2016年01月21日 17:01 弁護士ドットコム
1年更新の契約社員として働いていたところ、契約期間4年半で雇い止めになってしまったーー。Yomiuri Onlineの「発言小町」に、そんな相談が寄せられました。
トピ主は、「一部上場企業の地方支社で、1年更新の契約社員として働いています」といい、同じ会社に、派遣として7年、契約社員として4年も働いてきたべテランさんです。
ところがある日、「『業績不振と子会社からの(正社員)出向受け入れ』を理由に、契約期間4年半で雇い止めになる旨を、会社側から言い渡されました。現場では頼りにされ、お客様との関係も良好でした」といいます。そこで、トピ主は周囲のアドバイスを受け、こう決心します。
「労働審判を起こそうと思います。負ける覚悟です。会社のやってる事がどれだけ理不尽な事なのか、どれだけの人の生活が変わり、残された人の業務の負担が増え、結果として顧客満足度も下がるのか、知らしめてやりたい」。
レスには「会社に楯突いても良いことは何もありませんよ」と、トピ主に転職をすすめる言葉も並びましたが、「3年間を超えて継続しての雇用であれば、有期契約であっても、期間の定めのない契約に転化したものとみなされる場合が多々あります」などとして、労働組合への加入、労働基準監督署、労働委員会などへの相談先を紹介する方たちもいました。
今回、トピ主は辞めるほかないのでしょうか? また、不服な場合、どんな対応ができるのでしょうか? 谷口 真理弁護士に聞きました。
A. 「具体的な事情によっては、雇止めは無効となります」
有期雇用契約であっても、何度も更新されているなどして、「更新されるものと期待することについて合理的理由が認められる」ような場合、理由なく雇い止めにできません。
上記の場合、雇止めは、解雇の場合と同様に扱われ、その理由が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められないときは、雇止めは無効とされるのです。これは、雇止めに関する判例法理を条文化した「改正労働契約法19条」に基づきます。
更新の期待について合理的理由が認められるかどうかは、業務内容、更新の回数、通算期間、契約更新の手続、過去の雇止めの前例、使用者の言動など様々な事情を考慮して判断します。
相談のケースでも、具体的な事情によっては、雇止めは無効となります。
雇止めが不服であれば、まずは契約更新申込みの意思表示のため、会社に対し雇止めの撤回を求めることになります。
会社が更新の交渉に応じない場合、ご自身でできることとして、まず「労働基準監督署」への申告を思いつくかもしれません。しかし、調査に着手してもらうには、労働基準法等の特定の違反行為があると判断できる程度の証拠を揃えて、違反申告の形をとる必要があります。
「雇止めが不当だ」と申告しても、会社の個々の詳しい事情や経緯が判明せず、違法行為を特定できる証拠に乏しい以上、雇止めの問題について労働基準監督署の調査や是正勧告による解決は期待し難いでしょう。
ほかに、自身で行う手段として、各都道府県の労働局や労働委員会の「斡旋(あっせん)手続」を利用することが考えられます(東京都労働委員会では個別労使紛争の斡旋を行っていないため、利用する場合、労働組合に加入して支援を得ることになります)。
「斡旋手続」は、利用に費用がかかりません。また、復職のみにこだわらず、金銭的解決も検討している場合の解決となじみやすいですが、会社側を強制的に手続に参加させることはできません。
そのため、弁護士に依頼して雇止めを争う場合、裁判所の手続を利用することが一般的です。通常、労働審判の申立て、仮処分の申立て、民事訴訟の提起のいずれかが考えられます。しかし、目的があくまでも「復職」なのか、「金銭的解決」も視野に入れるのか等によって、選択する手段も異なるため、よく相談すべきでしょう。
なお、「改正労働契約法18条」により、同一の使用者との間で有期労働契約期間が通算して5年を超えて反復更新された場合、その労働者の申込みによって無期労働契約へと転換できるようになったことで、相談のケースのような雇い止め行為が増えるのではないか、との指摘もあるようです。
確かに、そのような行為が増えることは予想されます。しかし実際には、前記の「改正労働契約法19条」のとおり、無期契約への転換を定める5年の経過前であっても、雇止めの効力が否定されうることが明文化されています。
ですから、「5年経つ前であれば、どのように雇止めをしても会社の自由だ」というのは、誤った認識ということになります。具体的な事情に基づいて、更新が合理的に期待できるのであれば雇止めは無効になる可能性があります。
【取材協力弁護士】
谷口 真理(たにぐち・まり)弁護士
第二東京弁護士会所属。一橋大学卒業後、司法試験に合格。
一般民事案件を中心に企業法務案件にも携わり、東京都千代田区内の2ヶ所の法律事務所での勤務を経て、桜花法律事務所を開設。著書「新・労働事件法律相談ガイドブック」(第二東京弁護士会・共著)
事務所名:桜花法律事務所
事務所URL:http://www.oukalaw.jp/