2016年02月03日 10:31 弁護士ドットコム
借金さえなくなれば、人生をやり直せるのに…。そんな風に考えている人は少なくないのではないでしょうか。「借りたものは返すのが当たり前」ではあるものの、民法には、借金や債務が消える「消滅時効」という制度があります。時効がくれば、借金はなくなるのでしょうか? 羽賀裕之弁護士に解説をしていただきました。
Q. 借金をなくして、人生をやり直したい
14年ほど前に失業して、複数の消費者金融から合計400万円ほどの借金を作ってしまいました。
夜逃げ同然に引っ越して、借金の返済もせず、人生に絶望して生きてきましたが、もう一度人生をやり直したいと考えています。
最近になり、借金にも時効があって、返さなくてもいい場合があると聞きました。時効になっているかは、どのように確認すればいいのでしょうか。何か手続きが必要なのでしょうか。
A. 消費者金融からの借金の時効は5年。ただし、「時効の中断」に注意
相談者が聞いた「借金にも時効があって、返さなくてもいい場合がある」とは、時効のなかでも、権利の消滅を主張する「消滅時効」という制度をさしています。
ざっくり言えば「権利が行使されていないのなら、その行使されていない状態を尊重しましょう」「権利を持っているのに、いつまでも行使しない人は保護する必要ありません」というのが制度趣旨です。
時効を主張するための条件は、次の2つです。
(1)時効期間が経過したこと、
(2)時効援用の意思表示(時効になったから払いませんと相手に通告すること)
(1)の時効期間については、権利の性質等によって長さが異なります。一般的には、借金(貸金債権)の時効期間は民法で10年と定められていますが、今回のケースのように消費者金融から借りている場合、商法の規定が適用されるので、時効期間は5年です。
いつから5年をカウントするのかというと「権利を行使することができる時」からです。借金の場合で言えば、返済期限がきて「貸したお金を返してください」と言える時からです。
この「時効期間」で気をつけなければいけないのが、「時効の中断」という制度です。「時効の中断」とは、一定の事情が発生した場合に、時効期間の進行が振り出しに戻り、そこから新たに時効期間が進行するという制度です。
時効が中断する事由を一つあげると、「承認」というのがあります。借金を一部返済することなどがこれにあたります。時効期間が進行している最中に、一部でも借金を返済(弁済)することは、借金の存在を認めたことになるからです。
(2)の「時効援用の意思表示」とは、時効の利益を享受する旨の意思表示です。簡単に言うと、「その債権は時効によって消滅したから払いません」と債権者に通告することです。
時効援用の意思表示は、特に決まった形式はありませんが、後の裁判等で証拠として使えるように、配達証明付内容証明郵便で債権者に送付するといいでしょう。
これによって、どういう内容の文書がいつ債権者に配達されたかが、証明できることになります。
相談者のケースでいえば、借金の返済期限が始まってから14年が経過しており。「時効の中断」にあたる事情がなければ、すでに時効期間は経過していることになります(仮に、途中で中断にあたる事情があったとしても、その時点からさらに5年が経過していれば、やはり時効は完成しています)。「時効援用の意思表示」を債権者に通告することで、借金の返済は不要になります。
なお、債権の原則的な時効期間を5年とする民法の改正が、国会での審議後に成立する見通しです(施行日は現在のところ未定です)。
【取材協力弁護士】
羽賀 裕之(はが・ひろゆき)弁護士
J.ウィング総合法律事務所代表弁護士。離婚等の男女問題の他、労働問題、インターネット関連(誹謗中傷等)等多数取扱。
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