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野々村被告人「覚えていません」90回以上連発、判決に影響を及ぼす可能性はあるか?

2016年02月02日 11:01  弁護士ドットコム

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政務活動費の不自然な支出をめぐる事件で、詐欺罪などに問われた元兵庫県議、野々村竜太郎被告人の初公判が1月26日に神戸地裁で開かれた。野々村被告人は、弁護側と検察側の双方の問いに対して、「記憶にございません」「覚えていません」と90回以上も連発した。


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報道によると、被告人質問で野々村被告人は、弁護人から政務活動費の総額や領収書の管理方法を問われると、「思い出すようがんばりますので、お待ちいただけますようお願いします」と答えた後、「思い出せません」というやりとりを何度も繰り返した。野々村被告人は、記憶障害の可能性があると診断されたと、説明している。



佐茂剛裁判長は終始戸惑っていたということで、「あなたは何度も『覚えていない』と言ったが、部分的に覚えていることもあった。区別の基準があるなら説明してほしい」と最後に聞いたが、明快な答えは返ってこなかったそうだ。



裁判で、質問に対して「記憶にございません」を連発して、まともに答えなかった場合、判決にどのような影響を及ぼす可能性があるのだろうか。永芳明弁護士に聞いた。



●説明したくないのなら「黙秘」すべき


「覚えていないことについて『記憶にございません』ということは当然ですし、仕方ないことです。しかし、明らかに覚えていることについて、法廷で『覚えていない』と言った場合はどうでしょうか。



たとえば、自分がやったことを周囲の人には話していたとか、日記に書き留めているのに、『覚えていない』と言った場合、責任逃れのために嘘を言ったとか、反省していないと取られてしまい、量刑判断(刑の重さを決めること)において、不利に扱われてしまう可能性があります。



素直に事実を認めて反省している被告人と比べて、言い渡される刑が重くなってしまう可能性があります」



永芳弁護士はこのように話す。裁判のニュースでよく聞く「黙秘権」とは違うのだろうか。



「被疑者や被告人には、憲法上、黙秘権が保障されています。法廷で黙秘することは権利として認められているのです。黙秘したことだけで不利益に扱われることはありません。一方、先ほど説明したように、明らかに覚えているのに『覚えていない』という言葉を連発した場合は、不利に扱われる可能性があります。



聞かれたことについて、本当は覚えているが、説明したくないというのであれば、『覚えていない』ではなく、『黙秘します』と言うべきでしょう」



●裁判が終わるまで「勾留」が続く可能性も


今回の裁判は、在宅起訴だったにもかかわらず、初公判の後で2カ月間の「勾留」が決まるなど、異例の展開になっている。



「初公判をめぐっては、野々村被告人が裁判所からの召還に応じないおそれがあるとして、強制的に出廷させる手続である『勾引』がなされました。



勾引されると、その後、刑事施設に勾留され、長期間の身体拘束を受ける可能性が高く、本人の負担が大きくなります。起訴後の勾留については、刑事訴訟法60条2項に、『公訴提起があった日から二箇月とする』との規定がありますが、今回の事件のように起訴後に初めて勾留された事案では、実務上、勾留開始日から2カ月という運用がなされています。



その後は1カ月ごとに更新ができるので、野々村被告人については、裁判が終わるまで勾留が続くことになるかもしれません」



永芳弁護士はこのように話していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
永芳 明(ながよし・あきら)弁護士
滋賀弁護士会刑事弁護委員会委員、貧困問題対策プロジェクトチーム委員長、犯罪被害者支援センター副委員長、日本弁護士連合会・刑事弁護センター委員、貧困問題対策本部委員

事務所名:滋賀第一法律事務所
事務所URL:http://www.shigadaiichi.com/