2016年02月03日 12:42 弁護士ドットコム
幼児虐待事件が相次いで発覚している。埼玉県狭山市の3歳女児が、やけどを負ったのに放置され、死亡が確認された事件で、埼玉県警は1月末までに、女児の母親と同居する内縁の夫を「保護責任者遺棄罪」と「暴行罪」の容疑で逮捕した。この事件をめぐり、市や県警、児童相談所などの対応に不備はなかったのかと疑問の声があがっている。
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女児が死亡する前に、近隣住民からの110番通報が2回あったと報じられたからだ。2015年6月には、家の外でブランケットにくるまって泣き続ける女児を目撃した近隣住人から通報があった。翌7月にも「30分前から室内で女の子が泣き続けている」との通報があったという。
2回とも狭山警察署員が現場に駆けつけている。しかし、女児の体にあざなどの暴行を受けた形跡や、着衣の乱れなど虐待を疑わせる様子がなかったことから、両容疑者への注意・指導で終わり、県の児童相談所には連絡しなかったとされる。
また、その前の2013年4月~2015年5月には、乳幼児健診が未受診だったことから、狭山市職員が3回自宅を訪問していたが、虐待のサインは確認できず、養育状況は問題なしと判断していた。
今回のようなケースでは、関係機関がどのように動いていたら、女児を救うことができたのか。児童虐待の問題に詳しい榎本清弁護士に聞いた。
「今回の事件については、まず、各機関どうしの情報共有が不十分だったと言えるでしょう」
榎本弁護士は、まずこのように指摘した。
「現在、各市町村には、児童相談所職員や市町村の児童福祉などの担当員、警察職員、保健所職員等で構成される協議会があります。協議会での話し合いで、各機関が問題だと判断した案件については、情報共有などの連携がはかられるようになっています。
また、警察と児童相談所の連携についても、2006年(平成18年)に警察庁から通達(『児童の安全の確認及び安全の確保を最優先とした児童虐待への対応について』)が出されて以降、年々推進されてきてはいます。
たとえば、児童相談所に警察職員やそのOBを配置したり、合同研修会などを通して連携を強めることで、情報共有や共同対応をしやすい体制を整えてきました。ほかにも、情報提供の際の書式などを整備したり、児童虐待やいじめなどに関する相談を受け付けている警察の『少年サポートセンター』と児童相談所の連携も現在すすめています。
こうした連携の推進だけが理由ではありませんが、警察から児童相談所への通告の件数自体は、ここ数年で飛躍的に増加しており、一定の評価はできると思います」
では、なぜ、今回のような事態が起きるのだろう。
「要因としては、最初に通告を受けたり、認知したりした機関の情報が、すべての機関で共有されるわけではない点があります。特に、一般の方から警察へ通報がなされた場合、警察において、児童虐待が疑われると判断されたケースのみが、警察から児童相談所へ通告される実態があるからだと思われます。
加えて、通報を受けて対応する警察官も、必ずしも児童虐待に精通しているとは言えないため、確認不足などにより、児童虐待を見過ごしてしまう場合もあるでしょう。
今回のケースでは、市も警察も児童虐待に関する情報は有していたものの、それぞれが問題なしと判断し、警察から児童相談所にも通告がなされませんでした。
こうした要因により、児童相談所等に、虐待の判断の前提となる情報が届かず、結果的に児童虐待を見過ごすという事態となっています」
悪い流れを断ち切るためには、どうすればいいのだろう。
「児童虐待に関する通報を取得したら、各機関における問題性の有無の判断にかかわらず、各機関で情報を共有できるようにすべきです。特に、警察は捜査にあたると同時に、速やかに児童相談所へ通告する必要があります。また、一般の方の心構えとしても、警察への通報だけでなく、児童相談所への通報も併せて行うよう心がけていただけると間違いは減るでしょう。
なお、児童虐待などの相談にあたる『少年サポートセンター』の警察官だけでなく、一般の警察官についても、より一層、児童虐待の実態の理解を深める必要があります。
そして、警察・児童相談所・行政での情報共有を推進した上で、児童相談所が迅速に対応できるよう人的・物的に充足させることが、今回のような被害女児を救うことにつながります」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
榎本 清(えのもと・きよし)弁護士
榎本 清 (えのもと・きよし)弁護士
埼玉弁護士会所属。2005年弁護士登録。児童虐待案件で、児童相談所対応、審判対応などをした経験をもつ。離婚・相続問題、交通事故紛争等の一般民事から、労働問題まで幅広く対応している。
事務所名:西風総合法律事務所
事務所URL:http://www.ab.auone-net.jp/~enomoto/