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乃木坂46運営・今野義雄氏が語る、グループの“安定”と“課題” 「2016年は激動の年になる」

2016年01月30日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

「悲しみの忘れ方」ミュージックビデオより。(画像提供=乃木坂46LLC)

 2015年の乃木坂46は、初のアルバム『透明な色』発売に始まり、シングルリリースの好調さや全国ツアーの拡大、さらにはテレビ、雑誌、広告といった各メディアでのめまぐるしい活躍など、女性アイドルシーンの顔ともいえる大躍進を見せてきた。また、年末にはグループの歩みを振り返るミュージックビデオ集『ALL MV COLLECTION~あの時の彼女たち~』をリリース、そして12月31日には念願の紅白歌合戦初出場を果たし、乃木坂46のキャリアはひとつの区切りを迎えた。その流れを受けての2016年、まずは1月31日放送のテレビ番組『乃木坂工事中』(テレビ東京系)で、今年初の楽曲リリースとなる14枚目シングルの選抜メンバーが発表され、新たな布陣が明らかになる。


 今回、リアルサウンドでは乃木坂46運営委員会委員長・今野義雄氏にインタビューを行なった。MV集リリースに至った経緯や、多方面に大活躍を見せた昨年のグループの裏側、さらには順風満帆だからこそ気になる今年の乃木坂46の舵取りまで、幅広く話を聞いた。(香月孝史)


(参考:乃木坂46・生駒里奈がめざす“シーズン3”の自分とは?「新しい『強くて怖いもの』に出会わなきゃ」


・「僕の方で、もう一回かき乱すようなことをしなきゃいけないのかな」


――シングルCDリリースを13枚積み重ねて、このタイミングでMV集を出すことになったのはなぜでしょう?


今野義雄(以下、今野):グループ初期の頃からいろいろな場所にカメラは常に入れているので、商品企画はいろんなかたちで立てられる状態ではあったんです。けれど、秋元(康)先生の考えもあって、ある程度乃木坂46が大きくなって、多くのファンがついて、誰もが「もっと乃木坂を見たいんだ!」となる、そんなエネルギーが充満するタイミングまでは、商品化せずに我慢しようよと。それで気づいてみれば結局、57曲も入れることになりました(笑)。


――乃木坂46のMVについて今野さんが以前から仰っているのは、制作クリエイターの意向を最大限優先するということです。人気グループの映像制作には多くの制約があるはずですが、それでもそこにこだわろうとするのはなぜでしょうか?


今野:MVを制作する場合、ある程度の方向性と設計図をお伝えしたら、あとは思いっきりおまかせにしないと、作品がこちらの想像を超えてくれない。思い通りに全部指定してしまうと、それは僕らの想像した範囲内のクリエイティブで収まってしまうので。ですから、いかにクリエイターに120%の力を出していただけるかがチームの手腕になってくる。そのクリエイターの力の半分も引き出せなかったとしたら、その瞬間に負けなので。


――初めて関わる監督などもいる中で、手放しでおまかせすることには怖さも伴うのでは?


今野:たとえば丸山健志監督のように、どんな球を投げても素晴らしいものを返してくれるとわかっている監督には、デビューから毎シングル一本は撮っていただいてるんです。丸山監督のような方にずっとお願いできるからこそ、初めての方に監督をお願いすることもできる。そこでたとえば山戸結希監督のように見事な、見たこともないものが生まれたりするわけです。


――柳沢翔監督や湯浅弘章監督など、ドラマ性の強いMVが乃木坂46のひとつのイメージですが、丸山監督はそれとは別のスタイルで、ハイレベルの綺麗な絵作りをされていますね。


今野:しかも内容がバリエーションに富んでますよね。丸山監督が撮る一つ一つのビジュアル感は、乃木坂46のスタンダードになっているかなと思います。パキッとした美しさと、ファッショナブルな感じ。一方で、柳沢監督や湯浅監督など、淡い色味のドラマ作品もある。


――乃木坂46のMVはバリエーションに富みつつ、高水準で安定した作品群という印象です。


今野:ありがとうございます。ただ、今は僕の方でまたいろいろ考えなければいけない時期なのかなという気もしてるんですよ。乃木坂46のブランディングやイメージが出来上がりつつあるので、監督さんたちの中で、守らなきゃいけないものがひとりでに生まれてしまうんです。


――乃木坂46のイメージに寄せたものを作ろうとしてしまう。


今野:はい。そうなると、なんとなく既視感のある作品が生まれてしまう。ちょっとそういう時期に来ている気がしていて。僕の方で、もう一回かき乱すようなことをしなきゃいけないのかなとは思いますね。


――ハイレベルで安定した作品が続けば、それはそれで安心感はあるけれども……。


今野:エンターテインメントの王道というか究極の形として、偉大なるマンネリというのはひとつの様式美としてありますよね。それを目指すことの価値はもちろんあるんですけど、僕自身の出自や内面がパンクだからでしょうね(笑)。固まり始めちゃうと壊したくなる。


――乃木坂46のMV自体がそもそも、王道のアイドルMV的ではないですよね。それがいつのまにか定着している。


今野:だから乃木坂46の場合、ベタベタにアイドルっぽいことをやった方が過激ってことになるんですよね(笑)。


――初期からのMVを振り返ってみて、特に印象深いメンバーは?


今野:初期でいえば、やっぱり生駒(里奈)だと思います。生駒は映像や写真で見せるビジュアルのクオリティが最初からハイレベルだったので。4枚目シングル「制服のマネキン」MVでの生駒の表情感が出来上がるまでというのは、実はすごく戦っていたんです。モニターを見ながら、「これじゃない、これでもない」と何度も伝えて。生駒も、「もうわかんないよ!」って。けっこうやりとりを繰り返したあとに、突然生駒が「わかったかもしれない!」と。それでやってみたら、あの表情感が出てきた。あれは一言では言い表わせないですよね。ただクールなだけじゃない。孤高であり、ちょっと儚げでありながら、凛とした強い意志を持っている。ただ、生駒や歴代のセンターだけでなく、周りを飾っていくメンバーたちも表情の作り方、見せ方はそれぞれがすごいものを持っています。それは「会いたかったかもしれない」のMVからすでに、ある程度できていました。


――乃木坂46として初めて撮ったMVが「会いたかったかもしれない」ですね。


今野:MV集を買われた方は是非、これがメンバーにとって初めてのMVなんだと思いながら見ていただきたいと思います。「ああ、最初からすごいじゃん」って思っていただけるんじゃないでしょうか。


――ここから2015年の乃木坂46を振り返っていただきたいと思います。1月にはアルバム『透明な色』がリリースされました。アルバムのリード曲「僕がいる場所」は、一人称の「僕」が、愛する人を置いて死んでゆく仮定の歌詞になっています。この重いテーマを乃木坂46が歌う意図はどこにあったのでしょう?


今野:もちろん歌詞の意図は秋元先生にしかわからないので、総括的なお話はできないのですが、ただ、楽曲は個人個人の体験に結びつけられて解釈が変わってきますよね。……僕個人のことを言えばその前年、2014年に僕は癌と戦っていたんです。本当に死んでしまうかもしれない、そんな状態からの復活だったので、この曲をいただいた時は「僕のことだ……」という刺さり方でした。本当に自分が死んでしまったら、この子たちはどうなっていくんだろうっていう、自分の物語としてリアルに感じ取ってしまいましたね。とはいえ、もちろん受け取る人によっていろんな感じ方をされるものだと思います。


――続く2015年初のシングル楽曲となった3月18日リリースの「命は美しい」も、引き続いて「生きる」ことの尊さを歌う曲です。重いテーマが続きました。


今野:「命は美しい」も重いテーマだし、タイトルも本当にこれでいくのかなども含めて秋元先生ともやりとりは重ねたんです。でも思いのほか先生には迷いがなくて、「俺はこれでいいと思ってるんだ」と。先生の方でこのテーマを乃木坂46のメンバーに歌わせる覚悟ができているのであれば、こちらとしてはそれをまっとうに見せるべきだと思いました。そこで、あの時のもう一個のテーマとして出てきたのがダンスです。当時「乃木坂46は踊れない」というイメージで語られることも多かったですよね。いや、踊れないわけじゃなくて、それを志向してないだけなんだけど……とは思っていたので、ならば踊ろうと思えば踊れますよというのを見せたいということもあって。選抜発表の時に、「乃木坂史上、最高難易度のダンスをやる」とメンバーには伝えたんです。だから、「命は美しい」はダンスをストイックに追求する姿勢と、歌詞の重いテーマとが交わって、他の曲とはぜんぜん違う色合いや重みが生まれた気がします。


・「大事なのは、単純にお飾りで起用されるのではなくて、ちゃんとその世界で主力になっていくこと」


――7月22日リリースの12枚目シングル『太陽ノック』は生駒さんのセンター復帰曲です。センターを外れている期間も一貫して乃木坂46の象徴だった生駒さんが、あらためて中心に戻ってきたことの意義も大きかったと思います。


今野:この時は、AKB48との兼任が終わった状態での生駒なんですよね。生駒自身がAKB48という大きな場で揉まれてきて、どういう物語を背負ってくるのかということにはすごく興味がありました。けれど、兼任することで生まれる難しさもありましたね。兼任する以前の生駒とは、「笑顔」の質が変わっていたんです。


――それはAKB48に適応した笑顔になっていたということですか?


今野:AKB48で学んだ、明るく楽しい少女像という表現は彼女にとっても新鮮なものだから、これを採り入れなくてはということも生駒の中にあったと思うんです。ただ、それをそのまま乃木坂46に持ってくると浮いてしまうんですね。そのことも、生駒には何度も言いました。僕からするとある意味で、そぎ落としたかった。


――純粋に乃木坂46としての生駒さんの表情というと、たとえば「制服のマネキン」で見つけた緊張感であったり。


今野:そうですね、緊張感。そこにようやく生駒が気づいて戻ってくる。生駒が言っていたのは、「自分は少年と少女のバランスなんだ」と。AKB48を兼任することで、自然と少女の方が強くなっていたんでしょうね。そのまま乃木坂46に戻ってくると、おさまりが良くない。彼女なりの言葉で言えば、「自分の中の少年と少女のバランスをうまくとれたら、ようやく自分になれる」という。あの子が乃木坂46で表現すべきはそこなんですよね。少年っぽさと少女っぽさをハイブリッドするというのは生駒にしかできないので。


――10月28日リリースの13枚目シングル『今、話したい誰かがいる』では、白石麻衣さん、西野七瀬さんのWセンターをはじめ衛藤美彩さんと深川麻衣さん、そして齋藤飛鳥さんと星野みなみさんというように、二人一組の対を意識して新たな陣形を模索しているようにも見えました。


今野:星野みなみと齋藤飛鳥についていえば、二人は決して、いつも一緒にいるような仲ではないんです(笑)。


――だとすると、ペアになることには違和感もあったかもしれない。


今野:違和感があったと思います。けれど、二人をペアにすると御三家(白石麻衣、橋本奈々未、松村沙友理)でも勝てないような不思議な力が生まれるんですよね。それに気づいてほしいという思いがありました。そのことはようやく本人たちもわかり始めてきた気がします。僕は今の二人の関係性って、とても好きなんですよね。全然慣れ合いでもなく、もちろん嫌い合うわけでもない、緊張感のある関係だと思います。みなみと飛鳥が「次世代」と呼ばれることも多いですが、二人はそう言われることもあまり好きじゃないかもしれない。でも、自覚はちょっとずつ芽生えてきてるという段階です。乃木坂46に層の厚さを感じていただける、そのひとつの理由には彼女たちの存在があると思いますね。


――2015年はお二人が大きくフィーチャーされる機会も多かったですね。


今野:この二人へのフォーカスが例年にも増して多い一年でもありましたよね。最近でいえば、みなみはスペースシャワーTVで、岩井俊二さん原案のSTATION ID「あたし、本と旅する」で46パターンの映像が放映されていたり。飛鳥は雑誌『CUTiE』『SWEET』のモデルや、ANNA SUIの2015年秋冬のアジア圏ビジュアルモデルにもなりました。


――ANNA SUIのモデルは正直、驚きました(笑)。


今野:それはもう、びっくりしましたよ。「いいんですか!?」っていうのが僕の第一声でした(笑)。ひょっとするとANNA SUIのスタッフの方に乃木坂46の大ファンの方がいて、その方の思い入れだけで、決まっていないまま話が先行しているのでは……ということも考えたりするくらいでした。けれど、担当の方にお会いしたらそういうことでは全然なくて。僕らが考えていた以上に乃木坂のことをしっかり見ていただいていて。ANNA SUIのイメージに合致する、小悪魔的な要素を持っている子ということで、齋藤飛鳥、北野日奈子、斉藤優里の三人を見つけていただきました。


――そうしたファッション面での躍進が目立ったのも、2015年の乃木坂46の特徴です。相次いでファッション誌の専属モデルが決まったことが印象に強いですが、振り返ると『LARME』『Ray』で活躍する白石さんを中心に、乃木坂46は長期的にファッション方面にアプローチしていたのではないかと思います。


今野:はい、まったくとってつけたものではありません。オーディションで乃木坂46のメンバーを選考した時のポイントに「骨格」という答え方をしたことがありますが、それも含めて、とにかく洋服を綺麗に着られる人たちを選んだんです。当初から、この子たちのうち何人かはファッション方面に行ってほしいなという意識はあった。その中で、まずは白石がしっかりと結果を出してくれました。


――白石さんは『LARME』創刊時からレギュラーモデルを務め、3年ほどかけて現在のポジションにいます。


今野:ファッション誌の中でも革命的な存在になった『LARME』さんのイメージリーダーとして白石が起用されて、反響もすごく良かった。専属モデルになった『Ray』でも、当時最年少で入って並み居る先輩たちがいる中で時間をかけてトップに近くなってきた。白石の功績は大きいです。


――それらの媒体との関わり方を見ていると、たとえば固定ファンを持つアイドルありきで最初から表に立たせるのではなく、時間をかけて雑誌の中で馴染ませながら育てるような長期戦略を感じます。


今野:大事なのは、単純にお飾りで起用されるのではなくて、ちゃんとその世界で主力になっていくことです。メンバーたち自身も時々言っていますが、いろんな場所で「しょせんアイドルでしょ?」と見られる。そのことへの反発心はあると思います。どこの誰よりも多く、山のような種類の仕事をして、そのたびにものすごく努力をしているけれど、どこに行っても、「どうせアイドルだから本気じゃないんでしょ」と低く見られる。それが悔しいから、その専門職の人たちにどれだけ迫れるのかという戦いを、それぞれの各ジャンルでやってるんですよね。乃木坂46の個人仕事は全部そうです。低く見られたところからスタートするんだから、そこを見返して「すげえ!」って言わせて帰ってこいという(笑)。


――最初は舐められることが前提というつもりで。


今野:それはもう前提として、覚悟の上で行く。それでいえば、10月に上演した舞台『すべての犬は天国へ行く』(AiiA 2.5 Theater Tokyo)で、名うての女優さんたちと一緒に舞台に立つというのも、一歩間違えれば、ものすごい恥をかくわけですよね。そんな場所で、「この子たちはすごいよ」と言わせることができた。


・「今年はまた、一から何かを作り上げていくことが必要かもしれない」


――2015年は、舞台演劇にも大きな進展がありましたよね。特に『すべての犬は天国へ行く』は大きなチャレンジだったのでは?


今野:デビュー時からの乃木坂の舞台における重要なパートナーとして、ネルケプランニングの松田(誠)社長がいます。『16人のプリンシパル』から一歩進んだ形態を作りたいと話していた時に、松田さんに『じょしらく』(2015年6月・AiiA 2.5 Theater Tokyo)を持ってきていただいて、それが大好評でした。次は、より「演劇」的だったり難解なものがやれればと考えていた時に、松田さんが大好きな作品として提案されたのが、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんの『すべての犬は天国へ行く』だったんです。「これを乃木坂でやったら、みんなびっくりすると思う」と。その松田さんの熱意を見て、これは乗ったほうが良いなと思ったんです。キャスティングも松田さんが見事にハマる決め方をしてくれて。松田さんという日本の演劇界でも重要な人物に、『プリンシパル』からずっと関わっていただいているからこその強みですよね。


――その舞台を見事に成立させたわけですが、これは2016年以降も続けていってこそ意味があるチャレンジだと思います。


今野:2016年も、ファンの皆さんに喜んでいただける系統のものと、「これをやるの!?」っていう実験的なものと、年間を通してこの二軸でやっていければと考えています。次の作品ももう今、探しているところです。


――選抜とアンダーの関係についてもお伺いします。2014年から始まったアンダーライブは2015年、さらに一歩段階が進んだように思います。


今野:アンダーライブでは、アンダーメンバーの中にスターが生まれなければと思っています。2014年、最初はそれを伊藤万理華に背負わせた。彼女は見事に重責を果たして、一歩踏み込むような発言も多くなってきた。そのあとバトンをタッチした井上小百合も、またここで確変して、彼女が根っこに持っている男前な一面がぐっと出てきて、カリスマ感のあるセンターになりました。それを去年引き継いだのが中元(日芽香)と堀(未央奈)ですよね。この二人には、一期と二期、Wセンターなどいろんなテーマがあるし、二人の間にも表に出ていない、いろんなやりとりがあったと思います。


――アンダーは特にライブを作っていくうえで、そうした物語が多く生まれてきますね。


今野:いろいろな魂のぶつかり合いが発生して、その上でステージに立つからこそ、アンダーライブには自然と厚みが生まれます。逆にいえば、選抜メンバーの方がそういう場所を持ちにくい。今は彼女たちのタレント性や存在感で成り立っているんだけど、選抜メンバーでも、そういう魂のぶつかり合いが現れたステージを見てみたい気はしますよね。


――また一方で、選抜常連メンバーが盤石であるだけに、アンダーがライブで存在感を増しても選抜にはなかなか入れないという苦しさが続いているのでは……。


今野:こればっかりは、僕らも同じ思いだったりするので(笑)。どうしたらいいんだろう?っていう。アンダーはすごい結果も出しているけど、それをもって選抜と大幅に入れ替えます、と簡単にできる話じゃないですし。


――では結果を出してきたアンダーは、次に何を背負っていくのでしょうか。


今野:実はいま、乃木坂46の問題点ってなんだろうといえば、東京に比重が高いことです。完全に首都圏アイドルなんですよね。首都圏においてはものすごく強いけれど、地方ではまだまだ知られてないし、存在感がそんなに伝わってない。ここをどうやって開拓していくかがグループ全体のテーマなのですが、ここをアンダーに背負ってもらうことになると思います。ステージを見てもらって、ファンを獲得するというミッションをアンダーに託す。ただ、これまでやっていたのと同じような魂のぶつかり合いを、そのまま持って行って成功するかというのもまた違うと思うんですね。新しいテーマを考えて、何か変えていかなければいけない。


――全体として2015年は乃木坂46が多方向に躍進したことで、メンバーの適性に応じた個人活動も広がって、それがまたグループにフィードバックされるという、理想的なサイクルが生まれてきましたよね。


今野:それは理想ではあるんですけど。……そこも実は、手放しで喜べるわけではなくて。どうしても弊害になるのがスケジュールなんですよね。たとえば個人の舞台仕事があれば、舞台の稽古と本番日はスケジュールが押さえられてしまって、そこにグループとしての仕事がどうしてもかち合っちゃう。個人仕事をやっているメンバーからすれば、ここの稽古に出られなかったらどうしようもない、という時もありますから、グループとしての仕事がそこでは重荷になりかねない。そんな葛藤がいくつもあって、毎回それぞれのメンバーが時間を縫うように仕事をしているんです。個人仕事の方で背負う責任が大きくなればなるほど、しばらくはこれ一本に賭けたいと思ってしまうのも致し方ないことです。そこのバランスはかなり悩んでいますね。


――それもまた、各ジャンルの仕事に対してうわべだけじゃない取り組み方をしているからこそ。


今野:そうなんです。こちらも中途半端に、「グループの仕事優先にしてください」とも言えない。なぜなら、その個人仕事で真剣に勝ってこなきゃいけないよと言って送り出しているわけだから。


――多方面にハイレベルで安定して、とても順調に見えていた乃木坂46の2015年ですが、その裏側はやっぱり相当厳しいんですね。


今野:断腸の思いがたくさんありますね(笑)。まあ2016年はおそらくもっと激動の年になって、いろんな変革があると思います。変化していくことで生まれる物語も含めて、しっかりとしたエンターテインメントとしてファンの皆さんにお届けする責任がある。いま仰っていただいたハイレベルの安定というものも、今年はなくなるかもしれません。でも、その変化の中で失うものもあれば、新たに手にするものもあるでしょう。今年はまた、一から何かを作り上げていくことが必要かもしれないですね。この記事が公開されて以降、いろんなことが起こると思います。(取材・文=香月孝史)