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SCANDAL、4人の未来を予感させた夜 “自信”と“確信”の武道館ライブを観た

2016年01月22日 11:41  リアルサウンド

リアルサウンド

SCANDAL

 軽快に打ち鳴らされるRINA(Dr&Vo)のビートにのせた「ブドーカン!!」というHARUNA(Vo&Gt)の一声でステージから一気に音が放たれた。世界的照明デザイナー、パトリック・ウッドロフの手による無数の閃光がエモーショナルなアメリカン・オルタナティヴ・ロックのサウンドに更なる輝きを与える。会場に拡がっていくその音に、それを紡ぎ出す4人の姿に、これまでと違う“何か”を感じた瞬間でもあった──。


(関連:SCANDALがワールドツアーで見せた瞬間の輝きとはーーバンド初のドキュメンタリー映画を観る


 SCANDALの『ARENA TOUR 2015-2016「PERFECT WORLD」』が、2016年1月13日、日本武道館でファイナルを迎えた。国内31公演、ヨーロッパ、アジア、アメリカ…全9カ国に渡った『WORLD TOUR 2015「HELLO WORLD」』から続く集大成というべきものであったし、新たな4人の未来を予感させる夜になった。


 解き放たれるようにはじまった「Image」から「瞬間センチメンタル」へとなだれ込む。メロディ、フレーズ、キメ……、どれもが“SCANDAL節”といえるライブ定番のナンバーにバンドの成熟を垣間見た。激しく鳴らされるビートの隙間に余裕が見え、タイトにキマっていくブレイクの間合いには貫録が見え隠れする。掲げられたタオルとフラッグと右手で会場が埋め尽くされた「DOLL」、オーディエンスの熱が爆発したかのように特効の音玉が弾けた「EVERYBODY SAY YEAH!」、アッパーチューンが続く。巨大なLEDパネルと無数のまばゆい光に囲まれたステージではあるが、前回のツアーのような凝ったセットや演出はなく、ライブバンドとしての姿をシンプルに見せる。


 前ツアーでも感じたグッと低めになったグルーヴはここに来て、ルーズさを増した。もちろん良い意味でのラフさであり、もっとも、解りやすい言葉で表すのなら“カッコイイ”、これに尽きるだろう。かと思えば、「STANDARD」でガレージ・ロックなサウンドと激しくうち鳴らされるリズムで捲し立て、畳み掛けるスリリングさにゾクゾクする「お願いナビゲーション」では、HARUNAとTOMOMI(Ba&Vo)の声が鬩ぎあうように絡んで行く様に息を呑む。そんな緩急をつけていくアンサンブルが集約されているのが、「Sisters」のカップリング曲である「LIFE IS A JOURNEY」だろう。TOMOMIのゆったりとした歌い出しにはじまり、牧歌的なところからパンキッシュに変貌する楽曲構成は音源以上にアグレッシブだ。


 「少女S」の各ソロ回しで沸き起こる歓声、そのまま「会わないつもりの、元気でね」へと流れて行く。ゴーストノートを巧みに操りながらリズムを刻んで行くRINAと、涼しげな表情から野太くボトムを支えて行くTOMOMIの上を、どこか飄々としながらも重厚なサウンドで壁を作っていくMAMI(Gt&Vo)。そこにHARUNAのストロークする右手の軌道が重なり、言葉がのっていく。ストレートなロックナンバーだからこそ、あらためて解る現在のSCANDALが魅せつけるロックバンドとしての本懐である。


 対照的に、ロックバンドの型にハマらないのも彼女たちの魅力だ。RINAがテレキャスターを手にし、メインボーカルを取る「おやすみ」。まさにお互いの関係性を表すように竿楽器を手にしてフロントに4人が並ぶ光景は、ワールドツアーを経た今、前ツアーとは少し違ったようにも見える。映画『Documentary film「HELLO WORLD」』でRINAが涙する、“今までだったらカットしているような”場面を思い出したりもするのだ。ほぼワンメロディだけが繰り返される不思議なドリームポップ、3本のギターが織りなすシューゲイズサウンドと無数の光が会場を包み込む。そんな幻想的な空間は、SCANDALの中では異色のテクノナンバー「Kill the virgin」へと続く。2台のカオシレーターを操るHARUNAと、キーボードによるオリエンタルなフレーズを奏でるRINA、モジュレーションのエフェクトのMAMIのギターが跳ねる。無機質なサウンドと幾何学的に作り出される光の中で、TOMOMIの甘い歌声と息漏れでリズムを作って行くHARUNAの声が艶めかしく響いた。


 「自動車の運転免許を取りたい(HARUNA)」「梅干しを漬けます(TOMOMI)」「可愛いパジャマを集めようと思います(RINA)」「「自分で着る服は自分で作る(MAMI)」という“2016年やりたいこと”をテーマに、さきほどまでとは打って変わった素のままのトークで場内を和ませる。ほっこりした雰囲気の中、アルバム『HELLO WORLD』から冬の曲「Winter Story」をオーディエンスが着席した状態、HARUNA曰く“ディナーショースタイル”で届ける。そして「自分たちで言うのもなんですけど、いい曲ができちゃいました」と語ると、新曲「Morning sun」が披露された。これまでありそうでなかった素朴でどこか懐かしさを感じる普遍的なメロディとギターのストロークを中心としたシンプルなアレンジの同曲は、1月30日公開の映画『猫なんかよんでもこない。』の主題歌でもある。


 ステージ後方に映し出された無数の星が埋め尽くされた銀河をバックに「夜明けの流星群」からラストスパートへ。「Your song」でアグレッシブにMAMIとTOMOMIがステージ上を縦横無尽に駆け回り、会場の「Wow~ Wow~」の声がより高揚へといざなわれていく。「SCANDAL BABY」のオーディエンスの掛け声&合唱から、テープキャノンが降り注いだ「Sisters」へ。本編ラストはドキュメンタリー映画の主題歌となった「ちいさなほのお」。RINAが生と死を考え、「内に秘めたものを思いっきりだす」と一気に書いた詞。その詞を見たMAMIも「これは鮮度が大事」と一気にメロディを書いた曲だ。


 アンコールでは、ニューアルバムから「SUKI-SUKI」が披露された。TOMOMIのアグレッシヴなベースに始まり、つっかかるようなリズムが途中でひっくり返って、サビで一気に加速するという、アンサンブル的な遊び心を詰め込んだナンバー。現在、YouTubeのオフィシャルチャンネルで期間限定公開されている音源とは印象の異なるライブ映えする楽曲だ。そして「太陽スキャンダラス」の「Nanana~」の大合唱でフィナーレを迎えた。


 ワールドツアーを終えた彼女たちは、明らかに変化したように思えた。近年の日本のロックシーンにはめずらしいほどゆったりとしたテンポとグルーヴ感を持った「Stamp!」、これまで縦ノリのロックナンバーが多かったシングルに横ノリで攻めた来た「Sisters」という2枚のシングル。そして、いつになく自然体のアーティスト写真と、ミニマルにデザインされたバンドロゴをはじめとしたアートワーク……もしかしたら、それらに戸惑いを感じた人も少なくはないのかもしれない。筆者もその一人だった。だが、この日のライブを観て、その戸惑いが無意味であったことに気付く。SCANDALというバンドの本質は何も変わってはいなかった。むしろ、自信と確信の表れだ。もし、変わったものがあるとするのなら、もう“突っ走る”必要がなくなったことだろうか。


 これまで、SCANDALは突っ走っていた。その姿に我々は突き動かされてきたのだ。しかし、武道館で「Image」が鳴った瞬間に見えたものは、走らずに待ちかまえている4人の姿だった。


 「今までの10年はひたすら突っ走ってきた、これからまたそれを続けられるかといえば、そうじゃない」ドキュメンタリー映画の中でHARUNAはそう語っていた。これからの彼女たちが、走るのを止めるわけでも、前に進むことを止めるわけでもないことは言うまでもないだろう。


 今年2016年8月に結成10周年を迎えるSCANDAL。今4人が見ているこの先の景色を少し見れた気がした。この続きは「ワールドツアーとか、いろいろな経験をさせてもらって、そんな中、1年かけて4人で大切に作ってきました。自信作です!(HARUNA)」と語るニューアルバム『YELLOW』で見せてくれることだろう。(冬将軍)