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カビの生えたソファでも「ノークレーム・ノーリターン」? オークションの返金ルール

2016年01月23日 07:31  弁護士ドットコム

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ネットオークションでは頻繁にみかける「ノークレーム・ノーリターン」という約束。つまり「どんな物が届いても、文句を言うな」という出品者側のちょっと強気な対応をみせた文言です。


でも、あまりに「売り文句」とことなる商品が届いたら、クレームしたくなるものです。はたして、「ノークレーム・ノーリターン」でも文句はいえるのでしょうか? 藤田 城治弁護士に聞きました。


Q. カビだらけのソファが届いてしまいました


ネットオークションで先日「新品」と書かれたソファーを購入しました。


ところが届いた荷物をあけると、カビだらけ。アルコールで拭いたり、消臭剤などを使っても、カビ臭さはとれず、ソファーの中までカビが生えているようです。とても新品とは思えません。


クレームを入れたい気持ちはやまやまですが、購入時「ノークレーム・ノーリターン」の約束に同意してしまっています。


出品者には何度も電話してもつながらず、困っています。こういう場合、どうしたら良いのでしょうか?


A. 返品や返金の対応を求められる場合もある


大前提として「ノークレーム・ノーリターン」という言葉は「万能」ではありません。想定とあまりにも異なる商品が届いた場合には、返品、返金などの対応を求められる場合もあります。


まず「ノークレーム・ノーリターン」があってもなくても、購入した当事者が想定できる範囲での欠陥があった場合には、返品などの対応ができません。


例えば、使用には支障がない程度のキズ・汚れや、キズの状態を写真を出品ページに表示しているような場合であれば、出品者はその点を織り込んで値段を決め、購入者も同意していたとみなされます。届いた商品の欠陥を理由に代金の返還などを求めることはできないでしょう。


しかし、今回のように、購入者の想定を超えるような欠陥は、契約当事者は前提にしていません。そこで、以下のような契約の解除や無効主張、そして代金の返却を求めることも可能です。


では、どのように返金を求めていくのでしょうか。相手が「事業者」なのか、「個人」なのかで、対応は変わってきます。


ネットオークションの場合、販売者の肩書きは個人であることが多いかもしれませんが、出品数が多かったり金額が高いなど、「営利の意思をもって継続反復して取引を行う者」にあたる場合には、上記の「事業者」に該当します。


事業者がネットオークションに出品している場合、事業者と消費者の売買においては、「消費者契約法」が適用されます。中古品を新品と称して売った場合には「不実告知」、カビなどが発生していることを知りながら、あえて告げなかった場合には「不利益事実の故意の不告知」にあたります。


この場合、消費者は契約を取消して、代金の返却を求めることができます。


ただし、契約の取り消しができる期間には限りがあり、取り消しできることを知ったとき、つまり、商品を受け取り、カビなどの存在を知ったときから6ヵ月間となっています。気をつけましょう。


また、今回のようなケースでは、「消費者契約法」の他、「特定商取引法」の通信販売の規定も適用されます。返品の条件に「ノークレーム・ノーリターン」と記載されてますが、これは主務省令で定めた適正な表示には該当しないと考えられるので、解除が妨げられることはないでしょう。


カビが生えたソファーを「新品」と表示することは同法が禁止する「誇大広告」に該当し、行政指導の対象となります。この点を指摘するのも有効でしょう。商品の引渡しの日から8日間は、返送費用は購入者負担となりますが、売買契約を解除することができます。


上記以外にも、「瑕疵担保責任」という手段を使うこともできます。


これは、商品に「隠れた瑕疵」(かし=欠陥)があったとして、契約の解除や損害賠償請求ができる制度です。相手方に権利行使できる期間は、カビの存在に気づいたときから1年間です。販売者が事業者ではなく、個人の場合にも使えます。


証拠を残すには、書面やメールで、契約を解除し代金の返還を請求すると告げるのがいいでしょう。あるいは、これほどのカビが発生しているとは思わなかったとして、錯誤による無効を主張して代金の返還を請求することも可能です。


刑事的には「詐欺罪」の成否も問題となりますが、その場合、「新品でないことを知っていながら、あえて『新品』として出品した」ということの証明が求められます。「倉庫の保管中に発生したカビで気づかなかった」などと言われると、犯罪の成立は難しいかもしれません。


オークションでのトラブルを防ぐためには、出品する側も「ノークレーム」と書いたから安心するのではなく、欠陥の有無をきちんと確認して、購入者に示すことが必要です。また、購入者も、出品する側がそういった表示をしているかに着目して、信用性できるかどうか慎重に見極める必要があると思います。




【取材協力弁護士】
藤田 城治(ふじた・じょうじ)弁護士
第二東京弁護士会・環境保全委員会、関東弁護士会連合会・環境保全委員会委員
個人・企業を対象とした各種民事・刑事事件を扱っているほか、事務所の弁護士各自が野生動物・自然環境の保護にも取り組み、イリオモテヤマネコ等の保護活動を行っている認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金(http://www.jtef.jp/)をサポートしている。

事務所名:森の風法律事務所
事務所URL:http://morinokaze-law-office.com/index.html