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Motörhead・レミーは最高のロックンローラーだったーー『極悪レミー』追悼上映によせて

2016年01月21日 18:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『極悪レミー 殺りすぎなブルーレイBD』

 2015年も終わろうとしている12月29日、Motörheadのレミー・キルミスターが死去したという信じられないニュースが飛び込んで来た。12月28日に、末期癌により自宅で家族に囲まれながら死去したとのニュースだったが、未だに信じられないファンも多いだろう。「核爆発が起きてもレミーとゴキブリは死なない」と言われた、不死身のレミー・キルミスター死去のニュースで、世界中に悲しみの嵐が吹き荒れた。


参考:『爆裂都市』から『ソレダケ』へーー石井岳龍監督が再びロック映画に向かった理由


 その悲しみもまだ癒えぬ2016年1月16日より、渋谷HUMAXシネマにてレミー追悼イベントとして、映画『極悪レミー』最大音量追悼上映が1週間に渡りおこなわれるというので、早速初日に行ってきた。


 この上映では、MotörheadかレミーのTシャツを着てくると、窓口でチケットが1000円になったり、上映前のロビーではレミーが愛したジャック・コーク(ジャックダニエルのコーラ割り。ちなみにレミーのジャック・コークはコーラのジャックダニエル割り)が飲み放題で振る舞われるなどの粋なはからいがあり、レミーを偲ぶファンでチケットは売り切れ、超満員の大盛況だった。


 ジャック・コークを飲みながら上映を待つ観客達は、ポスターにレミーへの想いを書き込んだり、この追悼上映を取材に来た取材陣の質問に答えたりしながら、各々レミーへの想いを馳せながら時間を過ごしている。入場が開始されると観客席はすぐに埋まり、同時にDVDも発売され、過去に上映も行なわれている映画としては異例の盛り上がりを見せる。今か今かと上映を待つ観客達のボルテージは上がって行き、拍手と歓声の中で『極悪レミー』の上映は開始された。


 上映中にも「レミー!」などの歓声があがり、通常の映画の上映では見られない雰囲気の中、爆音で上映される映画はまるでライブを見るように進んで行く。スピーカーから流れる音量は許容範囲を超え、音割れまでするほどだった。この映画への主催者側の想いが観客にリンクする。


 内容を知る観客からは要所で歓声も上がり、ライブのシーンでは自然に身体が動き、歌詞の内容と映画に映し出されるレミーの生き様が観るものの胸を突き刺す。映画館で観ることの素晴らしさがこれほどまでに体感できる作品もなかなか無いだろう。


 レミーの私生活まで入り込み、彼の息子と語り合うシーンでは、親としてのレミーもまた常人離れしたワイルドさを持つ「レミー・キルミスター」そのままであることが容易にわかる。こんなにも素直な親子関係でいられるという事実は、子を持つ親にとっても非常に参考になるのではないだろうか。


 観客や関係者、各著名人から語られるレミーのエピソードも期待を上回る話ばかりだった。たとえば、レミーはある女性ミュージシャンと親友で、彼女は後にMotörheadのファンだった男と結婚するものの、その男はレミーと彼女の関係を疑ってしまったのだという。しかし男の死後、レミーから彼に宛てた手紙がみつかり、そこには「彼女とはただの親友で、神に誓ってなにもない」という趣旨の、真摯なメッセージが書かれていたとのことだ。レミーの優しさが垣間見れるエピソードといえよう。レミーがどれほど偉大で、クズで、素晴らしきロックンローラーであり、最高のロックスターであったかを再認識する。


 大きな拍手と歓声で幕を閉じたこの上映は、映画館の雰囲気自体が今まで経験したことのないもので、世界中でどれほどレミーが、Motörheadが愛されているかが伝わってきた。


 「レミーが死んだ」という事実を受け入れるのは、決して簡単ではない。しかし、彼の偉大さはこの世界が終わりを迎えようとも変わることはない。恐らく二度とMotörheadのライブを観ることはできないだろう。せめてこの映画とレコードで「レミーは死んでいない」ということを噛み締めながら生きていきたい。負け犬として生まれ、勝つために生きたレミー・キルミスターの生き様とともに。(ISHIYA)