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クリステン・スチュワート、なぜ全米屈指の売れっ子女優に? 脱力感ただよう演技の魅力

2016年01月23日 20:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Photo Credit: Alan Markfield/(c) 2015 American Ultra, LLC. All Rights Reserved.

 薬漬けで無気力なコンビニ店員が、特殊訓練を受けた敏腕エージェントとして覚醒してしまった! そんな若干既視感のある物語が全力で展開する新作コメディ『エージェント・ウルトラ』が1月23日から公開される。


参考:『ジプシーのとき』『アンダーグラウンド』など、エミール・クストリッツァ監督の特集上映が開催


 アメリカン・コメディが冷遇を受けている日本では珍しいことといえよう。主演は『ソーシャル・ネットワーク』(10)で一躍注目を浴びたジェシー・アイゼンバーグ。今年は『バットマン VS スーパーマン ジャスティスの誕生』で宿敵レックス・ルーサーを演じることでさらに飛躍の年となる予感が漂う若手俳優の一人だ。そしてヒロインを演じるのが『トワイライト』(02~12)シリーズで一躍マネーメイキング・スターの仲間入りを果たしたクリステン・スチュワート。かつてCIAの極秘実験に参加した過去を持つ主人公マイクが、ある事件をきっかけに能力が覚醒。スチュワート扮するフィアンセ、フィービーと共に、マイクの抹殺を目論むCIAの刺客と戦う……そんなストーリーだ。


 監督は本作が長編二作目の新鋭ニマ・ヌリザデ。そして脚本を書いたのは『ブルース・ブラザーズ』(80)や『大逆転』(83)を世に解き放したアメリカン・コメディ界のベテラン、ジョン・ランディスを父にもつマックス・ランディス。父のDNAを正しく受け継いだコメディ・センスが随所に光る展開は見事だ(ただし覚醒したスパイというプロットそのものの既視感は否めないが、本作は実話をもとにしているのだから仕方がない)。


 今回この稿で取り上げるのは、ジェシー・アイゼンバーグではなく後者のクリステン・スチュワートの方だ。目下ハリウッドで活躍する若手女優の中でも、トップファイブに入る実力派女優の一人として認知されているが、彼女の風貌から“若々しさ”や“健康的”といった形容詞は浮かんでこない。にも関わらずヨーロッパの監督や、あのウディ・アレンまでも魅了するほどの活躍をみせている理由は一体どこにあるのか?


 まず誰もがクリステン・スチュワートの顔の中で、一番注目するのは、その眼だ。どんな状況下でもカッと見開くというリアクションは殆ど無く、世界中の男子のハートを鷲掴みにしたメグ・ライアンのようなコロコロと変わる豊かな表情も持ち合わせていない。どちらかといえば無表情で無気力、そして脱力感しか伝わってこない。


 しかし、そんな彼女も一度セリフを喋りだすといきなり豹変する。半開きの眼で相手役を見据えながら、マシンガンのように攻撃的な口調で威圧する。スチュワートが演じてきた多数の“心の片隅に問題を抱えたティーンエイジャー”というキャラクターが、演技の枠を超えて彼女に憑依したかの如く観客を圧倒させるのだ。『エージェント・ウルトラ』の中でも、無気力なアイゼンバーグを叱咤するシーンはゾクゾクする。


 『パニック・ルーム』(02)をはじめとする子役時代からクールなその眼差しで、ベテラン臭が漂っていたスチュワートだが、作品の選び方は思いのほかバラエティに富んでいる。『ランナウェイズ』(10)では伝説のロックシンガー、ジョーン・ジェット、一連の『トワイライト』シリーズでは吸血鬼に恋した人間の少女(そしてゴールデン・ラズベリー賞では最低主演女優賞を同作で2度受賞)、『スノーホワイト』(12)では戦う白雪姫、『アリスのままで』(14)ではアルツハイマー病に犯された母と対立する娘、日本では劇場未公開の『ロスト・ガール』(10)ではホームレスのストリッパー、そして山田洋二監督の『幸せの黄色いハンカチ』の翻案版『イエロー・ハンカチーフ』(08)で桃井かおりの役回りを演じたのも偶然ではない。桃井特有の気だるい雰囲気が、スチュワートの持ち味と合致しているのは誰もが認めざるを得ない。


 アメリカでは素行の悪さであまり評判の宜しくない彼女が、只者ではないことを証明したのが、ジュリエット・ビノシュと共演した『アクトレス~女たちの舞台~』(14)である。ビノシュ扮する女優のマネージャーという役柄を熱演し、全米映画批評家協会賞といったアメリカ本国の各賞を受賞したばかりではなく、見事にアメリカ人女優として初のセザール賞の助演女優賞を獲得。本国ではオスカーとは無縁なスチュワートがフランスのジャーナリストから認められた証拠である。そうして認められながらも、『エージェント・ウルトラ』のような脱力系アクション・コメディというジャンルにも戻ってきてくれる所が妙に可愛いらしい。一見気難しそうに見えるが、懐は広い女優なのだ。


 かつてハリウッドに君臨した往年の大女優のような気品が漂う眼差しでファンを魅了しているクリステン・スチュワートが次に何を目指していくのか?
 
 その鍵を握るのは、かつて子役時代に『パニック・ルーム』で共演したジョディ・フォスターのような気がしてならない。子役から活躍し、紆余曲折を経てオスカー女優にまだ上り詰めたフォスターの生きざまを、(私生活も含めて)トレースしているような気がしてならないのは考えすぎだろうか……。(鶴巻忠弘)