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「大器晩成」が圧倒的な強さを見せた2015年 ハロプロ楽曲大賞を振り返る

2016年01月26日 12:11  リアルサウンド

リアルサウンド

2015年度の楽曲部門で第1位に輝いたアンジュルム「大器晩成」(hachama)

 ハロプロを愛する者たちの間で毎年恒例のファンイベントとなっているのが『ハロプロ楽曲大賞』である。インターネット上で投票を募り、1年間に発表された楽曲に順位を付けてみんなで楽しく盛り上がろうという趣旨の催しである。2015年末も「第14回ハロプロ楽曲大賞'15」と銘打って開催され、3557人が投票参加して大きな盛り上がりを見せた。総順位などの結果は公式サイト(http://www.esrp2.jp/hpma/2015/)をご覧ください。


 前回の「第13回ハロプロ楽曲大賞'14」では、結果発表後の年明け1月に、リアルサウンド編集部からの依頼でイベント主催者でもある私ピロスエが順位を読み解く分析記事を寄稿した。今回はその2015年版である。


 それでは早速、2015年の順位を振り返っていこう。以下の論考は、下記URLのランキングと併せてお読みください。


http://www.esrp2.jp/hpma/2015/comment/result/song.html


・楽曲部門1位:アンジュルム「大器晩成」


 2015年の第1位に輝いた楽曲は、アンジュルム「大器晩成」だった。正月ハロコンでライブ披露され2月にシングルリリースされたこの曲は、当初からファンの評価がとても高く、「この曲が今年の楽曲大賞なのでは」という声も少なくなかった。言ってみれば2015年は、「大器晩成」を超える曲が登場するかどうかを1年かけて待ち続け、結局「大器晩成」が一番だったというオチがついた1年でもあった。


 なぜこの曲が支持を集めたのか。2014年秋の3期メンバー加入、スマイレージからアンジュルムへの改名を経てのグループ再スタート、その第1弾シングルというタイミングだったことがまず挙げられる。不安も少なくなかった中での勢いある楽曲の登場はインパクト大だった。


 また、この曲の作詞作曲を手がけたのは中島卓偉。2015年という年は、ハロプロ楽曲のほぼすべての制作を担当していたつんく♂が喉の病気のこともあってプロデューサーを勇退し、楽曲の制作体制が複数作家制へ移行した1年でもあった。そんな大きなターニングポイントを象徴する役割も担ったのが、この曲だったのではないだろうか。


 さらに言えば、2012年から続いた6人体制で着実にスキル経験値を蓄え、そこに3期メンバーのフレッシュな魅力も上乗せされたというメンバー構成も、楽曲の魅力に間違いなく貢献しているだろう。ウェブ番組『MUSIC+』で楽曲制作メイキングが放送されたことも効果があったはずだ。数々の要因が組み合わさった結果、2位にダブルスコア以上の点差をつけた4995.5pts、1841票という圧倒的な支持を集める、2015年を代表するハロプロ楽曲が誕生したのであった。


・楽曲部門2~3位:こぶしファクトリー「念には念」、カントリー・ガールズ「愛おしくってごめんね」


 2位、3位はこぶしファクトリー「念には念」、カントリー・ガールズ「愛おしくってごめんね」と続く。まず「念には念」は、2015年結成の新グループであるこぶしの初オリジナル曲。The WhoやT.REXといった偉大なロックグループの名曲テイストを感じさせる力強く骨太なサウンドによって、グループの第一歩を華々しく飾った。Aメロの<ねんねんねんね…>や、井上玲音の歌唱パート<忘れんなアンブレラ>など、キャッチーなフレーズも多い。


 カントリー・ガールズ「愛おしくってごめんね」も、2014年末のハロプロカウントダウンライブにて初披露されるやたちまち話題となった初オリジナル曲。古き良きアメリカのオールディーズサウンドを現代アイドルポップスに落とし込むというカンガルの方向性が如実に現れた楽曲であり、ここ数年のハロプロ楽曲で見られがちだったクールかつスキル至上主義的な指向とはまた別の路線を提示したという意味でも非常に新鮮だった。


 そしてそんな楽曲の方向性と期せずしてリンクしたのが、島村嬉唄というメンバーの存在だった。曲中セリフパートをはにかみながら担当する彼女の可憐さは、同年6月の突然の脱退劇によって消失し、かつ永遠のものとなった。その後はライブでのセットリストから外され長らく封印状態にあったこの曲だが、2015年末のハロプロカウントダウンライブにおいて、梁川奈々美と船木結という新メンバー二人の加入を機に再び歌われることとなった。


 1位の「大器晩成」も再デビュー曲と考えれば、トップ3の3曲はいずれもグループの初めてを象徴する楽曲ということになる。過去のハロプログループの例を振り返っても、デビュー曲というのは制作陣の力が入るのか、良曲率が高くファン人気も高い曲がそろっている。納得のベスト3だろう。


・楽曲部門4~10位


 モーニング娘。'15は「今すぐ飛び込む勇気」(4位)と「スカッとMy Heart」(6位)、アンジュルムは「臥薪嘗胆」(7位)と「ドンデンガエシ」(10位)、Juice=Juiceは「CHOICE & CHANCE」(8位)と「生まれたてのBaby Love」(9位)といった人気楽曲が並ぶが、そんな中で5位にランクインしたのがBerryz工房「Love together!」だった。2015年3月3日の日本武道館ライブをもって無期限活動休止となった同グループの最後のオリジナル曲である。やはりこの曲は、武道館でのアンコールで披露されたピアノ伴奏バージョンの印象がとても強い。ハロプロ史に残る名場面であった。


・楽曲部門11~50位


 以下はグループ別に見ていこう。


【℃-ute】


 グループ最高位は「我武者LIFE」の18位。ここ数年の傾向なのだが、℃-uteはハロプロ楽曲大賞ではいまひとつ弱い。2013~2014年と同じく、今回の2015年もまたベスト10に楽曲を送りこむことができなかった(2012年最高位は「悲しきヘブン」の4位)。公式サイトのプロフィールページなどからうかがえるハロプロ内序列では2015年度からモーニング娘。を抜いて一番上となり、昨年6月11日には結成10週年記念の横浜アリーナ単独公演を成功させるほどのポテンシャルがあるグループなのにもかかわらず、楽曲大賞では弱いというのは興味深い現象だ。


 ここからは、単純に自分の好きなグループやメンバーの楽曲に票を投じるという、いわゆる「人気投票」にハロプロ楽曲大賞が陥ってないという現状が読み取れる。個々に好きなグループやメンバーはいたとしても、それはそれとして、あくまで自分の好きな「楽曲」に投票し、その集積が楽曲大賞の総順位となっている。これは「入口は一個のグループでも、ヲタを続けていく内に他のグループも好きになっていくというハロプロの特性(DD誘発性とでもいおうか)」、さらに「1人5曲に投票できる(つまり1グループ1曲というバラけた投票行動がしやすい)システム上の特徴」といった要素によるところも大きいのではないか、と常々考えている。


 つまりグループの人気力はあまり関係なく、楽曲が支持されさえすれば上位に行くことができるというのは、楽曲大賞の過去の結果が証明している。そんなランキングの中での℃-ute楽曲はここ数年あまり振るってないが、はたして今年以降はどうなるか。昨年12月発売なので楽曲大賞のレギュレーションとしては今年のノミネートとなるアルバム『℃maj9』の収録曲、とりわけ「アイアンハート」は力を持っている楽曲だと個人的には感じている。


【モーニング娘。'15】


 ハロプロ楽曲の人気ジャンルであるファンキーなディスコサウンドをまとった「スカッとMy Heart」が6位という上位に来たのは納得なのだが、その上を行きグループ最高位となったのが4位の「今すぐ飛び込む勇気」というのは個人的に少し意外だった。泰誠ことたいせい作曲、浜田ピエール裕介編曲によるこの曲は、奇のてらったところのない、ただただ美しいメロディー・歌詞・サウンドというオーソドックスな曲調。新しい旅立ちを、飛び立つ水鳥の姿に託した歌詞世界は、2015年いっぱいでグループを卒業した鞘師里保の姿と重ね合わせて聴いたファンも多かったようだ。


 この曲や「夕暮れは雨上がり」(19位)で試みられた叙情的かつポジティブなサウンド路線は、昨年12月リリースの「冷たい風と片思い」「ENDLESS SKY」でも継続されている。こちらも今年度のノミネートとなり、どこまで順位を伸ばすか楽しみだ。


 また、前回2014年度のランキングではミュージカル『リリウム』の楽曲が多数ランクインしていたのが特徴のひとつだったが、2015年度にはモーニング娘。'15主演ミュージカル『トライアングル』のオリジナル楽曲が50位内に3曲入ってきた。最高位は鞘師里保演じるキリが歌うバラード「触れればココロがあふれだす」(41位)だった。


【アンジュルム】


 2015年のアンジュルムが凄かったのは、1位曲を獲得したからという点だけではない。シングル曲は全部で8曲ノミネートされていたのだが、企画カバー曲である「魔法使いサリー」(72位)をのぞく7曲すべてが40位より上にランクインという高い支持を得たのだ。また、11月発売のアルバム『S/mileage / ANGERME SELECTION ALBUM「大器晩成」』収録新曲からも3曲がやはり40位以上にランクイン。福田花音の卒業ライブとなった11月29日の日本武道館ライブでも印象的な場面で披露された「友よ」(24位)、「交差点」(40位)が入ってきたのは見事だが、さらに特筆すべきは、まだライブ披露もされていない「カクゴして!」という楽曲が38位をマークしたことだ。


 この「カクゴして!」は、アルバム初回Aのみ収録で、作詞作曲はTHE☆FUNKS、編曲はDANCE☆MAN。THE☆FUNKSとはDANCE☆MANと安岡優(ゴスペラーズ)による覆面ユニットで、この作家陣からもうかがえるようにファンキーなディスコサウンドが展開されている。鈴木俊介編曲によるハロプロファンクとはまた一味違ったファンクサウンドと、アンジュルムメンバーのバイタリティあふれるボーカル表現が上手く組み合わさった隠れ良曲である。こういった楽曲がちゃんとランクインしてくるところに楽曲大賞の意義を感じる。


【Juice=Juice】


 J=Jの2015年ランキングの焦点は、オリコン週間チャートで1位を獲得した記念曲「Wonderful World」が楽曲大賞では何位か、そして名盤の誉れ高い1stアルバム『First Squeeze!』収録曲がどれぐらいランクインするか、の二点だろう。前者の結果は14位で、なかなかの高順位といえる。そしてDISC2収録のアルバム用新曲は全部で9曲あったのだが、内7曲が50位以内にランクインという高い頻度となった。


 シングル/アルバム曲含めて、グループ最高位の支持を集めたのは8位の「CHOICE & CHANCE」。アップテンポで勢いのある曲調は、アルバム中でもエース級の存在感を放っていた。将棋を指すシーンもあるシュールな映像のMVも面白い仕上がりだった。


 DISC3収録のカバー集からは「Magic of Love (J=J 2015 Ver.)」が35位を記録。個人的にはこの曲が2015年で最も高まる1曲だと思っており、自分の投票でも1位にした。


【カントリー・ガールズ】


 「愛おしくってごめんね」の両A面だった「恋泥棒」は22位、2ndシングル「わかっているのにごめんね」は33位とまずまずの順位。「ためらい サマータイム」は地味な曲調ということもあり62位に留まった。


【こぶしファクトリー】


 ミュージカル主題歌ということで、他グループのファンへの知名度という点ではちょっと厳しいと思われた「サバイバー」こそ85位だったが、「念には念」と共にトリプルA面シングルとして発表された「ドスコイ! ケンキョにダイタン」「ラーメン大好き小泉さんの唄」は、それぞれ12位・23位と高評価。


 つい数日前にラジオで初オンエアされたニューシングルの内の1曲「チョット愚直に! 猪突猛進」は、作詞作曲をヒャダインこと前山田健一が手がけるということで年始から話題を呼んでいたが、その仕上がりは鈴木俊介を編曲に迎えての前山田×鈴木による新たなハロプロファンクとなっており、すでに高い評判を集めている。2016年度の楽曲大賞でも上位にランクインしてくるのはほぼ間違いないだろう。


【つばきファクトリー】


 こぶしファクトリーと同じく2015年にグループ結成されたが、メジャーデビューはまだというつばき。インディーズ1stシングル「青春まんまんなか!」は54位と、惜しくもトップ50入りを逃してしまった。すでにインディーズ2ndシングル「気高く咲き誇れ!」がリリースされているが、2016年はいつメジャーデビューが決まるのかというのが、つばきにとって最大の関心事だろう。


【ハロプロ研修生】


 Juice=Juice『First Squeeze!』と同じく、リリース当初から高い評価を得ていたのがハロプロ研修生のアルバム『① Let's say “Hello!”』(先行販売日は2014年11月29日、正式発売日は2015年2月18日なので2015年度のノミネートとなった)。ノミネート7曲中、「青春Beatは16」(53位)、「「アイドルはロボット」って昭和の話ね」(80位)以外の5曲がトップ50入りを果たした。正規グループの楽曲に混じってのこの成績は大健闘といえる。


 最高位は「「恋したい新党」」の21位。thugい雰囲気のトラック、ハロプロ楽曲ではおなじみのU.M.E.D.Y.のラップ並唱、研修生たちの曇りのないユニゾンといった組み合わせがなんとも絶妙なケミストリーを見せている。


【ハロプロ関連】


 正規のハロプログループ以外のアップフロント所属ガールズグループ勢では、アップアップガールズ(仮)「アッパーレー」が32位で最高位だった。昨夏を彩ったお祭り感あふれるサマーアンセムで、アプガは7月に日比谷野音ワンマンライブを成功させるなど、2015年は躍進の年でもあった。


 LoVendoЯ「いいんじゃない?」は43位。中島卓偉の作詞作曲によるメジャーデビュー曲で、2015年は日本有線大賞の新人賞を受賞するというトピックもあった。


・MV部門


 MV部門で1位となったのは、モーニング娘。'15の「青春小僧が泣いている (Another Ver.)」。正規バージョンではなく、フジテレビ『The ビッグチャンス』の番組内企画の一環として渋江修平が監督した別バージョン。ソフト化はされてなくYouTubeでのアップのみの公開だが、その暗喩に満ちた映像世界は従来のハロプロMVとは一線を画す仕上がりで、ファンの高い支持を得た結果1位に輝いた。


 2位以下を見ると、楽曲部門で上位のものと結構かぶっているところもあるが、例えばアンジュルムは「大器晩成」(8位)ではなく「臥薪嘗胆」(4位)の方が上だったりと、やはりMVランキングならではの面白さがある。


・推しメン部門


 この部門は「MVPではなくオールタイム推しメンを選んでください」というアナウンスをしてはいるのだが、例えば2014年度は卒業した道重さゆみが1位になったりなど、やはりその年の状況が反映されることが多い(深読みすると、推しメンを1人に絞らないようなライト層がその年のMVP的なメンバーに投票する、という傾向があるのかもしれない)。


 そうすると「2015年は鞘師里保が1位になるのでは?」というのが事前の大方の予想だったはずだが、フタを開けてみれば鞘師は2位で、1位は同じモーニング娘。'15の佐藤優樹がかっさらうという結果になった(2013年まで連続1位を獲り続けていた嗣永桃子は3位)。また、5位に鈴木香音、6位に小田さくらが上がってきたのに驚く人も多いだろう。


 メンバーの人気というものは、ライブの際の声援の量やファンが灯すサイリウムの数、グッズの売上などいくつかの指標で可視化されるが、どれかひとつが絶対的な基準になるということは無いだろう。その意味でこの推しメン部門ランキングもあくまで指標のひとつに過ぎない、と考えている。とはいえ、まーちゃんの人気が上がってきているという話は個人的にもよく耳に入ってきた(特に女性ファンが増えている、と聞く)。



 ……以上、2015年度のハロプロ楽曲大賞の結果を駆け足で振り返ってきた。すでに2016年度のノミネートに含まれる楽曲はいくつか発表されており、前述した℃-uteやモーニング娘。'16、こぶしファクトリーの他にも、Juice=Juice主演ドラマ『武道館』の主題歌「カラダだけが大人になったんじゃない」や、劇中アイドルグループのNEXT YOUに扮して歌う「Next is you!」、カントリー・ガールズの新曲「ブギウギLOVE」など、気になる楽曲ばかりだ。それでは今年末も、みなさんの投票をお待ちしています。(ピロスエ)