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未だにトイレがなく「おまる」 被災地の弁護士が見た震災5年「支援」の実情

2016年02月02日 14:22  弁護士ドットコム

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東日本大震災の発生から丸5年となる3月11日が近づく中、岩手、仙台、福島の3弁護士会は1月31日、被災者支援の現状と課題を考えるシンポジウムを仙台弁護士会館で開いた。在宅被災者や仮設住宅に住む被災者の実態を調査した弁護士らが登壇し、未だ雨漏りがする住宅に住んでいることなど、支援が十分に行き届いていない実情を報告した。


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●積極的に情報提供する「アウトリーチ」の支援が必要


在宅被災者とは、地震や津波の被害を受けた住宅に暮らしている被災者のことだ。在宅被災者の支援活動を行ってきた安本裕典弁護士は、宮城県沿岸部での調査をもとに、支援が行き渡っていない現状を報告した。



原因の1つは、在宅被災者の現状が、仮設住宅に住む被災者に比べて見えにくいため、行政の情報提供が不十分になってしまうことだという。



ある在宅被災者は、被災した住宅の5部屋のうち、義援金を利用して、2部屋だけをどうにか住める状態にしたが、雨漏りがするなど、劣悪な環境だった。それなのに、自治体が実施していた住宅再建事業を利用した形跡はなかったという。



安本弁護士は「特に高齢者世帯は、支援制度の存在自体を知らないことが多く、知っていても、複雑な申請を行うことは困難だ。行政の側から、被災者の目線に立って、積極的に情報提供する『アウトリーチ』の支援が必要だ」と訴えた。



●「被災者」の定義からこぼれ落ちる人がいる


一方、岩手県陸前高田市の仮設住宅に住む被災者の支援を行ってきた在間文康弁護士は、現行の支援制度では、支援の対象からこぼれ落ちてしまう人たちがいるとして、「ひとりひとりの被災者が何に苦しんでいるのか知る必要がある」と述べた。



在間弁護士の発表によると、あるリサイクルショップを経営していた夫婦は、震災で店舗が流失して多額の負債を抱えることなったうえ、2011年12月に夫が心筋梗塞で死亡した。しかし、支援の対象になる「被災世帯」は、居住する住宅に限られるため、店が被災したこの夫婦の場合、生活再建支援金や義援金の対象にならなかった。また、死亡した夫は行政から「災害関連死」と認定されず、妻に弔慰金も支給されなかった(その後、裁判で「災害関連死」と認められた)。



在間弁護士は「この女性の世帯は、裁判で勝つまで何の支援も受けられなかった。最初から支援があれば、夫は亡くならずに済んだかもしれない。『被災者』という定義からこぼれ落ちてしまっている人がいる。震災から5年が経って、被災者の置かれている立場は個別化している。被災者ひとりひとりが何を困っているのか、地道に考えていく必要がある」と訴えた。



震災による生活困窮者に対する新しい仕組みを作ろうと、各所に働きかけている日弁連副会長の新里宏二弁護士は、2015年に在宅被災者の家を訪問した際のエピソードを紹介した。



「家の中で何か物につまづいたとき、家人はそれをあわてて隠した。後から聞くと、それは『おまる』だった。震災から5年近く経っても、トイレさえ直せずに暮らしている実情にショックを受けた」



そうした現状を変えるには、支援を受けるために何でも申請が必要な「申請主義」を変える必要があると訴えた。



「申請主義は日本の悪癖だ。弱い人は支援を受けるための申請もできずに、劣悪な環境の中で暮らさなければならない。たとえば、罹災証明さえあれば、支援が必要かどうかは行政の側からチェックすることもできる。被災者が利用しやすい制度に変えていく必要がある」


(弁護士ドットコムニュース)