今月14日、マクラーレンはフォルクスワーゲン・モータースポーツでモータースポーツディレクターを務めるヨースト・カピートを、CEOとして迎え入れると驚きの発表を行った。カピートがチームに何をもたらすことができるのか、英AUTOSPORT.comでラリーを担当しているデビッド・エバンスが分析する。
以前は、モータースポーツ業界においてマクラーレンF1チームへの移籍といえば、とても大きなステップアップと捉えられていただろう。けれども世界最大の自動車メーカーのひとつであり、世界ラリー選手権(WRC)で39戦中34勝をあげ、6つのタイトルを獲得したチームからとなると、そうではないかもしれない。
カピートがフォルクスワーゲンで達成した成果には、ある種の見方がある。彼には最高のマシンがあり、潤沢な予算があり、最も優秀なドライバーがいる。にもかかわらず、なぜ5戦で勝利を取りこぼしたのかというものだ。あらゆるスポーツに共通することだが、すべての要素が優れていても正しくまとめあげる人物がいなくては意味がない。優秀な選手が多いにかかわらず、プレミアリーグで苦戦したチェルシーFCが、その代表例と言えるだろう。
そして、カピートの強みは舞台裏でこそ発揮されるものだ。彼は2014年シーズンにタイトル防衛が危ぶまれたセバスチャン・オジエを鼓舞し2度目のチャンピオンに導いている。また、このところ窮地に立たされている親会社を説得、WRC撤退を阻止するなど役員会議でのデリケートな交渉にも長けている。
カピートは究極のチームプレイヤーなのだ。この3年間、彼には毎朝欠かさず行う作業があり、そのなかには彼の抱える3人のドライバーが最高の1日を過ごすための、モーニングコールまでもが含まれている。これらのルーティーン作業はつまらないことだと一蹴されるかもしれないが、ここにこそカピートの真価がある。フォルクスワーゲン・モータースポーツは彼のチームであり、家族だった。
私はマクラーレンの内情によく通じているわけではない。しかし、私の知る限り、マクラーレンをリラックスしていてオープンで、かつ自由放任主義的なフォルクスワーゲンのように変えていくには、苦労がともなうだろう。
カピートのモータースポーツやF1に関する知識が豊富であることは幸いだ。1990年台後半にザウバーでの経験があることで、パドック内の事情に深くまで通じているうえに、昨今のフォルクスワーゲン・グループの状況によって危機管理に対しても確かな知識がある。
それでも、カピートがこれから直面するものが、彼のキャリアの中で最大の難関になることは疑いようがない。フォルクスワーゲンでの栄光? ラリーでのタイトル獲得や勝利のことは忘れてしまうべきだ。マクラーレンのファクトリーの門をくぐった瞬間から、重責を担うのだから。