプを継ぐ男』が血湧き肉躍る傑作な件)


 前作の世界観を活かしつつも、新たな主人公を起用するという方向性でいうと、『スター・ウォーズ』シリーズの最新作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』や、『ファインディング・ニモ』の続編にあたる『ファインディング・ドリー』なども挙げられるだろう。前者は過去のシリーズへの気配りが過ぎるといった批判もあったが(だから続編は難しい)、新キャラクターの評判は上々だった。『ファインディング・ドリー』は、前作では異常なほどの忘れん坊ぶりで、物語をかき回す“トリックスター”の役割を担っていたドリーを主人公に据えるということで、前作を知っているからこそストーリーが読めない部分があり、巧いやり方だと感心する。また、作品毎に主人公と舞台が一新され、“改造自動車のレース”が描かれ続けている『ワイルド・スピード』シリーズも、こうした方向性で成功した一例といえるだろう。同シリーズは監督もたびたび変更しており、同じ題材に向き合いつつも、常に新作を観るような刺激を味わえるのも特徴だ。


 一方、主人公の成長が物語の軸にならず、かといって舞台を大きく変えることもなく、人気シリーズとして定着するパターンもある。メル・ギブソンの人気を確固たるものにした、『リーサル・ウェポン』シリーズは、その典型だろう。メル・ギブソン演じるマーテインと、ダニー・グローヴァー演じるロジャーの刑事コンビを中心としたアクション映画で、こうした作品の場合、背景となる事件が異なるだけで十分に続編が成立する。日本でいえば『あぶない刑事』シリーズもそうだが、こうした作品に求められるのは新たな“謎解き”であり、その完成度さえ高ければ、ほかの部分は基本的に踏襲するのが正しいやり方といえよう。しかし、やはり作品のキャラクターに目新しさはないため、新規ファンの開拓が難しいという面もあるのかもしれない。『あぶない刑事』シリーズの場合は、主人公がリアルタイムで年齢を重ねていくことが、魅力のひとつともなっているのだが。


 異なる作品で同じ世界観を共有することで、続編に広がりをもたせているケースもある。これまでに『アイアンマン』、『キャプテン・アメリカ』、『アベンジャーズ』といった、多くの大ヒットシリーズを手掛けてきたマーベル・スタジオは、そういった意味で秀逸だ。マーベル・スタジオは大ヒットシリーズをもとに「マーベル・シネマティック・ユニバース」という世界を築きあげており、この世界観をもとに作られた作品はすべて、他のマーベル・スタジオの作品とリンクしている。この仕掛けによって、あるマーベル・スタジオ作品のファンになると、別のマーベル・スタジオ作品もより深く楽しめるというメリットがある。また、『アベンジャーズ』シリーズのように、マーベル・スタジオ作品のキャラを同時に複数登場させ、新たな物語を築くことも可能だ。


 近作でもっとも成功した続編というと、『ジュラシック・パーク』シリーズの最新作にあたる『ジュラシック・ワールド』も見逃せない。1993年に公開された『ジュラシック・パーク』は当時、配給作品としては初めてdtsデジタルサウンドを導入したほか、アニマトロニクスとコンピュータグラフィックスを駆使するなどして、後の映画に大きな影響を与えた作品となった。今回の『ジュラシック・ワールド』は、新たな規格であるIMAXなどの3D映像を存分に楽しめる作品として、アトラクション映画の新時代を感じさせる仕上がりになり、オープニング週末3日間の興行成績が全世界合計で5億2410万ドルという記録的な大ヒット作となった。技術革新によって続編を成立させた作品として、これほど明解な事例も珍しいだろう。


 そのハードルの高さゆえ、制作にはリスクも伴う映画の続編だが、そこから新たな表現が生まれることも少なくない。それぞれの作品がどんな工夫によって前作を刷新しているかに注目すると、続編の楽しみ方も広がりそうだ。(近藤真弥)