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SKY-HIはトリックスターから本物のスターへ デビューから最新作までのプロセスを辿る

2016年01月25日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

SKY-HI『アイリスライト(CD+DVD)』

参考:2016年01月11日~2016年01月17日のCDシングル週間ランキング(2016年01月25日付)


 今週のシングルランキングは、1位に稲葉浩志、2位にSKY-HI、3位に飯田里穂。TOP3がソロ・アーティストという、ここ数年のチャート状況の中ではかなり珍しい結果となった。


 もちろん、シングルランキング上位の常連であるAKB48やその関連グループ、ジャニーズ、LDH、K-POP勢のリリースが無かった週ということがその理由としては大きい。が、グループアイドル全盛の時代が続き、TOP3のCDジャケットに“集合写真”ばかりが並ぶ状況が当たり前になった中、“ソロショット”の写真がヒットチャートに並ぶこと自体が貴重な機会と言っていいかも。


 そして、今回の記事では、そんな中でも、SKY-HI『アイリスライト』に焦点をあてていきたい。というのも、いろんな意味で彼の存在は時代の分水嶺を象徴するような気がするから。このシングル、そして間髪入れずにリリースされた2ndアルバム『カタルシス』のヒットは、おそらく今の時代のJ-POPシーンにおけるヒップホップというジャンルの位置付けを大きく変えていくはず。少なくとも、ソロのヒップホップ・アーティストがオリコンチャートの上位に食い込むということ自体、かなり異例のことだ。


 といっても、彼がここに辿り着く道は決して平坦なものではなかった。


 2013年にシングル『愛ブルーム/RULE』でメジャーデビューしたSKY-HI。彼はAAAのメンバー・日高光啓としての活動と並行し、ソロのラッパーとして地道にキャリアを積み重ねてきた。AAAで紅白歌合戦などの華々しいステージに立つ一方で、SKY-HIとしては数々のアンダーグラウンドなクラブイベントに出演し、フリースタイルの腕を磨いてきた。


 本人が過去にブログに記したことによると、地下のクラブで活動を始めたのは2006年頃。今から10年前にまで遡る。2008年にはSKY-HIとしてのリリースの企画を立てるも周囲の大人に「お前が土下座してるフライヤーを作って、3000枚予約が取れたら作っても良いよ」と言われたこともあったとか。


 ヒップホップの文化には売れ線を「セルアウト」と嫌う価値観がある。おそらくクラブの現場に出入りし始めた当初は、ラッパーやDJから「アイドルがこんな場所に来やがって」みたいに言われたこともあっただろう。一方で、レーベルや事務所側としてもAAAとしての活動に専念してほしいという思いがあったはず。そんな周囲の偏見を一つ一つ、自分のスキルと本気度合いを見せることでオセロのようにひっくり返していったのが日高光啓=SKY-HIという男だった。


 そうして彼は2014年に1stアルバム『TRICKSTER』をリリースする。ツアーも行いセールスや動員の結果を出し、続けて2015年には『カミツレベルベット』『Seaside Bound』という2枚のシングルをリリース。さらにソロの知名度を広げ、いよいよ勝負作となる2ndアルバム『カタルシス』の先行シングルとして作られたのが、この『アイリスライト』なのである。


 興味深いのは、表題曲「アイリスライト」が彼のシングルとしては初のミドル・バラードとなっていること。そしてカップリングに『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)テーマソングの「Enter The Dungeon」がおさめられている、ということ。


 真っ直ぐな思いを描いた切ないラブソングの「アイリスライト」は、いわばJ-POPの王道のテーマ。そして「Enter The Dungeon」のリリックは、フリースタイルのMCバトルを、ダンジョンでのモンスターとの闘いになぞらえて描いたもの。つまり、メジャーとアンダーグラウンドの両方の「現場」に立ってきたSKY-HIならではの両面を示す2曲となっているわけである。


 般若、R-指定、漢 a.k.a GAMI、サイプレス上野、T-PABLOWという今のシーンを代表するラッパーたちが「モンスター」として登場し、挑戦者たちと言葉のバトルを繰り広げる『フリースタイルダンジョン』。そのエンディングテーマにSKY-HIの楽曲が選ばれたということも、彼の持つ“華”と“本気度”を象徴するエピソードと言っていいだろう。


 2ndアルバム『カタルシス』も、かなり聴き応えある一枚だ。前作アルバム『TRICKSTER』にはエンタテイメント精神あふれるアルバムだったが、よりシリアスな感触。亡くなった友人のことを歌った「LUCE」や、KREVAが提供したスリリングなトラックの上で高速ラップが駆け抜ける「As a Sugar」など、彼の真摯で熱い思いが伝わってくる。


 トリックスターから本物のスターへ。SKY-HIは、今、そういう転機に立っているのではないかと思っている。(柴 那典)