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ぼくりり、ミセス、井上苑子、シンリズム……音楽シーンで10代アーティストが台頭する背景とは?

2016年01月29日 16:41  リアルサウンド

リアルサウンド

ぼくのりりっくのぼうよみ『hollow world』

 ここ数年の音楽シーンでは10代の歌手・ミュージシャンの台頭が目立っている。シンガーソングライターのシンリズムや井上苑子、ラッパー/ボーカリストのぼくのりりっくのぼうよみ、5人組バンドのMrs. GREEN APPLEなどだ。現役高校生も含む彼らは、どのような経緯で作品を世に送り、注目を集めるようになったのか。その背景について、音楽ジャーナリストの柴那典氏はこう説明する。


「ここ数年目立つのは、多様なネットサービスをうまく活用し、自身のパーソナリティや音楽をオープンに共有する10代のアーティストたちです。かつてはニコニコ動画などの匿名性の高い場所で“正体不明の新人”として頭角を表すケースが多かったのですが、最近の10代は、たとえば職人気質で上の世代へ音楽を届けたいアーティストはSound CloudやBandcampを、若者をターゲットにタレント的なブレイクを狙っている場合は動画メディアを使う、といった具合です。もちろん、ライブハウスで人気を博して知名度を上げていくケースもありますが、ネットの活用が10代アーティスト増加の背景にあるのは間違いないでしょう」


 ぼくのりりっくのぼうよみ(通称:ぼくりり)は、1997年生まれ、横浜在住のラッパー/ボーカリスト。彼は『ニコニコ動画』への動画投稿から活動をはじめ、10代限定オーディション『閃光ライオット』出場・ファイナリスト選出などを経て、2015年12月にメジャーデビューを果たした。


「ぼくりりは、ニコニコ動画『歌ってみた』シーンを出自にはしていますが、そこで人気を獲得して支持を広げたタイプではありません。SEKAI NO OWARIのFukase、松井玲奈、映像監督の東市篤憲など、文化的にアンテナを張っているタイプのクリエイターや芸能人が、ネット上で彼の音楽と出会い、絶賛したことをきっかけとし、現在のブレイクに繋がっています。彼は詩人のような雰囲気があり、ネット上に漂う不穏な空気を肌感覚で捉えて、文学的に表現できるアーティストですね」


 ぼくりりと同じ年齢のシンリズムは、キュレーションマガジン『antenna』CMソングで注目された神戸在住のシンガーソングライター。作詞・作曲・編曲はもちろん、さまざまな楽器を自ら演奏し、プログラミングまでをひとりでこなすマルチプレーヤーだ。彼の音楽にまず反応したのは、早耳のインディーリスナーやアーティストなど、彼より年上の音楽ファンだったと柴氏は説明する。


「シンリズムに関しては、ミュージシャン同士がフォローし合ってリポストすることで音源が広まることが多いSoundCroudを活用したことが大きかったのでは。すでに彼は“ミュージシャンズミュージシャン”の印象があり、The Birthdayのフジイケンジ、NONA REEVESの小松シゲル、高野勲らベテランアーティストとセッションするなど、楽曲とルックスから想起させるポップ・マエストロのイメージだけではなく、マルチプレイヤーとして優れた音楽的身体能力を持っています」


 自身よりも年上の音楽ファンや、アーティスト・クリエイターらによって見出された先の2アーティストとは対照的に、シンガーソングライターの井上苑子は10代を中心とした同世代に支持されているアーティストだ。


「ツイキャスやMixChannelなど、個人や、友達・恋人との動画を気軽にアップできる、言ってしまえば“リア充コミュニティ”のツールから人気が出た井上苑子さんの存在は、同世代に支持されているアーティストならでは。10代の共感を誘うような恋愛ソング・日常の歌を今の世代の言葉で綴っている楽曲は、確実に同世代に届いています。ネットの使い方が世代ごとに変化するなかで、彼女は新しい時代の等身大を表すシンガーになっていると言えるでしょう」


 楽曲の作詞・作曲・編曲を手がけるフロントマン大森元貴(Gt&Vo)とリーダーを務める若井滉斗(Gt)、1996年生まれの2人がバンドを牽引するMrs. GREEN APPLEも、同世代の音楽ファンから多くの支持を集めている。彼らの場合は、ネット上のサービスを介し活動の幅を広げた先の3組とは異なり、ライブハウスという“リアル”の場での人気が、インターネットを介して同世代以外の音楽ファンに伝わっていった。


「Mrs. GREEN APPLEの人気は、活動初期はメディアへの露出もない中、ライブの動員だけが一気に増えていった印象があり、andropがブレイクしていった過程に近いと感じました。ライブを通して伝わる楽曲のキャッチ―さ、少年漫画の主人公のような“青さ”が、同世代の音楽ファンの心を着実に掴んでいきました。また、BUMP OF CHICKEN、RADWIMPSといったさまざまなバンドがテーマにしてきた『切なさ』『無常感』『希望を見据えるイメージ』などを体現している、良い意味で日本のロックシーンの直系にいるバンドですね」


 同じ10代のアーティストでも、人気となるきっかけや支持を集める対象も千差万別だ。しかしインターネット・メディアの発展により、10代といった若さでもその才能が見出されやすくなっているのは間違いない。それぞれのアーティスト性や音楽性に合ったインターネットの活用こそが、音楽シーンでの台頭の鍵を握っているのではないだろうか。(リアルサウンド編集部)