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広瀬すず、清純派から実力派へ 『怪盗 山猫』に見る演技の変化を考察

2016年01月26日 12:11  リアルサウンド

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リアルサウンド映画部

 2015年にもっとも躍進を遂げた女優のひとりである広瀬すずに対し、青春期特有の瑞々しさから“清純派女優”というイメージを抱く人々は少なくないだろう。だが、果たして本当にそうだろうか?


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 たしかに、ドラマ初主演作『学校のカイダン』で演じた春菜ツバメ役は、生徒会長の役目を半ば強引に押しつけられ、そのなかでも奮闘するというものだったし、第39回日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞した『海街diary』での浅野すず役は、思春期ならではの屈折した心情を上手く表現していたものの、それもまた純粋さの表れとして捉えられるものだった。こうした役柄を演じたことが、親しみやすいなだらかな人物像の形成に繋がると同時に、イメージを固定化していったのだと思う。


 しかし、彼女を単に“清純派女優”として括るのは、少し違うのではないか。筆者がこのことを強く実感したのは、日本テレビで1月16日から放送中のドラマ、『怪盗 山猫』第1話を観たときだ。このドラマで広瀬は、高杉真央役を演じている。学校では同級生からのいじめを受けるなど孤独感に苛まれているが、実は“魔王”なる通り名で世間を賑わせる天才ハッカーの高校生という設定。内向的な性格で、あまり感情を表に出さないのも特徴だ。


 ところが、この設定は『怪盗 山猫』第1話の終盤で突如として崩れる。亀梨和也演じる怪盗 山猫に、自分が犯してきた罪や、その罪と向き合わなかったことを執拗に責められたとき、真央は突然喚き散らし、感情を爆発させるのだ。目つきもほのかに殺気を帯び、血走らせているように見えた。その鋭いオーラはもはや狂気的といえるほどだった。「こういう演技もできるのか」と筆者は驚嘆してしまったし、それは多くの視聴者も同じだと思う。


 広瀬は現在17歳の現役高校生なのだから、20代になってから徐々にイメージの転換を図るという戦略もあったはずだ。実際、映画『紙の月』で宮沢りえ演じる梅澤梨花役の中学生時代を演じた平祐奈や、『セーラー服と機関銃 - 卒業 -』で映画初主演を果たす橋本環奈など、彼女と同年代の女優たちの多くは“清純さ”を前面に打ちだしているし、それは真っ当なやり方だろう。ではなぜ、広瀬はいちはやく“清純さ”という殻を打ち破りはじめたのだろうか。


 その答えは『高校生新聞 2015年7・8月号』に掲載されたインタビューから伺い知ることができる。広瀬は新たな1年の抱負として「内面から大人らしさを出したい。自分の演技をいい意味で変えられれば」と応えており、現在のイメージを脱却しようという意思が感じられる。もちろん、パブリックイメージを自ら変えようとすることは、これまでのファンが離れていくリスクを伴うものであり、イメージの転換に失敗したことによってその後のキャリアが潰えてしまった俳優は、それこそ数え切れないほどいる。しかし、広瀬はそうしたリスクより、女優としての実力を高めることを重視したのではないだろうか。その貪欲な姿勢は、きっと彼女を次のステージへと押し上げるはずである。


 今年公開予定の映画『怒り』は、そんな広瀬のネクストステージを予感させる作品だ。本作は、『悪人』や『許されざる者』などで知られる李相日監督が手がけており、広瀬は自らの意思でオーディションを受け、小宮山泉役を獲得したことを明かしている。ほかのキャストには、渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、妻夫木聡、池脇千鶴、宮崎あおいなど、名実ともに一流の役者陣が名を連ねており、広瀬にとって刺激的な現場だったことは想像に難くない。すでにクランクアップしているとのことで、広瀬は自身のブログにて「自分にとって凄く大きな作品になりそう」と率直な感想を述べるとともに、撮影現場で得たたくさんの“学び”について綴っている。広瀬すずが“実力派女優”として、ドラマ・映画界を席巻する日も近そうだ。(近藤真弥)