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SCREEN modeが音楽で“さらけ出す”ものとは?「裸になった状態がビルドアップされていないと」

2016年01月22日 15:51  リアルサウンド

リアルサウンド

SCREEN mode

 キーワードは“Naked=裸になる”。SCREEN modeの2016年最初のリリースは、京都アニメーション制作のTVアニメ『無彩限のファントム・ワールド』オープニング主題歌「Naked Dive」だ。80年代のユーロビートと現代のEDMをミクスチャーし、作曲家・太田雅友の真骨頂であるキャッチ―なメロディを前面に、幻想と現実の交錯するシリアスでファンタジックな世界を鮮やかに描き出す、新境地の高速ダンスロック・チューン。飽くなき進化を続けるSCREEN mode、覚醒の一撃だ。(宮本英夫)


・「小室哲哉さんの影響を臆さずに出した」(雅友)


ーー髪の色、変わりましたね。


勇-YOU-:そう! 変えたんですよ。新曲のミュージックビデオを撮るにあたって、イメチェンしたいなと思って、赤く染めてみました。カラーリングが落ちてきて、今は普通の茶髪になりつつあるんですけど。


ーーあはは。染めるのは初めて?


勇-YOU-:いや、昔は染めてた時期もありましたけど、音楽を始めてからはずっと黒髪だったので。10年振りぐらいかな。


ーーアートワークも楽曲も、これまでとは違う新しい要素満載のものなので、そのあたりから話を始めましょうか。「Naked Dive」は80年代のユーロビートっぽい感じがありつつ、今のEDMにも通じるデジタルなロック感があって、なおかつポップに聴けるというのが第一印象でした。


雅友:うんうん。そういういろんな要素があるというか、まずイントロでユーロビートっぽさがありますよね。でも間奏はEDMっぽい流れになっていて、ちょっとずつ盛り上がって、一回静寂が訪れて、また盛り上がっていくみたいな。どうせやるなら、いろんな要素があったほうが楽しいかなとは思ってました。今回はデジタルっぽい要素を入れてやろうと、ランティスのプロデューサーの方にアドバイスをもらってから作り始めたんですけど、まず1曲作ったんですよ。「これだろう」と思って提出したんですけど、「これはちょっと違う」と言われ。


ーーあらら。


雅友:それはたぶん、SCREEN modeがそういうことにやるにあたっては、振り切れ感が必要だったと思うんですね。はっきりと明確なものがなくて、ブレた感じに見えちゃうとカッコ悪いから、「もっとはっきりさせてくれ」と。で、ちょうどその時期にヨーロッパに旅行に行く予定があって、そのまま行ったんですよ。曲ができてないのに(笑)。最終目的地はパリで、その前にモスクワにも寄って、赤の宮殿を眺めながら「この曲、どうなっちゃうのかな」とか思いながら(笑)。


ーーぜんぜん旅行気分になれない(笑)。


雅友:曲に思いをはせながら(笑)。それからフランスに行って、パリからブルゴーニュへ向かったんですけど、TGVが取れなくて普通の電車で行ったんですよ。2時間ずーっと畑を見ながら、「どうしようかなー」と思いながら。それはもうカオスというか、異国情緒みたいなものがゴチャマゼになっていて、そのイメージが曲にも出てると思います。ミュージックビデオもどこの国かわからないような、謎めいてるじゃないですか。曲を聴いて、監督も僕と同じイメージを感じたんじゃないかな。そういう意味でも印象的な曲になりましたね。


ーーですね。


雅友:ただ、ものすごく斬新なことをやってるか?というと、そうでもないんですよ。僕個人としては。


ーーそもそも、アニメサイドからのリクエストというのは?


雅友:デジタルで硬質な感じがほしいとは言われてました。アニメ『無彩限のファントム・ワールド』の内容を聞いて、もともと僕がイメージしていたのは、僕に見えているものがほかの人にはそう見えていないかもしれないとか、「脳科学っぽいね」と言われたんですけど、僕は哲学っぽい感じだと思っていて。たとえるなら、映画『マトリックス』のような裏テーマがあったんですよ、僕の中に。そういう要素がこの曲には合うんじゃないかな?と。たまたまアニメチームにも、音楽的にカッコいいデジタルの要素がほしいと言われていたので、うまくリンクしたと思います。


ーーそれが、ヨーロッパ旅行中に形になった。


雅友:だいたいこういうふうにしよう、というのはパリで決めました。それを帰ってきて速攻で作った感じです。決まると速いんですよ。僕の曲作りで非常に重要なのはまずテンポ感で、この曲は四つ打ちのビート感が定まった時点で、あとは速かった。僕はやっぱり、テンポとリズムですね。ドラマーの人選もむちゃくちゃ重要だし。だからリズムが強いですよね、今までになく。


ーーそうだと思います。


雅友:でもね、今回はやっぱりメロディなんですよ。話が矛盾してるんですけど(笑)。前のインタビューで「小室(哲哉)さんの影響を受けてます」という話をしたと思うんですけど、僕らの世代って、小室さんの影響からは逃れられないんですよ。もっと上の世代、50代くらいになると、ビートルズの影響を受けた人が多いですよね。僕ももちろん好きなんだけど、僕の世代はリアルタイムではないので、後追いなんですよ。教科書に載っているような音楽ですね。でも小室さんと、あとB’zの松本さんはリアルタイムなので、どうしても出てしまう。それを今回は臆さずに出したというか。


ーーああ。なるほど。


雅友:だからこの曲を聴いて、懐かしさを感じる人は多いんじゃないですかね。いろんな意味で。だからこの曲のメロディは、僕にとっては挑戦というか何というか……。


ーー挑戦じゃないですか。新発見ではないかもしれないけれども。


雅友:でもね、一周して新発見なんですよ。プロデューサーにも「小室さんぽいね」と言われたんですけど、常に一定の割合で、小室さんは僕のメロディの中にいるんですよ。だから「もともといますよ」という話をしたんですけど。別に今回だけ狙ったわけではなく、いつもいますからって。その加減が多いだけで。お会いしたことはないんですけどね、小室さんには。一回会ってみたいです。どんな人なのか。


・「極限からに無限に変わった」(勇-YOU-)


ーー勇-YOU-さんの、この曲の第一印象は?


勇-YOU-:率直に、また新しいものが来たなと思いました。雅友さんの曲は毎回新鮮で、限界を知らないなという印象が非常にあって。アニメのタイトルに引っかけて言うと、極限からに無限に変わったなという印象を受けました。


ーーそれいただきます(笑)。


勇-YOU-:今回また新しいサウンドの中で、僕も新しい試みとしてラップの部分があったりとか、限度を超えて歩み続けているんだなと感じましたね。


ーー歌詞はどんなふうに?


勇-YOU-:アニメを見る前に『無彩限のファントム・ワールド』の原作小説を読ませていただいて、幻想と現実が入り混じる世界の話で、さっき雅友さんが言った脳科学っぽい感じがあって。ここにある飲み物も、触ってみないとあたたかいのか冷たいのかわからないように、これは幻想なのか現実なのか?ということもたくさんあるんじゃないか?と。たとえば頭の中でネガティブなことを考えていても、それは自分が作り上げた幻想の中でふさぎこんでいるんじゃないか?とか、そういう曖昧なことって、世の中にすごく多い気がしていて。


ーーはい。なるほど。


勇-YOU-:それならば五感をすべて研ぎ澄ませて、裸で飛び込んでいくぐらいの勇気を持ってみないかい?という歌詞にしたくて、そういう内容になりました。


ーー歌録りはさくさくと?


勇-YOU-:極端に長くかかったという印象はないです。でもラップが初めてだったので、リズムの取り方とか歌い方はいろいろ挑戦しました。声色も変えて。あそこは、現実の世界で頭の中でうごめいてるものを歌っているところなので、苦悩感をより出すために声色を変えてみました。


ーー新しいサウンドと新しい歌。ファンの人はいい意味でびっくりするかもしれない。


雅友:うん。


勇-YOU-:でもミュージックビデオのショートバージョンを公開したら、すごい好評で。幻想と現実の世界を描いた映像で、ビデオカメラに囲まれてパソコンを打ってるのが現実の世界で、クラブのシーンが幻想の世界で、五感を研ぎ澄ませてダイブしている躍動感のある映像と、頭の中でもがいている苦悩している感じと、二つのシーンがあるんですよ。しかもダンスの方もたくさんいて、めちゃめちゃアートな空間を作ってくれてるんで、監督の感性が素晴らしいなと思いました。


ーーライブで歌うイメージも、もうできている?


勇-YOU-:いや、考えているところです。まだ一回も歌っていないので。年末年始にゆっくり考えたいと思います(笑)。


ーーライブでの強力な武器になると思うので、楽しみにしてます。せっかくなのでカップリングにもひとことずつ。「START LINE」については?


雅友:10年ぐらい前に、畑亜貴さんと僕が個人的に作っていた曲があって、それがこの曲の元になってるんですよ。ファイルを整理していたら出てきて、「これ、勇-YOU-に合うんじゃないか?」と思って、サビのメロディを勇に合わせて書き換えて、畑さんに歌詞も直してもらって。勇-YOU-が歌ったものを畑さんに聴いてもらったら、「勇-YOU-くんの声を聴いてまた全体的に直したくなった」と言われて。


勇-YOU-:すごいですよね。


雅友:だから、元の曲とはかなり違ってます。それをこの間のツアーで、アコースティックで歌わせてもらって。お客さんの反応も良かったので、シングルに入れてもいいんじゃないか?と。


勇-YOU-:初めて歌わせてもらった時から、体にすーっと入っていく曲だったんですよ。等身大の自分をそのまま映し出している曲だなと思っていて、ちょっと立ち止まりそうになった時に、自分自身へのエールを感じる曲だし。畑さんに素晴らしい歌詞を書いてもらって、ありがたくも恐縮なんですけど、本当にうれしかったです。歌うというよりは、自分の気持ちをそのまま言葉にしている感覚になれるので。畑さんが俺の声を聴いて、歌詞を直したいと思ってくれたというのは、声を聴いただけで俺の人となりをすごく知ってくれたのかな?と感じていて。さらに歌詞を変えていただいたことで、もっと自分に近づいたという実感が深まりましたし。


ーーなるほど。


勇-YOU-:しかも今年初めてのシングルですよね。表題曲の「Naked Dive」で、SCREEN modeとしての一つの進化を見せつつ、この「START LINE」は今年のスタートを切るという意味合いも込めて、カップリングにこの曲があるのは非常に意味が強いと感じています。


雅友:僕は畑さんと数えきれないくらい仕事をしてきて、毎回思うんですけど、手紙みたいになってるんですよ。「雅さん、こういうふうに書いておいたよ」みたいな、行間にメッセージがある。それを今回は勇-YOU-に向けて、手紙を書いたんじゃないかな?と思ってます。


勇-YOU-:うれしいです。


雅友:勇-YOU-にも感じてほしいですね、畑亜貴からの手紙を。なぜ彼女が歌詞を直したのかを。


勇-YOU-:大切に歌っていきます。歌うたびに畑さんを思い浮かべながら。


雅友:(笑)。


・「音楽家としての成長が目標」(雅友)


ーーもう一曲ありますね。「RED AND BLACK」。


雅友:暗いやつですね(笑)。


勇-YOU-:雅友さんの印象だと、この曲はやっぱり暗いんだ。


雅友:マイナーキーだからね。この曲はちょっと笑えるんだけど、プロデューサーから「SCREEN modeは熱量の高い曲が多いから、あまり激しい起伏のない曲があればほかの曲が引き立つんじゃないか」と言われて作ったんですけど、そうならなかったという(笑)。


勇-YOU-:やっぱり激しくなってしまった(笑)。


雅友:これは若いクリエイターにもよく言うんだけど、曲を作る時にはメロディーの音域管理が大切で。たとえばBメロでその人の出せる最高音を使ってしまうと、それ以上盛り上がらないじゃないですか。少しずつ上がっていかないと、盛り上がった感じが出ない。なんだけど、この曲はAメロ、サビ、Dメロ、全部同じ音から始まるんですよ。“ミ”の音なんです。音域管理でいうと、狭いところにいる曲なんですよ。そういうふうにロジカルに考えて、あまり起伏のない曲のつもりで提出したんですけど、出来上がったらあんまりそうなってなくて。なんでなんだろうな?と。なんですかね? 才能なんですかね(笑)。


ーー才能だと思います!(笑)


雅友:これだけ音域管理を狭くやってるのに、すごい起伏がついちゃったなと。不思議ですね、世の中って。


勇-YOU-:誰にもわからない不思議がある。


雅友:ちょっと、能力を発揮してしまいました。ここじゃないところで発揮したかったけど(笑)。


ーーハードロック色もかなり濃いですよね。


雅友:ああ~、あのギターリフ。あれは最初はなかったんですよ。「リフがほしい」と言われてあとから考えて、それで起伏がついちゃったのかもしれない。


勇-YOU-:あのリフ、カッコいいですよね。


雅友:もちろん出来上がりには自信を持っているんですが。最初の話とはかけ離れてしまったなと(笑)。ちょっと笑えるなと思ってるんですけど。


ーー作詞は、作詞家にお任せしてますね。


勇-YOU-:作詞は松井洋平さんで、「START LINE」と同じく素晴らしい才能の持ち主に書いていただいたんですけども。基本的に僕が歌詞を書く時は、僕が書いたものをみんなでブラッシュアップして作っていくことが多いんですけど、「RED AND BLACK」に関しては僕が設定だけ決めて、あとは松井さんに全部書いてもらいました。


雅友:「Naked Dive」で勇-YOU-と松井さんが共作して、すごくいい歌詞ができたので。それで始まったのがこの曲ですね。


勇-YOU-:面白いですよね、この歌詞。カジノのテーブルゲームをテーマにしていて、僕の中の悪い部分を引き出してくれてる感があって。これも畑さんと同じように、引き出される感覚があるんですよね。自分の心の片隅にあるエロティシズムのようなところをくすぐってくれるというか。


雅友:これも手紙なんだろうね。松井さんから勇-YOU-に対しての。勇-YOU-が書き出したキーワードリストみたいな、歌詞の三歩手前ぐらいのものがあって、それを元に松井さんが書いてくれたんですけど。だから、アンサーソング。


ーーああ。なるほど。確かに。


勇-YOU-:畑さんからのアンサーソング、からの、松井さんからのアンサーソング。


雅友:行間から、そういうふうに感じましたけどね。「おまえのやりたいことをこういうふうに書いておいたから」みたいな。


勇-YOU-:歌う直前まで、どういうふうな声が出るか、あんまり考えてなかったんですけど。覚醒させられた感じですね。今までの中でも一番、擦り切れたような音質を使ってるんで、一番牙を剥いてる曲なのかな?と感じてます。「START LINE」もそうですけど、今回の歌の収録は長い時間をかけないで、何回かフルコーラスを歌っただけで終えたので。何回も歌って良くなるものもあれば、パッと出た最初のものが良いこともあって、最初に出たパッションをそのまま使った感じがあります。カラフルなCDが出来上がったんじゃないかなと思います。


雅友:それと、この曲はAMAZONSのコーラスですよ。プロデューサーに「女性コーラスが入っていたほうがいいんじゃないの」と言われてーー僕、昔の『夜のヒットスタジオ』とか『ザ・ベストテン』の動画を見るのが好きなんですよ。昔の歌番組って生演奏じゃないですか。それで玉置浩二さんの映像とかを見ていると、うしろでAMAZONSがコーラスをやっていて、それが本当にすごくて。それでミュージシャンを手配する会社の人に「AMAZONSっぽいコーラスグループとやりたいです」と相談したら、「本人たち、呼べますよ」という話になって、本物が来ちゃったみたいな(笑)。
勇-YOU-:すごいよね(笑)。


雅友:当時のまま、何も変わらない美声でしたよ。優しい方たちなんですけど、オーラがハンパなくて、やっぱりすごいなと思いました。サビのコーラスをぜひ聴いてほしいです。


ーーという、強力なシングルのリリースから始まる2016年。年頭にあたって、今年にかける意気込みが聞きたいです。


勇-YOU-:1月に今年最初のシングル「Naked Dive」を出すことができたんですけど、「Naked」=裸になる、さらけ出すというのが今年の一つの目標だと思ってます。まだまだ脱ぎきれてない部分があると思うので、この歌を糧として、周りの人たちにいろんなことを感じてもらいながら、4月2日の恵比寿リキッドルームでのワンマンライブに向けて高めていきたいなと思ってます。


雅友:毎年一緒なんですけど、音楽家として成長していくことしかないです。ただNakedになるためには、裸になった状態がちゃんとビルドアップされていないと、どうしようもない。それはフィジカルな問題だけじゃなく、ミュージシャンとして、人として成長いくために、いろんなことを考えて、吸収して、高めていくことが非常に大切だと思うので。脱いでも大丈夫なぐらいになるために、頑張りたいなと思います。(取材・文=宮本英夫)