書店の棚に、2017卒生向けの「就活本」が並び始める時期がやってきました。多くの企業は書類から選考を始めるので、まずはエントリーシート対策や自己PRの書き方の本から手に取る学生が多いのではないでしょうか。
しかしこれらの対策本の中で、この本は学生の役に立つだろうなと素直に思える本に出会ったことがありません。むしろ誤解を生じさせ、無用な混乱を生み出すものの方が多いと感じているのが採用担当者の本音です。(文:河合浩司)
読みにくい文章から「ビジネスセンスの悪さ」を感じてしまう
実際、これだけたくさんの就活本が売られているにもかかわらず、エントリーシートや履歴書の質が向上する気配はありません。最も問題なのは内容以前に「読みにくい文章」が非常に多いことで、これは「就活本」を読むだけではよくなりません。
典型的な読みにくい文章の特徴は、一文が長過ぎることです。「短く簡潔に」とは文章の基本ですが、意外なほど多くの学生が意識できていません。
たとえばある学生の履歴書には、5行分の「学生時代に力を入れたこと(通称ガクチカ)」が、たった一つの文章で書かれていました。再現するなら、以下のような文面です。
「私が学生時代に力を入れたことは、アルバイト先の飲食店でアルバイトチーフを任されたので、他のメンバーをまとめるために飲み会やお花見などの様々な企画を考えて、私が率先して実行してきたことにより、メンバー同士の雰囲気が良くなったので、私自身もとても嬉しかったですし、自ら動いて周りを巻き込むことが問題解決に繋がるのだと経験できたことで、困難を乗り越える力をつけることができました」
おそらく就活本には、ガクチカの欄には「アルバイトやサークルの人間関係で問題解決したことを盛り込むように」などと書かれていたのでしょう。それを忠実に守って要素を洗い出し、狭いスペースの中にすべて入れようとした結果なのかもしれません。
しかし採用担当者は、この文章から一般的なビジネスセンスの悪さを感じてしまいます。それはひいては「この人の文章は分かりにくいから、一緒に仕事するのは面倒そうだ」といったネガティブな印象につながってしまうのです。
まずは「自分を無理に大きく見せる」のはあきらめること
すべての応募者を面接することはできませんから、書類選考は多くの応募の中から「この人は難しいな」とネガティブな印象を与えるものを外すことが中心となります。そのとき、分かりにくい文章というのはかなり印象が悪いのです。
また書類は、その後の面接における「話のきっかけ」になりますから、「この人は面白そうだな。話を直接聞いてみたいな」と思わせることも重要です。そのためにも読みやすさや分かりやすさは大事になってきます。
なぜ無用に長い一文になってしまうのかというと、就活を「自分を売り込むこと」ばかり考え、自分を飾り立てようとするからではないでしょうか。売り込みが嫌われるのは、営業マンでも同じです。また長すぎる文章を書くことは「主語・述語のねじれ文」や「である・ですます調の混在」などのミスが発生する原因にもなります。
これからエントリーシート対策本を買おうと考える学生には、「文章の書き方の基本」を学べる本を併せて買うことをお勧めします。大学の就職支援セミナーでも、エントリーシートの書き方を扱う前に、読みやすい文章の書き方を伝えた方が効果的に思えてなりません。
個人的に推奨しているのは、阿部紘久著『文章力の基本』(日本実業出版社)ですが、他にも文章の書き方の良書はいろいろ出ています。読みやすい文章を書けることは社会人になってからも有益です。今のうちから学んでおいて損はありませんよ。
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