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TOKIO長瀬智也はなぜ“異形の主役”ばかりを演じる? 特殊な役回りを考察

2016年01月31日 15:51  リアルサウンド

リアルサウンド

(C)タナカケンイチ

 フジテレビで毎週水曜日22時~OA中の医療ドラマ『フラジャイル』。同名コミックを原作にした本作の主演は、フジテレビでの主演ドラマは『ムコ殿2003』から実に約13年ぶりとなる長瀬智也だ。第3話が終了した現時点で平均視聴率は9・86%と、まずまずといえる。


 長瀬が本作で演じるキャラクターは、同僚の医師に対し、「君が医者であるかぎり、僕の言葉は絶対だ」と言い放つ、天才病理医にして変人と評判の岸 京一郎。しかし、天才&変人というキャッチコピーを期待して見ると、どこか違和感が残る。そう、岸を演じる長瀬がそれほどには目立っていないのだ。なぜなら、彼を慕って病理診断科に異動してくる新米医師・宮崎を演じる武井咲の成長ストーリーにフォーカスが当てられているからだ。


 ここ数年の長瀬主演の連続ドラマを振り返ってみても、彼が演じるキャラクターは常人ではないのに、なぜか悪目立ちをしていない。第一話から異質な存在感を放ってはいるが、あくまでも作品の中心軸となり周囲のレギュラーキャラクターの変化や成長、ゲスト俳優の個性を際立たせていく。言うなれば、主役でありながら裏回し。以下、最近の連ドラから過去作へと遡ってみても、共通の構造が見えてくる。


・2013年10月クール『クロコーチ』(TBS)悪徳刑事黒河内役。新人エリート刑事(剛力彩芽)の成長を促す存在。


・2013年1月クール『泣くな、はらちゃん』(日本テレビ)はらちゃん役。彼を漫画のキャラクターとして生み出した、地方に暮らすヒロイン(麻生久美子)の成長を促す存在。


・2010年7月クール『うぬぼれ刑事』(TBS)女性容疑者からいちいち惚れられていると勘違いする刑事、うぬぼれ役。女性ゲストと、うぬぼれ屋の飲み仲間“うぬぼれ5”を輝かせる。


・2009年7月クール『華麗なるスパイ』(日本テレビ)天才詐欺師・鎧井京介役。女性詐欺師ドロシー(深田恭子)を振り回し成長を促す。
(以下略)


 彼が演じる役は、そもそもが異能・異質・奇人・変人であるから、感情がぐらつきはするものの、その能力や生き方は劇的には変化しない。というか、悲しいかな、変わることができない。たとえば、英国BBC制作のドラマ『SHERLOCK/シャーロック』で主人公の天才探偵シャーロック・ホームズを演じたベネディクト・カンバーバッチが、ワトソン役を演じたマーティン・フリーマンのキュートな困り顔や嗜虐的な魅力を引き出したパターンに通じる。もしくは、『マッドマックス 怒りのデスロード』で主人公のマッドマックスを演じたトム・ハーディが終始仏頂面をキープすることで、青臭い一兵士のニュークスを輝かせたパターンも思い出させる。


 シャーロックよりもワトソン、マッドマックスよりもニュークスのほうが、市井の人々に近い分、共感を得やすくおいしい役といえる。はやりの言葉で言えばコスパが高い。つまり、その才能や異質さをフルに発揮するキャラクターというのは、見方を変えると実は貧乏くじなのである。


 並大抵の俳優だったら、ここぞとばかりに力を入れまくった肩をバキバキ鳴らしながら演じ、空回りし、肩を壊し、視聴率3%で終わってもおかしくない。しかし長瀬は、いたずらに前に出ない演技プランを選択し、主人公でありながら共演者にとっての引き立て役をまっとうする。これは座長として、作品のことを考えてのことだろう。ここ10年以上、長瀬智也はそういったポジションを担い続けている。


 最初は未熟な状態からスタートし、徐々に成長し、ラストでハッピーやラブを手にする人間味あふれる役と、長瀬は無縁だ。恋も実らなければ、出世階段を登ることもなく、絶望すら味わえない孤独なヒーロー。市井の観客が共感しにくいという損な役回りを、役柄を着替えながら、背負い続けられる俳優はそうそういない。


 異形の主役としてドシンと立ちつつ、周りを立てる黒子ポジ。その集大成ともいえる役が『TOO YOUNG TO DIE』で演じたキラーKだった。当代切ってのスター俳優である長瀬智也のなんと9年ぶりの主演映画で、登場シーンのほぼ9割が黒子ならぬ赤鬼メイクとは、できすぎというか皮肉というかシュールというか……。それが世間からはわりとすんなり受け入れられているあたりが、長瀬智也というスターが特殊なポジションにいる証明だろう。(編注:『TOO YOUNG TO DIE』は公開延期に。


 この作品で彼が引き立てるキャラクターは、神木隆之介が演じる大助だ。事故で亡くなってしまった童貞高校生が地獄でキラーKに出会い、好きな女の子とキスをするために輪廻転生を繰り返すという、いい話。キラーKもホロリとさせるバックグラウンドを抱えてはいるものの、基本的には常に鬼の形相でポーズを決めて吠えてのけぞり大助を煽り続ける。


 でもそろそろ、普通に成長したり、ドツボに堕ちたり、絶対的な主人公に振り回される役を演じる長瀬を見てみたい。大河ドラマで主人公に志半ばに殺される無念の敵役とか勝手に推奨。超人とはいえ、枠に収まるのはもったいない!(須永貴子)