私が『オリスタ』の前身となる雑誌『オリコン・ウィーク The Ichiban』を読んでいたのは、1996年頃から2000年代はじめくらいで、ちょうど中学生から高校生にかけての頃だった。
たくさんのチャートが掲載されていたが、目玉はCDシングルランキングトップ100である。どのシングルがどれだけ売れているかが一目で分かるそのチャートを毎週見ていると、様々なドラマを感じられた。人気ミュージシャンによる“頂上決戦”といえるものもあれば、見開きの右ページ、つまりは51位以下で長く安定してランクインしている作品もあった。
今でも覚えているチャートはたくさんある。特に印象深いものを挙げると、1998年7月20日付のCDシングルチャートだ。
B’zの『HOME』と、L’Arc~en~Cielの『HONEY』『花葬』『浸食~lose control~』の3枚同時発売シングルの発売週が同じになった。となると、注目は今でも続いているB’zの初登場連続1位の記録に集まる。L’Arc~en~Cielは前作『DIVE TO BLUE』で1位を獲得、飛ぶ鳥を落とす勢いで支持を集めていたし、『HONEY』と『花葬』はワンコインシングルと手に入れやすいという背景もあった。どのシングルが1位になるにせよ、ハイレベルな戦いになるはずだ。
『オリコン・ウィーク The Ichiban』は「エンターテインメントのあらゆるチャートを網羅している雑誌」でもあったが、それはあくまで一つの側面に過ぎなかった。一つの音楽ジャンルに縛られることなく、メジャーからインディーズまでを網羅しており、サブカル色の強い雑誌でもあった。
私が読んでいた当時、オリコンの名物編集者として有名だったのが猪俣昌也(イノマー)さんである。猪俣さんの文章は、とにかく存在感があった。能天気でありながら、感情をこれでもかとぶつけてくる。遠藤ミチロウさん、ロリータ18号、QP CRAZYなどといった個性豊かなミュージシャンが頻繁に登場し、ただでさえ混沌としている誌面に、副編集長降格や離婚など、自らの自虐ネタと下ネタを次々と繰り出す。ぐちゃぐちゃで何でもありだったが、ワクワクするものばかりだった。
イノマーさんが書いた文章で忘れられないのは、フィッシュマンズ・佐藤伸治さんへの追悼文である。佐藤さんは1999年3月、33歳という若さでこの世を去った。その翌月だと記憶しているが、イノマーさんによる佐藤さんへの追悼文が『オリコン・ウィーク The Ichiban』に掲載された。
編集長時代に“降格覚悟”でフィッシュマンズを表紙に抜擢したこと、フィッシュマンズが生み出す音楽への愛、そして佐藤伸治というミュージシャンへの想い。ここで私はその文章について語ることはできないし、する必要もない。ただ、読み終えた瞬間、「なんて綺麗な文章なのだろう」と思った。いろいろな感情が愛に集約されていくその文章の力は、圧倒的だった。
何の因果か、私はこうしてライターとして文章を書いているが、中学生・高校生の時期に読んでいたイノマーさんの文章、そして『オリコン・ウィーク The Ichiban』から深く影響を受けている。
雑誌名も変わってしまったが、それでも『オリ★スタ』の休刊のニュースは複雑な気持ちをもたらすものだった。また、CDの売上枚数もがた落ちし、一人による同一作品の複数枚購入商法が当たり前となりつつある中で、ヒットチャートの存在理由が問い直されている。