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イエモン復活で再注目、吉井和哉楽曲の特徴とは? バンド~ソロの作風を分析

2016年01月23日 20:01  リアルサウンド

リアルサウンド

THE YELLOW MONKEY『イエモン-FAN'S BEST SELECTION』

 2016年は前半から波乱の様相を呈しているが、最初に大きなインパクトを与えたニュースといえば「THE YELLOW MONKEY再始動」だろう。2004年に解散して以来、各メンバーは個々の音楽活動に専念していたが、今年5月11日、12日の東京・国立代々木競技場 第一体育館を皮切りに、全国10箇所20公演にわたるアリーナツアー『THE YELLOW MONKEY SUPER JAPAN TOUR 2016』を開催することが発表されたのだ。そこで今回は、バンドのメインソングライターである吉井和哉の楽曲分析をおこなってみたい。


(関連:吉井和哉、イエモン時代のウラ話を語る「実は体育会系のバンドで、打ち上げは男ばっかり」


 THE YELLOW MONKEYの再始動が報じられたその数日後、奇しくもデヴィッド・ボウイが急逝したが、吉井がもっとも影響を受けたアーティストといえば、ボウイをおいて他にいない(「デビッド・ボウイになるために、僕は『THE YELLOW MONKEY』を結成した」とまで公言している)。THE YELLOW MONKEYのアルバムで、もっともグラムロックに影響を受けているのは、やはりファーストアルバム『THE NIGHT SNAILS AND PLASTIC BOOGIE』だろう。中でも男性の同性愛をテーマにした「This Is For You」は、デヴィッド・ボウイとミック・ロンソンへのリスペクトが突出した楽曲だ。ちなみに、THE YELLOW MONKEYのラストシングルとなった『プライマル。』のプロデュースは、ボウイの朋友トニー・ヴィスコンティが手がけている。


 トライアド(三和音)中心の、シンプルなコードを用いた吉井のソングライティングは、ボウイをはじめビートルズやオアシスなど、ブリティッシュロックからの影響が強い。日本人アーティストの中では、プライベートでも交流のある奥田民生や、草野マサムネらの楽曲とも共通の匂いを感じるが、これは吉井のルーツが彼らと同じところにあるからだろう。


 何より吉井らしさ~THE YELLOW MONKEYらしさとなっているのは、誤解を恐れずに言えば「昭和歌謡」や「演歌」にも通じるような、マイナーコード中心のウェットな要素である。実際、藤圭子の「夢は夜ひらく」をソロ時代のライヴでカヴァーしたり、梶芽衣子主演映画『女囚さそり』にハマッたりしているところからも、そうした要素が楽曲の中に、意識的に取り入れているのは間違いない。


 では、いくつか代表曲を例に挙げて検証してみよう。THE YELLOW MONKEYの9枚目のシングル「JAM」は、彼らの代表曲として多くの人々に認知されている楽曲だ。吉井によれば、デヴィッド・ボウイがモット・ザ・フープルに提供し、彼らの代表曲となった「All the Young Dudes(すべての若き野郎ども)」からの影響を強く受けており、C - EmonB - Am - ConG - F - G - C -Gと、ベースが下降するクリシェが繰り返し用いられている。ただし、サビではF - DonF# - Gと変化する部分があって(セカンダリードミナントコード)、聴き手をハッとさせるなど独自の工夫も。余談だが、オアシスはこの曲のキメ部分を、自分たちの曲「Stand By Me」でオマージュしている。


 “スプーン一杯分の幸せをわかちあおう”と歌われる、THE YELLOW MONKEY流のドラッグソング『楽園』(11枚目のシングル)は、sus4(サスフォー)を多用した前半のサイケデリックなムードが印象的。リリース当時、イギリスで大流行していたケミカル・ブラザーズやプロディジーらの影響も感じさせる。サビのコード進行は、B - Baug - B6 - B7 - C#m - A - C#m -F#となっており、前半はコードがBのまま5度(F#)が半音ずつ上昇していくことによって、体の内側から湧き上がるような高揚感を生み出している。


 吉井の「歌謡曲趣味」が炸裂しているのが、13枚目のシングル『BURN』だ。AメロはAm - Am -G -G -F -F - G - E。哀愁漂うコード展開と下降するベースパターン、Amの短3度であるCを強調したメロディなど、まさにドロッとした歌謡曲の世界。それがサビではC - Esus4/E - Am -F/Fmとメジャースケールに移行し、一気に開放感が押し寄せる。サビの直前(Bメロの終わり)で、一瞬Fmが登場するのが、実は強烈なフックになっている点も指摘しておきたい。


 ソロになってからの吉井は、THE YELLOW MONKEY時代の「あく」が取れ、シンプルでストレート、かつ洗練された楽曲を多く書くようになっている。例えば、YOSHII LOVINSON名義での通算4枚目のシングル『CALL ME』は、AメロがBm - A - G/A -Bmというマイナー調の楽曲だが、「Burn」のような“ドロッとした歌謡曲っぽさ”をあまり感じさせない。これは、テンションノートである9th(ここではBmというコードに対してド#の音、Gというコードに対してラの音)を使うことで、ふわふわとした浮遊感を作り出しているからだ。


 吉井和哉名義での11枚目のシングル『LOVE & PEACE』は、サビがA/Amaj7 - D - Bm - E/E7 -E6/Eと進む。メジャー7thの浮遊感や、Bm - E7のツーファイブがとても清々しい。この曲とともに、アルバム『The Apples』に収録された楽曲「FLOWER」も、サビのコード進行がC - ConB - Am - E7 - F - C -Gとなっていて、ConBの響きが「LOVE & PEACE」のAmaj7と似ている。また、サビの後半はC - ConB - Am - E7 - F/Fm -Cで、吉井が「オアシスへのオマージュいっぱいの曲」と述べているように、「Don't Look Back In Anger」を思わせる。いずれにしても、ソロ時代の彼はどこか吹っ切れたような作風が多い。


 デヴィッド・ボウイに憧れバンドを結成し、解散後は「デビッド・ボウイじゃない自分を探し」て渡米するなど、常に新たな試みに挑戦してきた吉井和哉。再び彼がTHE YELLOW MONKEYに帰還し、どのような楽曲を奏でてくれるのか。今から楽しみでならない。(黒田隆憲)