2016年02月01日 10:51 弁護士ドットコム
電車を降りて線路を歩いた理由は「会社で大事な会議があったから」。東京都足立区のJR綾瀬駅の近くで1月中旬、40代の男性が緊急停止した電車から「線路」に降り、別の電車が運転を見合わせるというトラブルがあった。ネット上で「まさに社畜だ」といったコメントが寄せられ、話題となった。
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報道によると、男性の乗っていた電車は、綾瀬駅に人が転落したためにホームの300メートル手前で緊急停止した。男性は自ら手動でドアを開けて駅まで歩き始めたところを、駅員に保護されたという。このトラブルで、JR常磐線と、直通運転している地下鉄・千代田線が、一部区間で最大1時間運転を見合わせた。
事故で緊急停止した電車に閉じ込められること自体は、たまにあるだろう。しかし、勝手に線路に降りるという行為は、法律に違反しないのだろうか。岡田一毅弁護士に聞いた。
「電車の運転中に扉を開けたり、乗降したりしたときに罰せられる規定は、鉄道営業法にあります。ただしこれらは『運転中』であることが前提です。今回のような『停止中』の電車では、鉄道地内にみだりに立ち入った者に対する罰則(鉄道営業法37条)に該当して、処罰される可能性がありますね。
さらに、乗客は、鉄道営業法2条および鉄道運輸規程2条により、鉄道係員の指示に従わなければなりません。また、同規程20条により、列車が駅以外に停車したときは、係員の承諾がなければ下車することはできないとされています。
JRが乗客に対して『車外に出ないでください』という指示を出していた場合や、『乗務員の指示がない限り線路へはでないように』といった一般的な注意があった場合、勝手な下車は、同規程違反となります。乗客には、この規程を守るべき義務があるにもかかわらず、守らなかったという点は、法的には債務不履行といえます。JRに運行遅延によって金銭的な損害を生じさせた場合、損害賠償を請求されることもあります」
男性は、ほかに対策をとることができただろうか。
「男性は、勝手に降りたために、遅刻よりもさらにトラブルを大きくしてしまいました。当たり前のことですが、乗務員の指示がない場合は、勝手に降りるべきではありません。まずは自分の会社に連絡を取って、会社に身動きできないという説明をすればよいのです。そしてJRが発行する遅延証明書などを持参し、事情の説明に努めることが一番いいということになりますね」
男性の「会社の会議に遅れるわけにはいかない」という主張は通るだろうか。
「それだけでは違法性を阻却することは困難です。処罰の可能性や、損害がある場合の損害賠償請求の可能性は免れないでしょう」
岡田弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
岡田 一毅(おかだ・かずき)弁護士
2013年度京都弁護士会副会長。交通事故などの交通法務に詳しく、大手損保会社の顧問弁護士も務める。医療法人の顧問弁護士など、医事法務についても手がけている。大の鉄道好き。
所在エリア:京都京都市中京区
事務所名:赤井・岡田法律事務所
事務所URL:http://www.akai-okadalaw.com/