突然だが、みなさんはインドという国について、どんな物をイメージするだろうか。ガンジス河、カレー、ヨガ。色々とあるけど、ナンをイメージする人もいるはず。僕もそんな1人だ。
長いこと「インド=ナン」という図式は堅いと思っていたが、井の中の蛙大海を知らず。実は正しくはなかったようだ。(文:松本ミゾレ)
インド料理店のタンドール窯を作っていたのは日本人!
1月23日放送の「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)で、ナンを焼く「タンドール窯」についての特集が組まれていた。
タンドール窯というワードだけ聞くと、いかにもインドから持ち込まれたように錯覚するんだけど、実は日本でも作られているのだそうだ。
タンドール窯はインド料理には欠かせない、壷形のオーブン。主にナンを作る際に重宝するアイテムである。半円状にくぼんだ部分が特徴的で、名称は知らずとも、インド料理店に出入りしたことがある人なら、きっと見たことがあるはずだ。
そして、日本中のインド料理店に置かれているこのタンドール窯だが、実は高橋重雄氏(1933~2009)という日本の職人がそのほとんどを作っていたのだという。
インド人も「タンドール界のロールスロイス」と絶賛
番組では、高橋氏の甥で、神田川石材の3代目社長、竹田伴康氏が登場し、タンドール窯について説明してくれた。そもそも同社では、千葉県で採掘される房洲石を使用したパン窯を製造していた。
そうした中、1960年代後半、神田川石材ではパン窯の発注が激減。しかしある日、2代目社長の高橋氏が偶然手にした一冊の本にタンドールについての記述があった。そこで、「人がやらないうちに、タンドール窯を作ろう」と思い立ったのだという。
まず、銀座にある北インド料理店に出向き、実物のタンドール窯を見せてもらった。この店のシェフからタンドール窯についての様々なアドバイスを受け、これを参考に、1970年ごろに日本産のタンドール窯の第1号が誕生したのであった。
高橋氏の作る窯は、高温に強いムライト系セラミックで作られているのが特徴だ。ちなみに、インドで作られているタンドール窯は、素焼きや、あるいは日干しの土器が使われている。インドのものは5年から10年でガタが来てしまうに対し、高橋氏の作ったものは、15年は使えるという。
また、高橋氏のタンドール窯を使えば焼き上がりも美しく、この点も魅力の一つであるという。実際に、撮影に同行したインド料理店関係者からは「世界でナンバーワンです」や「タンドール界のロールスロイスですね」といった声が出ていた。
スタジオでは、インド料理店の関係者の中でも「ナン焼きの神」の異名を持つ、シタール総料理長モハメッド氏が、高橋氏のタンドール窯でナンを焼く。手際よく用意され、手のひらでほぐされるナン生地。この生地をタンドール窯の凹状内部に勢い良く貼り付ける。インド料理ファンにはおなじみの光景だ。
窯の内部の温度は280~300℃。高温に燻された生地は、あっという間に焼き上がった。窯に貼り付いていた面には、なんとも美味そうな焼き色が付いている。出来立てのナンを頬張るタモリの表情は、まさに破顔一笑。思わずおかわりを要求する。なんとも満足そうだ。腹が、減ってきた。
インドではナンは高級料理店でしか食べないらしい……
そんな中、番組の終盤には驚くべき事実が、ポロッと紹介されている。タンドール窯について話をしていると、インド料理店関係者の1人が「ナンはインド人自体はあんまり食べない……」と爆弾発言をしちゃったのだ。さらには「日本に来て初めてナンを食べたというインド人、たくさんいますよ」という発言も飛び出した。
そもそも、ナンは北インドの食文化で南インドではあまり食べられないのだという。「ナンは一般的ではない。家庭では作れないし、高級料理店でしか食べない」という証言も出る。そ、そうだったんだ。僕は驚きのあまり「ナンだって!」と絶叫してしまった。
ともかく、日本独自の発展を遂げた、ナンを美味しく焼き上げるためのタンドール窯。今日ではこれがあるからこそ、日本中のインド料理店で素晴らしいナンが味わえることには変わりない。
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