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安倍首相が「同一労働同一賃金」を目指すと表明・・・どんな制度なのか?

2016年01月31日 10:21  弁護士ドットコム

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安倍晋三首相が1月22日の施政方針演説で、「同一労働同一賃金」の実現を目指すと表明した。その4日後には、加藤勝信一億総活躍相が閣議後の記者会見で、幅広い有識者らを交えた国民会議で、同一労働同一賃金の実現に向けて具体案を練っていく方針を示した。


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同一労働同一賃金は、正社員と派遣労働者の賃金格差を是正する目的がある。昨年の通常国会では、野党3党が推進法案を提出した。ただ、同じ仕事なら賃金も同水準にする「均等待遇」に関する規定は弱められ、同じ仕事であっても責任などに応じたバランスが取れていればよい「均衡待遇」に修正されたうえで、成立した。



この「同一労働同一賃金」とはどのような制度なのか。企業側が導入するにあたっては、どのような課題があるのか。労働問題にくわしい山田長正弁護士に聞いた。



●「同一労働同一賃金」を導入する上での課題は?


「『同一労働同一賃金』ないし『同一価値労働同一賃金』の原則とは、同一(価値)の労働に対しては同一の賃金が与えられるべきであるという考え方です。



たとえば、同じような仕事をしている正社員と、パート労働者や派遣労働者等の非正規社員との間に賃金格差がある場合、この格差を是正し、非正規社員を保護するという目的があります」



山田弁護士はこのように述べる。



「『同一労働同一賃金』の原則は、欧米では一般的に導入されています。といいますのも、欧米では、職種を基本とした外部労働市場が存在することを前提に、職種別賃金制度(企業を超えて、職種が同一であれば同一の賃金が支払われる制度)が存在するためです。



いっぽう日本では、このような制度はありません。昨年9月にいわゆる『同一労働同一賃金推進法』が成立しましたが、職種ごとの賃金を決定できる客観的指標がないため、何が『同一の労働』であるかが不明確です。



たとえば、日本では年功序列制度など、賃金を決定する要素が多様で、職種が同一でも賃金が異なることが一般的です。そのため、日本には馴染まないのではないかという懸念があります」



日本の企業が導入する可能性は低いのだろうか。



「そもそもこの制度は上記のとおり、欧米のように、企業を超えて、職種が同一であれば同一の賃金が支払われる制度がない今の日本には馴染みにくいと考えられます。実際に企業が導入することは困難でしょう。



また、現在、日本で導入されている制度(パートタイム労働法8条以下、労働契約法20条、同一労働同一賃金推進法6条2項参照)も、目的は『均衡待遇』であって『均等待遇』ではありません」



●日本でただちに「均等待遇」を導入するのは難しい


「均衡」と「均等」は何が違うのだろうか? この違いについて、1月26日の衆院本会議で、安倍首相は民主党の岡田克也代表の質問に答え、「『均等待遇』は仕事の内容、責任などの要素が同じであれば同一の待遇を保証すること。『均衡待遇』とは仕事の内容、責任などの要素に鑑み、バランスの取れた待遇を保証すること」と発言したとされる。



山田弁護士は「つまり、現在の日本で導入された上記のような制度は、厳密な意味での同一労働同一賃金の原則ではありません」と指摘する。



現行の制度では、派遣先企業で勤務する労働者(主に正社員を想定)と派遣労働者の賃金格差是正の実現は難しいということだろうか。



「同一労働同一賃金推進法第6条第2項では、派遣労働者の待遇について、『業務の内容及び当該業務の責任の程度その他の事情に応じた均等な待遇』と規定されています。



そのため、派遣先企業で勤務する労働者と派遣労働者とが、同じ業務をしていても役職の違いなどで責任の程度が異なる場合には、賃金格差を設けても違法ではありません。法律が制定されたからといって、同業務であり賃金格差があっても、責任の程度が異なる場合、特に企業側で新たな対応は不要です。



派遣先企業で勤務する労働者と派遣労働者の格差を縮めることが本来の『同一賃金同一労働』の目的であったはずですが、現行制度では、派遣労働者保護にはつながらないのではないかという問題点があります。



こうした現状を踏まえますと、ただちに『均等待遇』を導入することは困難でしょうから、具体案の中身に注目したいと思っています」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士
企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。
事務所名:山田総合法律事務所
事務所URL:http://www.yamadasogo.jp/