2016年02月02日 18:31 リアルサウンド
修二と彰「青春アミーゴ」や、山下智久「抱いてセニョリータ」など、数々のヒット曲を手掛ける作詞家・zopp。彼は作詞家やコトバライター、小説家として活躍しながら、自ら『作詞クラブ』を主宰し、未来のヒットメイカーを育成している。連載第1回では、中田ヤスタカと秋元康という2人のプロデューサーが紡ぐ歌詞に、第2回では“比喩表現”、3回目では英詞と日本詞の使い分け、第4回は“風諭法”、第5回は歌詞の“物語性”について、同氏の作品や著名アーティストの代表曲をピックアップし、存分に語ってもらった。今回は、趣向を少し変え、作詞家の立ち位置と『作詞クラブ』の今後についてじっくりと話を訊いてみた。
・「プロの作詞家は作り方が広告のプランナー的なんです」
――今回は作詞家の立ち位置について、掘り下げていきたいと思います。zoppさんは黒猫チェルシーが2月3日にリリースする新作『グッバイ』の表題曲で「ワードアドバイザー」を務めていますが、この肩書きは「作詞家」と何が違うのでしょうか。
zopp:自分が考えた言葉が一文字も使われていなかったとしても、世界観を共有して「こういう歌詞を作ったら?」と提案し、それが何かしらの要素として使っていただいていれば「アドバイス」だという認識です。
――歌詞を実際に考えたりアイディア出しをすることと、アーティストが書いた歌詞にアドバイスすること、どちらのケースのほうが多いのでしょうか。
zopp:同じくらいですね。ひとつのテーマに対していくつかの歌詞を考えさせていただくことも、本人が書いたものを「こういう風にしてみるのはどうでしょう?」と提案させていただくこともありますね。もちろんすべてをこちらが強制するわけではなく、最終的に歌う本人であるアーティスト側にそれを受けて判断していただくという形です。
――具体的にはどのようなアーティストに対してアドバイスを?
zopp:バンドマンは自分の世界観がすごくしっかりしていて、詩的表現とかも得意な方が多く、彼らは誰にも何も言われたくないと思うのですが、そのなかには“歌うことだけが好きな人”もいるんです。伝えたいことは「キミが好き」とか「地球が平和になればいい」というくらいシンプルなのに、上手く言葉にできない人とか。そんなバンドに対して、アドバイザーとして表現したいことを丁寧にくみ取り、アウトプットのお手伝いをさせていただいています。
――なるほど。ワードアドバイザーという言葉をこれから先、どう浸透させていきたいですか?
zopp:僕は作詞家になる原点がU2などの歌詞を訳詞したことだったりして、バンドが大好きなんです。そのうえで、ポップな音楽性を持つアーティストと関わってきた自分だからこそ、バンドたちには色々な世界を見てもらいたいと思っていて。上から目線で「プロデューサー」として関わるのはちょっとおこがましいかなと感じていますし、バンドのファンにも「詞を監修している」と認識してほしいので、“ワードアドバイザー”という肩書を使わせていただきました。
――その肩書が十二分に活きるのはどういうシチュエーションなのでしょう。
zopp:タイアップ楽曲など、ある程度制約のある楽曲を制作するとき、ですかね。慣れていないと、目的地を決めていないまま書いて、ゴールまでの道のりが遠くなってしまうんです。プロの作詞家は、まずお題に沿ってデッサンをし、しっかりとゴールを定めたうえで色を塗っていきます。作り方が広告のプランナー的なんですよね。だから納期にも間に合わせるように作れる。いまは昔より、バンドマンにその技術が求められる状況なので、その部分をしっかりと伝えられればと思います。
――たしかに、バンドマンによる他アーティストへの楽曲提供が多くなったのは、プランナー的な人が増えたからともいえますね。
zopp:そうだと思います。そのぶん多方面に気を使わないといけなくなっている。本意ではないでしょうけれども、仕事だからしょうがない、周りが言っているからしょうがない、という思いもあるでしょうし。でも、タイアップ楽曲や提供曲は確実に経験値になるし、実際に関わってみて目から鱗の部分も多いと思います。
・「作詞家は明るい人もいるよと言う部分も伝えていきたい」
――プロの音楽家への指導も重要だと思うのですが、作詞家を育てるために行なっている「作詞クラブ」も、今年は地方に出張するそうですね。
zopp:もともと、地方の方から「通信講座や地方講演はないのですか?」と問い合わせを受けていたので、小説の出版記念イベントで地方に行くこのタイミングでぜひやりたいと思ったんです。今回の地方講座の反応次第では、定期的に全国を回ることもあるでしょうし。
――実際、現在東京で開催している「作詞クラブ」には、地方から受講者が応募してくることもあるんですか?
zopp:3割くらいはそうで、毎週大阪から新幹線で来る方も居れば、飛行機で大分からくる方もいます。毎期絶対一人は地方出身ですから。
――地方講座ではどのようなことを教えるのでしょうか。
zopp:譜割りや音取り、比喩表現などの基礎知識に加え、ほかとの差別化についても講義しようと思います。もちろん最後は本人のセンスによりけりですが、今回は「コンペで勝つために何をしなければいけないのか」という部分や「作詞のスピードを上げる」ための方法を伝授し、生き残るための講座を行ないたいですね。
――資質の話は他の人に学んでもらうとして、まずは基礎を固めるという内容なわけですね。
zopp:作詞には答えがないですし、質のことを教えだすと1回では終わらないからです。最低限の質は守らなくてはいけないとか、音取りの方法、歌詞カードの書き方などの実践知識、ほかには「締め切りを守らないといけない」や「クライアントの意見はなるべく取り入れる」という人間的な部分も。あと、僕の講座を受けた方から「作詞家ってもっと内気で暗くて口下手な人かと思っていたけど、zoppさんは明るくて話し上手なんですね」みたいな意見もいただいて。こういう活動を通じて作詞家は明るい人もいるよと言う部分も伝えていきたいですね。
――今回はこれまで参加できなかった未成年も応募可能なんですか。
zopp:今回は金額も安いですし、時間帯も日中から夕方なので。それに、地方で良い才能を見つけたら、その人に注目したいという、発掘でもあり、育成でもあり、宣伝でもあるという多面的な理由があります(笑)。
(取材・文=中村拓海)