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miwaのバラード集がチャート1位に J-POPにおける“歌姫”のあり方はどう変化した?

2016年01月28日 18:51  リアルサウンド

リアルサウンド

miwa『miwa ballad collection~graduation~』

参考:2016年01月18日~2016年01月24日(2016年02月01日付)(ORICON STYLE)


 星野源『YELLOW DANCER』が10位圏内に返り咲き、back number『シャンデリア』も9位から8位へとランクアップしている今週。まだ2015年の香りは残っているので、昨年末の紅白歌合戦の話を。今さらといわず、少々お付き合いください。

 ディーバ・ウォッチングが趣味の私から見て、おや、と思ったのは、歌姫(それがR&B路線であれギター女子であれ)のスタンスの変化です。


 女性歌手に対して「ディーバ」という言葉が使われだしたのは90年代後期のことで、特徴は「アメリカのR&Bの系譜にあり、クラブでも受ける」音楽性、さらには「凛とした強さ」「自覚的なエロス」を放っていることでした。初期の象徴的な存在はUAや宇多田ヒカル。ま、音楽的な話はそのうち曖昧になり、ピンで歌っている美人ならR&Bなど関係なくディーバと呼ばれる時代になるわけですが、それでも「強さ」と「色気」だけは伝統的に続いていた。カワイイと言われるよりカッコイイと言われる存在。異性よりも同性に憧れられ真似される存在。安室奈美恵も、浜崎あゆみも、椎名林檎も、YUIも、とにかく「強い」目ヂカラが印象的で、カメラに向けて色っぽい流し目を送ることはあれど、無防備で爽やかな笑顔などなかなか見せなかったものです。


 しかし紅白に出ていた女性歌手たちは、もう本当にピュアで可愛いかった。緊張しながらとびきりの笑顔をハジけさせた大原櫻子。歌声は強いけれど表情は小動物系の愛らしさに満ちたSuperfly。さらにmiwaは歌声も笑顔もルックスも完全に男子(おっさん含む)をメロメロにさせるものでした。「いかにもディーバ」な目ヂカラを放っていたのは椎名林檎とMISIAくらい。ギャル系ディーバだったはずの西野カナも、「トリセツ」のヒット以降はカワイイお嫁さん志望系のフンワリ感を押し出しているようで。あぁ、これはもうディーバの時代が完全に終わったのだと感じました。主体的にエロスをアピールするタフな歌姫よりも、男から「カワイイ」と言われる素直な女の子シンガー。どちらが良い悪いという話ではなく、J-POPの女性歌手の主流は、そのように移り変わっているわけです。


 そんな長い前フリからの、チャート上位3位に注目。すべて初登場で、3位は『THE LAST』が大好評のスガシカオ。2位は倖田來未『WINTER of LOVE』。1位がmiwaの『miwa ballad collection~graduation~』。ちなみに2位と1位は自身初のバラード・コレクション作品です。待望の新譜とは異なるベスト的なバラード集。もちろん購買層は異なるのでしょうが、倖田來未が普及させた「エロかっこいい」よりも、「まっすぐでかわいい」miwaのほうが売れるという現実。女性が主体的にエロスを振りかざすことを是としない風潮は、今後さらに強まっていくのかもしれません。


 あ、もちろんポップ・ミュージックにエロスは必要ですよ。需要もあります。3位のスガシカオ、この人ほどグロテスクでエロティックで粘着質なことを歌い続けている人、他にいないですから。(石井恵梨子)