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摩天楼オペラ 苑&彩雨が語る、ヴィジュアル系の矜持「僕達は“入り口”になる」

2016年01月31日 15:51  リアルサウンド

リアルサウンド

摩天楼オペラ

 摩天楼オペラが、1月20日に4thアルバム『地球』をリリースした。今作は、これまでの多くの作品にみられた非日常な世界観とは違い、人間味のある歌詞で壮大な"地球"というコンセプトを音楽で表現した作品。2015年にリリースした五大要素の楽曲、「ether」「君と見る風の行方」「青く透明なこの神秘の海へ」「讃えよう 母なる地で」「BURNING SOUL」も収録された全12曲(※初回限定盤のみBonus Track「嘘のない私で」が収録)となっている。今回は、苑(Vo)と彩雨(Key)にインタビューを実施。作品のコンセプトからビジュアル系論についてまでじっくり語ってもらった。(編集部)


・「自分たち目線で地球に立ってる曲を作った」(苑)


ーー1月20日にリリースされたアルバム『地球』ですが、タイトルがストレートですよね。


苑:最初から"地球"をコンセプトに作っていたアルバムだったんです。『EARTH』という案もあったんですが、それだと「大地」という意味も含まれているし、『GAIA』だと今度は僕達の日常よりも少し空想的なイメージがあるじゃないですか。それならストレートに『地球』の方が伝わるし、逆にカッコいいかな、と思ってこのタイトルにしました。


ーー『地球』を上から俯瞰してるような世界観ではなくて、地に足の着いた日常を歌うような曲が多いですよね。近年の摩天楼オペラのアルバムは、前々作『喝采と激情のグロリア』、前作『AVALON』と、最初にSEが入って最後は壮大な終わり方をする作品が続いていたので、意外でした。1年半振りのリリースということもあり、変化があったのでしょうか。


彩雨:今回は突然始まって、ふっと消えていくように終わりますね。今までは世界観を最初から最後までがっちり作り込んで壮大に締めるような見せ方をしてたんですけど、特に今回の『地球』はあまりにもテーマが壮大だから曲も壮大になりすぎると、ファイナルファンタジーやドラクエみたいな「違う世界の話」みたいな感じになるじゃないですか。そうじゃなくて、この地球、この空間を音楽で表現したかったんです。だからいつもと違う見せ方で、この壮大さを表現したのかもしれません。


ーー摩天楼オペラのルーツにはアニメやゲームミュージックもありますよね。完成された非日常的な世界観や自分の日常のことから離れた楽曲も多い印象があったんです。


苑:昔は主人公を立てて、その人の気持ちに寄り添って書いていたようなところもありましたね。でも去年一昨年あたりから、自分の今思っている感情だったり、日々思っていることを歌詞にして行くほうが説得力があるなと思って。そのほうが聴いている人に伝わりやすいし。なので今回のアルバムではそういう人間味のある歌詞が増えてるのかな。


ーーこれまでは個人的なことを書いた歌詞でも、1stフルアルバムの『Justice』くらいの頃は、何かに憤ってるような内容の歌詞も多かったように感じす。今作ではそれが落ち着いたというか。


彩雨:たしかに今回怒ってる曲は無いよね、悩んでる曲はあるけど。


苑:今回は怒ってリスナーを鼓舞するよりは寄り添いたかったし、リスナーの心を少し軽くさせたかったんです。日々の生活の中で、この曲を聴いたら少し元気になって学校や会社に行ける、みたいな。それで、「よし一緒に頑張るぜ!」というよりは「頑張ろうね?」みたいな。文字でニュアンス、伝わりますかね(笑)。


彩雨:たとえば「BURNING SOUL」のようなハードな曲だと、昔だったら怒りを表現していたかもしれないね。


ーー前作『AVALON』はタイトルからして神話的というか。『地球』というタイトルだからかもしれないけど、地に足がついている。そこがおもしろいなと感じました。


苑:最初は壮大に作るつもりでいたんですけどね。去年リリースした五大要素の曲(「ether」「君と見る風の行方」「青く透明なこの神秘の海へ」「讃えよう 母なる地で」「BURNING SOUL」)を作ったらもう結構壮大な地球像が出来てしまって。そこから自分たち目線で地球に立ってる曲を自然と作っていった感じがします。


ーーたとえば「YOU&I」では〈街が違う 市が違う 県が違う 国が違う 共通点探すほうが - 難題でしょう –〉とありますが、おっしゃるような「自分たち目線」を感じます。


苑:彩雨の持ってきたメロディラインにハマるタイトルはないかなと思った時に、お客さんのことを思って歌詞を書きたいなと思った時にこのタイトルが出てきて。ツアーで色々な所に行ってると、もちろん街も違うじゃないですか。そんな中でも僕達は同じ音楽が好きでこのライブハウスに集まってるんだ、ということが伝われば嬉しいです。


ーー「Good Bye My World」もジャズっぽいというか大人っぽい印象を受けました。


彩雨:逆にこの曲の時は高校生みたいな気持ちになって書いた曲なんです。


苑:初心に帰ろうみたいなね。


彩雨:インディーズ時代に帰るじゃないけど、当時は無茶な曲の作り方をしたんです。急に曲調を変えたり、音の使い方も、あえて濁る音を入れたりとか。昔はそういうことを気にせずやってたんですけど、やっぱり色々出来るようになると気にしちゃうんですよ。「気にする」というのは制限がかかるということだから、音楽的な成長は逆説的に音楽的な妨げになることと同一ではないかと。出来ることが増えると出来ないことも一つ増えてしまう。なのであえて馬鹿になってみて、あえて高校生が作るような楽曲を作りたかったんです。


ーーなるほど。


彩雨:出来ることが増えると、選択肢が一つ増えるというのが、去年までの曲の作り方でした。なので、違う考え方で曲を作ろうかなと思って。アルバムを制作するときに「もっと劇的で、今までにないアプローチを」と、苑から提案があったんですよ。なのでこの曲は一番最初に作ったと思うんですよね。その提案が頭に引っかかってて、自分なりにいつもの自分を全部捨てて、もう一回高校生になったつもりで作った気がします。「普通じゃない曲」というか。


ーー「青く透明なこの神秘の海へ」は苑さん作曲ですよね。こちらの曲の展開も変わってますね


苑:これもさっき彩雨が言っていた「普通じゃない曲」を意識して、作った曲です。


彩雨:現代的なJ-POPのセオリーというか、Aメロ→Bメロ→サビっていう構成があるじゃないですか。僕らも普段はそれに則って作っているんですけど、この曲は何がAメロだとかまず考えないようにして。メロ1、メロ2みたいな作り方をしたんです。普段ホワイトボードに描いて作曲してるんですけど、この曲に関しては「メロ1」「メロ2」みたいな書き方をしたんです。他の曲は全部AメロBメロって書いているんですけど。最初からこの曲のアプローチは、いつもと違う構成になるような道ができていたのかなと思いましたね。


ーーすみません、ホワイトボードで、とは?


彩雨:東急ハンズで買ったホワイトボードをいつも車に積んであるんですよ。


苑:僕がパソコンで音楽を作らずに、ギターやピアノを弾いてメンバーに伝えるので、メンバーはホワイトボードがなかったら頭で記憶するしかないんですよ。


ーーそれはなかなかアナログですね。


彩雨:そこでコード進行などを書いて、写真を撮ってネットにあげて共有するんで、そこだけはデジタルです。アナログとデジタルの融合……(笑)。


ーー昔からその手法でやっているんですか。


苑:パソコンで作る場合は、自分で音色を選んでいかないといけないじゃないですか。その時点で例えばストリングスを入れると「ここはストリングスがいいんだろうなあ」とか、相手のイメージが限定されてしまうので、それを避けたいというのもあります。


ーーあえて余白を作りたかったと。


苑:ソロじゃなくてバンドの曲ですし。


ーー摩天楼オペラ楽曲は精密で、緻密に作られているイメージがあったので、意外に感じました。


彩雨:曲によりますけどね。例えば「FANTASIA」はギターのAnziが構成も含めてすべてやって、細かいところは僕と二人で色々話し合いながら作ってましたけど、9割9分Anziですね。「讃えよう 母なる地で」もほぼ100%僕が構成を指定していたので。構築美を追求するのか、そうじゃないのか、みたいな。だから作曲者に寄るところはありますね。「SILENT SCREAM」も構築美ですね。


苑:そう考えると作曲者によるね。


・「「ヴィジュアル系の自由さ」をまだ伝えきれてない」(彩雨)


ーー摩天楼オペラはTVにも積極的に出る印象があります。以前苑さんは「THEカラオケバトル(テレビ東京系)」でヴィジュアル系代表として出演されてましたね。自分たちをヴィジュアル系とくくられることに抵抗はありませんでしたか。


苑:なかったですね。やっぱりどうやったってヴィジュアル系ですから。そう言われるのがイヤみたいな感情も特にないですし、代表と選抜してくれたのはありがたいですね。TVは僕達が「出たい」と思ったらすぐに出れるようなものでもないですし。それでお声がけいただいたからには、というのもありました。


ーー彩雨さんは京都コンピュータ学院や京都情報大学院大学で、音楽とテクノロジーなどについて教鞭をふるってらっしゃいますよね。以前ファンクラブイベントで「ヴィジュアル系展望論」という講義を行っていました。その時に「ヴィジュアル系が好きなことが"黒歴史"になってしまうことが悲しい、それを変えたい」とおっしゃっていたのが強く印象に残っています。


彩雨:やっぱり自分が青春時代を注いだものに対して後々「好きだった」と言い難い状況というのは悲しいことだと思うんで。それは自分たちがヴィジュアル系シーンでやっていて思ったことです。


ーーファンの方もヴィジュアル系にコンプレックスを持ってしまう状況というのもありますが、外部からの「褒め言葉」として「ヴィジュアル系の枠を越えた」「~にしておくにはもったいない」という表現もあるじゃないですか。摩天楼オペラはそう言われがちなバンドだと思うんですよ。


苑:少なからずあります。相手は悪気なく言ってるので、そこでは「ありがとうございます」というところだけは伝えます。そこは褒め言葉だと受け取って、自分の中では「それでも僕はヴィジュアル系ですよ」って思っておく(笑)。ざっくりした世間的な「ヴィジュアル系」って、見た目重視で音楽が二の次みたいなイメージがもうついてしまっているし、それは拭い切れないのかな。だから僕達が内容もヴィジュアルも両方高めていけば徐々に世間のイメージが変わるんじゃないですかね。


彩雨:そもそも「表現とはなんなのか」って話だと思うんですよ。だって、ゴールデンボンバーさんが、表現としてダメなのかといえば違いますし、完成されたショーじゃないですか。ヴィジュアル系は自由なジャンルで、それの最たるものがゴールデンボンバーさんだと思うんです。大事なのはそこです。だから、「ヴィジュアル系なのに~」という人がいるのであれば、その「ヴィジュアル系の自由さ」をまだ伝えきれてないってことだと思うんですよね。僕らみたいなバンドもいれば、ゴールデンボンバーさんもいるし、色んな人がいてヴィジュアル系で楽しく音楽をやってるんですよ。


ーーヴィジュアル系という様式美を踏まえていたら、わりとどんな音楽性でも受け入れられる土壌はありますよね。


彩雨:そもそも様式美ってなんでしょうね。メイクしている男性=ヴィジュアル系かというと違いますし。


苑:圧倒的に「ヴィジュアルメイク」というものがありますよね。ボーカルの歌い方ひとつとっても「ヴィジュアル系的」なものはあるんですよ。


彩雨:先人たちの影響を受けて、その人達の歌い方をしてて、それがなんとなく「ヴィジュアル系ぽく」なっている。


ーー歌唱法にしてもキャラクターの集積がヴィジュアル系を構成していると、そういう記号が合わさった結果「ヴィジュアル系」が自然発生していったのでしょうか。そこにさらに脈々と新しい記号が積まれていって、その結果外部から見るとよくわからないものになっているのかなと。


彩雨:集積の結果が様式美かもしれませんね。だから単語のイメージだけ先に完成されてしまった気はしますね。そうそう、僕達「自分たちがヴィジュアル系かどうか」という話し合いをしたことがあるんです。


ーーそれは興味深いです。


彩雨:プロモーションの時に「ヴィジュアル系」という言葉を外すかどうかを話し合ったことがあって。それは2011年か12年くらいですね。ちょうど『Justice』くらいだったよね。


苑:自分達の意見以外も取り入れるのがメジャーのフィールドだと思っているので、自分がどう心の中でヴィジュアル系に誇りを持っていても、それがマーケティングに邪魔なんだと言われたら、外してみる試みもアリなのかなと思ったんです。ただそれをやってみた結果、そこまで効果を発揮しなかったので、やっぱり自分たちの本音でヴィジュアル系と言っていきたいという流れがあったんですよ。


彩雨:5人それぞれの考え方があるけども、僕らが5人集まっている「摩天楼オペラ」がヴィジュアル系シーンの中でやっていくのであれば、それでいい。僕たち自身はメタルバンドでも、ヴィジュアル系でも、J-POPと思って貰ってもいいというスタンスでやっていこうという所に落ち着いたんです。


ーー柔軟ですね。


彩雨:気にしたら始まらないし、最終的にやる方も聴く方も気にし過ぎはよくないと思います。


ーー最後にライブの話も聞かせてください。毎年恒例の女性限定男性限定ライブ、そして3月から全国ツアー『地球 -The Elements- TOUR』も控えてますね。


彩雨:男性限定が4回目ですね。


苑:最初の年は男性限定だけだったんですけど、小さめのライブハウスでただ激しいライブをするっていうコンセプトなんです。そしたら女性ファンも観たいという意見が来たので、2年目からは平等にやっていますね。


ーー全国ツアーで初めて行く土地はありますか?


彩雨:行ったことない土地には行きたいですね。だから今回も入ってるんですよね。郡山、松江は初めてなんですよ。少しづつ広げていきたいなあっていう気持ちはあります。


ーーそしてツアーファイナルは5月4日EX THEATER ROPPONGIですね。


彩雨:ツアーファイナルは僕達の結成記念というメモリアルな日でもあるので、それに向けて『地球』というアルバムをメインにセットリスト組んでいく予定なんです。このアルバムは激しいものからほっこりするものまで、様々な要素の曲があって、CDはCDで完成されているんですけど、それをライブで表現することで、また新しい曲の見え方が出てきて、より「伝わる」と思うんです。またCDとも違う、CD以上の摩天楼オペラを見せられたらいいなと思っています。


苑:今回このインタビューで思ったんですけど、僕達自身はヴィジュアル系という言葉を大事にしているんですけど、音楽の内容としてはメタルやハードロック、それに「みんなのうた」みたいなものもあったりして、いろんな曲を演奏しているバンドです。だからヴィジュアル系を好きな人はもちろん、知らない人もヴィジュアル系の入り口になると思うんですよ。入りやすいバンドだと客観的に思うんで、ライブやCDを通して少しでも体感してくれたら嬉しいです。そしてライブも「怖いんじゃないか」とか「ノリがわからないし…」みたいなことは考えずに来てほしいですね。楽しませる自信はあるので。
(取材・文=藤谷千明)