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Silent Sirenのライブはなぜ「楽しい」のか “覚悟”と“挑戦”のステージから魅力を読み解く

2016年01月30日 16:21  リアルサウンド

リアルサウンド

Silent Siren『年末スペシャルライブ 覚悟と挑戦』の様子。(写真=駒井夕香)

 Silent Sirenの4枚目となるアルバム『S』が2016年3月2日にリリースされる。「ハピマリ」「八月の夜」「alarm」といったシングル、フジテレビ系スペシャルドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のエンディングテーマになったZONEのカバー「secret base~君がくれたもの~」をはじめ、ならんだ収録曲タイトルを見ると、すぅ(Vo.&Gt.)の名字でもある「吉田さん」も気になるところだが、現時点で注目すべきは先日YouTubeで公開されたリードトラック「チェリボム」の破壊力だ。


(参考:Silent Sirenの“硬派な音楽性”はどう確立したか 活動スタンスから紐解く


 軽快なロックサウンドに、オールドスクールなアメリカンポップステイスト溢れるメロディーと、乙女チックな歌詞が躍る、どこをどう切ってもポップとキャッチーしか存在しない破壊力を持った一曲に仕上がっている。カラフルでコミカルなパーティー仕立てのミュージックビデオもサイサイワールド全快であり、一切隙のない、まさにサイサイにしかできない悩殺キラーチューンである。


 昨年12月に行われた<年末スペシャルライブ 覚悟と挑戦>にてライブ初披露されたこの楽曲は、先立ってメンバーによる振付指導動画が公開され、ひとつの目玉にもなっていた。


 名古屋、大阪と続いた<覚悟と挑戦>は2015年12月30日、東京体育館でファイナルを迎え、1月の日本武道館公演からスタートしたSilent Sirenの2015年はこの日、幕を閉じた。2015年は「覚悟」の年、2016年は「挑戦」の年──。バンドとして進化した姿を見せつけ、2016年へのあらたな「挑戦」へと向かう決意表明にもなった夜であった。


・サイサイの「覚悟」と「挑戦」を目撃した、<覚悟と挑戦>東京公演


 道着袴姿の4人による大筆書道のオープニングVTR。各々が「覚」「悟」「挑」「戦」と、一文字ずつしたためると、祭囃子のリズムが激しく打ち鳴らされる。「ワン!ツー!ワンツー、さんし!」繰り返される、すぅ(Vo.&Gt.)の掛け声に導かれて湧き上がる8000人の「わっしょい!ワッショイ!」。それが最高潮に達したのを制するように、「サイサイのサイは祭のサイじゃぁぁぁぁーーーー!」と、すぅの高らかな叫びが響き渡った。年も押し迫るこの日、真冬のお祭り騒ぎさながら「What Show it?」でライブの口火は切られた。紗幕が降りると、上手側から、ゆかるん(Key.)、すぅ、ひなんちゅ(Dr.)、あいにゃん(Ba.)、着物を基調とした衣装を纏った4人が横一列に並んでいる。ドラマーがステージ後方に陣取る場位置、ボーカリストがフロントマン、といった通常のロックバンドの常識など、彼女たちには通用しない。


 4人がそれぞれのカリスマ性を放ち、全員がフロントに立てることが最大の武器でもある。観ている側も「席によってはドラマーがまったく見えない」というありがちなことも極力回避されるわけだ。音響のモニター環境やメンバー同士の視覚的に生み出されるアンサンブルを考えれば、決して演奏しやすいフォーメーションではないはず。だが、そこを犠牲にしてまで「見せる」ことに徹することもサイサイならではの特異性だろう。畳み掛けるリズムの上を滑るように言葉遊びが転がって行く「八月の夜」になだれ込み、ステージ後方に映し出されるミュージックビデオがステージ上の一直線のフォーメーションにシンクロしていく。間髪入れず、キラキラなサイサイ節全快の「BANG!BANG!BANG!」へ。のっけから“夏”のアッパーチューンの応酬だ。


 凛々しくしなやかながらもライブのテンションを捲し立てていくひなんちゅのビート、外国人ベーシストのごとく上半身でリズムを取り、うねりを上げるあいにゃんのグルーヴ、オーディエンスの熱気を高く挙げた左手で掌り、ほとんど手元を見ずにきらびやかなサウンドを添えて行くゆかるん、感情をギターのストロークに委ねながら折々の表情を魅せていくすぅの歌。4人が紡ぎ出す音は今年1月の武道館のときとは明らかに変わっていた。音が太い。ひなんちゅがツインペダルを導入したとか、すぅが新しいジャズマスターに換えただとか、そんな機材的な部分ではない。武道館、海外公演、フェス&イベント出演……2015年の数多くの活動が音に集約されている、とでもいうべきものであり、積み重ねてきた確固たる自信が強靭な音となって自然とはじき出されている。


 そして、これまでサイサイのライブをサポートしてきた“みっちー”(Gt. / ミチルロンド-michirurondo-)の姿はない。ツイン・ギター編成からの変革は、ライブにおけるアレンジ&サウンドの完成度という面では粗削りな部分を感じるところもあったが、それは良い意味でのロックバンドの持つ荒々しさでもあり、演奏する姿に悠々とした余裕が滲み出ている。何よりも4人の結束と覚悟が、より強固なものになって“音”と“姿”に現れていたことは言うまでもあるまい。


 すぅとあいにゃんが、ステージの花道両翼に分かれてのダンスビートナンバー「DanceMusiQ」で会場が一気にダンスフロアと化し、「NaNaNa~」のコール&レスポンスが一体感を加速させる。つづく「「Are you Ready?」」では、あいにゃんのスラップ、ひなんちゅの激しく打ち鳴らされるタム、すぅのむせび泣くギター、ゆかるんのフラッシーなオルガン、4人が競い合うように絡むスリリングなソロバトルにオーディエンスが我を忘れて熱狂しつつ、8000人の鬨の声「アー ユー レディー?」が会場にこだまする。すぅがここに集まってくれた感謝と、武道館ライブにより新たな目標が出来たことを口にし、“武道館へ行くため作った大切な曲”と紹介された「KAKUMEI」へ。


 ひなんちゅ自ら制作・構成に関わったというこの日は、事前にウェブサイトでのリクエスト投票<Request Award 2015>が行われており、映像を交えながらのカウントダウン形式で結果発表がされた。センターステージでのピアノによるリアレンジが印象的だった「stella☆」(10位)、メンバーの予想に反して意外と?人気の高かった「フィルター」(8位)、4人のボーカルが交錯していく「want CHU▼」(2位)など、シングルカップリングや普段あまり演奏されてこなかったこの楽曲たちは、ここまでのセットリストにほとんど組み込まれており、リクエストを基にした構成であったことにあらためて気がつく。そして1位の「→」が発表されるとともに、映像から生演奏へと突入した。


 すぅのギターとあいにゃんのベースの掛け合いバトルが白熱するオリエンタルなナンバー「チャイナキッス」、すぅがおもむろに掻き鳴らしたD♭コードのフィードバックを残しながら、高らかに歌い上げて始まった「爽快ロック」、全力でぐるぐる回されるタオルで東京体育館が埋め尽くされた「ぐるぐるワンダーランド」で本編は終了。この曲を以て、<Request Award 2015>の上位10曲すべてが演奏されたことになる。


 会場全体の振り付き「チェリボム」ではじまったアンコール。アルバムを引っ提げての全国25箇所26公演<Silent Siren Live Tour 2016「Sのために Sをねらえ! そしてすべてがSになる」>の発表に会場が沸き、「ずっとやりたかった」というライブハウス中心の会場名がスクリーンにスクロールされていくと、至るところからどよめきと歓喜の声があがる。そして、ツアーファイナル「7月18日(祝・月)横浜アリーナ」の文字が映し出されると、地鳴りような大歓声が巻き起こった。「みんなをもっと大きいステージに連れていきたいと思ってて……」「国民的ガールズバンドになります!」と、ひなんちゅが涙ながらに宣言し、大歓声に包まれながら感動のフィナーレを迎え……ないのがサイサイである。


 感動に浸るのも束の間、「開演中のカメラ、携帯電話による撮影、録音は禁止です~」と、すぅのナレーションによる『NO MORE 映画泥棒』のパロディ映像が流れだす。開演前にも流れていた映像だが、「だけど、次の曲は特別に撮影OK!」という思わぬ展開が。カメラ男の正体はゆかるんだった、というオチ付きである。あの怪しい動きを完全にマスターしている姿にサイサイの誇る“歌って踊れるキーボーディスト”の本気を見た気がした。こういう細かいネタを突如ブチ込んでくるのもサイサイのエンターテインメント性だ。みんな「撮影したいけど、撮影してるとノれない」という喜びのジレンマに陥りながらもひたすら盛り上がった「Sweet Pop!」、会場全体が一心不乱に手と声を上げた「ビーサン」の大合唱で、Silent Sirenの2015年は幕を閉じた。


・“ロックバンド”という概念にとらわれない姿勢


 「サイサイのライブは楽しい」──ファンの多くが持つ感想だ。「カッコよかった」「素晴らしかった」漠然とした言葉であるが、そういった感想を持つライブは多い。だが、それらを含めて「楽しかった」という言葉に集約できるバンドはそうそう居ないと思う。自由な発想と自由すぎるトーク、ちょいちょい挟み込んでくる小ネタ、でもキメるところはバチっとキメてくる……それがサイサイの魅力でもあり、「ロックバンドはこうあるべき」といった固定観念にとらわれていないからこそ生まれる面白さであるだろう。


 「売れたい」「有名になりたい」と口にすることが、どこかカッコ悪いとされるロックシーンの中で、上を目指すことをきっぱりと公言する、貪欲な姿勢を持つ珍しいバンドでもある。「読モ出身」という出自がゆえに誤解や偏見も持たれてきたが、逆にその偏見すらも武器にしてきた。「ロックバンドである」ことを、音でしっかりと主張しつつも、決して斜に構えることはない。キュートなビジュアルイメージを活かすことはもちろん、先日DVD化されたテレ朝動画『サイサイてれび!~おちゃの娘サイサイ~』などで見せるバラエティの側面しかりだ。サブタイトルにもなっている〈私たちガールズバンドですが…〉といった身体を張った企画に挑む姿も、お笑い芸人たちと対等に絡んでいく姿も、もはや“芸風”といえる域にまで達している。音楽と、可愛さと、お笑いまでも網羅し、かといって散漫にならずにどれも徹底的に追求し、自分たちの武器にしているのだ。サイサイの目指す「国民的ガールズバンド」とは、単にセールスや動員という表面的なものでないことは、「2016年もいい意味でみんなの期待を裏切るようなバンドでいきます」というひなんちゅの言葉にも表れているように思う。


 2016年、Silent Sirenの新たな「挑戦」がはじまろうとしている。自信作と語るニューアルバム『S』、ツアー、そして、ちょうど7月にリニューアルオープンする横浜アリーナでの公演……この自由奔放なガールズバンドは我々を思いっきり“裏切ってくる”に違いない。(冬将軍)


※▼の正式名称はハート。