2016年02月04日 11:31 弁護士ドットコム
「ガンが転移している。残りの人生は愛人と過ごす」。余命宣告を受けた夫から、そんな告白を受けたという結婚25年目の主婦の投稿が、ネット掲示板で話題になりました。夫からは、ガンが転移していることや、離婚して不倫相手と結婚したいことを打ち明けられたそうです。
その後の話し合いで、不倫相手に結婚の意思がないことから、とりあえず離婚の危機は回避できたそうですが、愛人に対する気持ちに変わりはないようで、気になるのは、夫の財産の行方です。
もし夫が「愛人に財産を残したい」と希望した場合、妻は阻止することはできるのでしょうか? 須山幸一郎弁護士に詳細な解説をしていただきました。
A. 贈与・遺贈自体は、妻の関与なく夫が勝手にできる。
不倫相手に財産を残す契約や遺言などは、公序良俗に反し、無効になるのではないかと考えられがちです。しかし、実務では、必ずしもそのような考え方は取られていません。
夫が不倫相手に財産を残す方法としては、「贈与」または「遺贈」が考えられます。
「贈与」とは、生前に契約によって相手に財産を譲ること。「遺贈」とは、遺言によって財産を譲ることをいいます。
贈与は、契約の一種で、夫と不倫相手の合意が必要です。それに対して、遺贈は、遺言という単独行為で、夫が一方的にできるのがポイントです。
参考になる最高裁の判例があります。男性が不倫相手の女性に、財産の一定割合を遺贈する内容の遺言を残していたケースでした。
最高裁は、遺贈した目的を重視し、次のような判断を示しました。
(1)不倫関係を維持継続することを目的としてなされた遺贈は無効。
(2)遺贈の目的が遺贈を受けた女性の生活を保全するためになされたもので、遺言の内容が妻子など相続人の生活の基盤を脅かすものでないときは、有効となる余地がある。
こうした考え方は、贈与にも同様に適用されると思われます。目的によっては、夫は贈与または遺言により、不倫相手に財産を残すことができることになります。
贈与・遺贈自体は、妻の関与なく夫が勝手に行うことができるので、妻としては、これを事前に阻止することは困難です。
したがって、これらが発覚した場合に、事後的に無効を主張していくケースが大半であると考えられます。
当然のことですが、まずは夫とよく話し合い、そのような遺贈・贈与等を行わないように求めましょう。
不倫相手の所在が分かっているのであれば、不倫相手に対し、「夫との不倫関係の解消」、「慰謝料請求」、「贈与を受けた財産に対する返還請求の予告」を内容とする内容証明郵便を送付し、夫から贈与を受けないように求めておくことが考えられます。
なお、仮に遺贈が有効とされた場合であっても、離婚さえしていなければ、遺留分相当額は認められます。
したがって、夫に離婚届を勝手に提出されないよう、離婚届の不受理申出をしておくことも重要です。
【取材協力弁護士】
須山 幸一郎(すやま・こういちろう)弁護士
2002年弁護士登録。兵庫県弁護士会。神戸家裁非常勤裁判官(家事調停官)。三宮の旧居留地に事務所を構え、主に一般市民の方を対象に、法律相談(離婚・男女問題、相続・遺言・遺産分割、借金問題・債務整理等)を行っている。
事務所名:かがやき法律事務所
事務所URL:http://www.kagayaki-law.jp/