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<スキーバス事故>犠牲者のSNS「顔写真」を報道で利用ーー法的な問題はないのか?

2016年01月22日 12:31  弁護士ドットコム

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長野県軽井沢町のスキーツアーバス事故で死亡した乗客の人物像を伝えるために、新聞やテレビなどのメディアは、フェイスブックなどのSNSに掲載された乗客の写真を使って報道する場合がある。そのことについて、ネット上では「何でもあり気な報道に違和感を持ちます」「こんな使い方してええんか?」と疑問の声が上がっている。


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これまでも、大きな事件や事故があった場合、新聞やテレビでは、亡くなった人の顔写真を掲載することが多かったが、記者が遺族や友人・知人などから入手するケースが多かった。ただ、最近はフェイスブックなどで公開されている写真を、報道のために使用するケースが目立っている。



亡くなった本人がこのような写真の使われ方を想定していたとは考えがたいが、「報道目的」でフェイスブックの画像を無許可で使用することに問題はないのだろうか。



また、マスメディアだけでなく、2ちゃんねるやまとめサイトなどでも、写真が使われているケースがある。なかには、特定の乗客について「かわいい」「美人」などとコメントしているケースもあるが、新聞やテレビとは法的な扱いが変わってくるのだろうか。表現の自由とプライバシーの問題にくわしい佃克彦弁護士に聞いた。



●遺族の「敬愛追慕の情」が侵害されたかどうか


「今回のような場合、亡くなったご本人が、自分のSNSの写真を報道写真などに使われることを想定しているとは考えがたいという指摘は、その通りでしょう。



そのような観点から、亡くなったご本人の権利(たとえば肖像権やプライバシー権)を侵害するのではないかと考える方がいるかもしれません。



しかし、ご本人は亡くなっているため、法律上はもはや、権利の主体となることができません。よって、亡くなったご本人自身の権利の侵害は問題になりません」



そうであれば、使っても問題はないのだろうか。



「問題となるのは、遺族の権利です。



亡くなった人のメディアでの扱われ方によっては、遺族の方の『故人に対する敬愛追慕の情』が侵害されたとして、遺族の方の損害賠償請求が認められることがあります」



どのような場合に「敬愛追慕の情」の侵害があったといえるのか。



「報道機関が、亡くなった方の容貌を報じるためにSNSの写真を新聞に掲載したり、テレビニュースで放送したりしたような場合、通常、亡くなった方を貶めるものとはいえませんので、敬愛追慕の情の侵害があったとはいえないでしょう。



一方で、インターネットの掲示板やまとめサイトなどで、亡くなった人の写真を掲載した上で『かわいい』『かわいくない』『カッコいい』『カッコよくない』等と容貌をあげつらうような採り上げ方がなされている場合、遺族の方の心がとても傷つくということがありうるでしょう。



そのような場合には、遺族の方の『故人に対する敬愛追慕の情』の侵害が認められる可能性があると思います。



もっとも、掲示板やまとめサイトの場合、その実行者が誰であるかを突き止めるのが難しいという実際上の問題はあります」



●報道目的の利用は、著作権法上認められている

 


著作権の観点から、問題はないのだろうか。



「SNSの写真を承諾なく利用するという意味において、写真の著作権の侵害も問題となり得ます。



SNSの写真の場合、前提として、『その撮影者(著作者)は誰か』という問題があるでしょう。この問題は、自撮りの写真であれば本人が著作者であり、別の人が撮影したのであればその別の人が著作者となります。



そして、著作者が誰であるにせよ、報道機関が、事故の被害者はどういう人なのかということを報道する目的で、SNSの写真を使用(新聞掲載やテレビ放送)したという場合、そのような利用は著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)により認められているので、違法であるとはいえません」



では、ネットで取り上げられる場合はどうなのか。



「ネットが媒体でも、それが報道であれば、著作権法41条により写真の使用が認められます。



しかし、著作権法上適法となる使用は必ずしも報道目的に限られません。『報道』のみならず、『批評、研究その他』の目的であれば、著作権法32条に基づく「引用」として、写真の使用が認められる可能性があります。



ですから、例えば、まとめサイトの場合も、誰かに関する記事をまとめたうえでコメントや分析がなされているようなものであれば、その人の写真を貼ったとしてもそれは、広い意味では『批評』や『研究』を目的とした『引用』として認められるケースもあり得るでしょう。



他方、2ちゃんねるなどの掲示板に、何のコメントも付けずに、亡くなった人の写真をただ貼り付けたような場合は、『報道、批評、研究その他』にあたる余地がないため、正当な『引用』にはあたらず、著作権法上違法だということになると思います」



佃弁護士はこのように話していた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
佃 克彦(つくだ・かつひこ)弁護士
1964年東京生まれ 早稲田大学法学部卒業。1993年弁護士登録(東京弁護士会)
著書に「名誉毀損の法律実務〔第2版〕」、「プライバシー権・肖像権の法律実務〔第2版〕」。日本弁護士連合会人権擁護委員会副委員長、東京弁護士会綱紀委員会委員長、最高裁判所司法研修所教官を歴任。
事務所名:恵古・佃法律事務所