2016年01月25日 11:11 弁護士ドットコム
鹿児島市で2012年、女性を暴行したとして強姦罪に問われた男性被告人の控訴審判決で、福岡高裁宮崎支部は1月12日、懲役4年とした1審・鹿児島地裁の判決を破棄して、無罪を言い渡した。この判決をめぐって、警察の捜査に問題がなかったのか、注目を集めている。
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報道によると、福岡高裁宮崎支部の岡田信裁判長は、鹿児島県警のDNA鑑定は信用できないと判断し、女性の供述についても客観的証拠と整合しないとした。
この裁判では、女性から検出された精液のDNA鑑定が問題になった。2014年2月の地裁判決では、「県警の鑑定で、精液は確認されたが、DNAが微量で型は鑑定できなかった」という検察側の主張を認め、「精液検出は乱暴されたとの女性の供述を裏付けている」として懲役4年を言い渡していた。しかし、残りの試料を高裁支部が再鑑定したところ、昨年2月に精液のDNA型が被告人と異なる型であることが判明し、被告人は昨年3月に保釈された。
控訴審判決で岡田裁判長は、県警の鑑定について、「DNA型が検出されたものの被告人と合わず、捜査官の意向を受けて、鑑定できなかったと報告した可能性も否定できない」との疑いを指摘。県警職員がDNA溶液や鑑定経過を記載したメモを廃棄していたと認定した。
今回の件から、どのようなことが教訓として得られるのだろうか。萩原猛弁護士に聞いた。
今回の高裁判決が逆転無罪となった大きな理由は、第一審当時の県警の鑑定では「精液は微量でDNA型の特定は不可能」とされていた女性の体内精液について、控訴審段階で改めて鑑定したところ、被告人とは別人のDNA型が検出されたことでしょう。
報道によれば、高裁は、捜査機関の対応について「鑑定技術が著しく拙劣で不適切な操作をした結果、DNA型が抽出できなくなった可能性や、DNA型が検出されたにもかかわらず被告人と整合しなかったことから、事実でない報告をした可能性すら否定できない」とか、「検察に有利な結果が得られなかった場合、鑑定したことを秘匿する意向があったのでは」といった判示をして、「警察・検察の証拠隠し」の可能性にまで言及しています。
DNA型鑑定は、近時、個人識別法として精度が向上し、刑事裁判の結果に決定的な影響を及ぼします。それだけに誤った鑑定が行われれば、冤罪を生じせる危険性が大です。鑑定試料の採取・保管、鑑定方法、鑑定結果の考察が適切になされ、その後のチェックの為の再鑑定の実施が保証された状態であるかどうかが、厳格に検証されなければなりません。
また、捜査機関の「証拠隠し」についてこれまで再審事件等で繰り返し批判を受けているにも関わらず、今回の高裁判決は「証拠は正義のための公共財である」という意識が捜査機関に全く浸透していないことを明らかにしました。
「DNA型鑑定の重要性と危険性」「証拠は正義のための公共財であること」、今回の高裁判決は、このことを訴えていると思います。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
萩原 猛(はぎわら・たけし)弁護士
埼玉県・東京都を中心に、刑事弁護を中心に弁護活動を行う。いっぽうで、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件をはじめ、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件や、欠陥住宅訴訟など様々な損害賠償請求事件も扱う。
事務所名:ロード法律事務所
事務所URL:http://www.takehagiwara.jp/