2016年01月21日 12:11 弁護士ドットコム
2020年の東京オリンピックやパラリンピックに向けて、政府が受動喫煙を規制するための法律や条例の整備を検討していると、読売新聞が1月上旬に報じた。
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国際オリンピック委員会(IOC)は「たばこのない五輪」を掲げている。2004年のアテネ大会以降の10年間、オリンピックが開催された国・都市では、施設内での禁煙・分煙が法律や条例で義務化され、違反者や施設管理者に罰則を科すケースが大半だった。
読売新聞の報道によれば、日本の政府案も、公共施設を全面禁煙として、レストランやホテルなども分煙とするよう施設管理者らに義務づける内容だという。違反者への罰則も盛り込まれる方針なのだそうだ。
日本では、2003年施行の健康増進法により「受動喫煙対策」が進んできたが、飲食業界や宿泊業界の反対もあって、事業者にとって禁煙・分煙は努力規定にとどまっていた。今回、新法で禁煙や分煙を義務化することは妥当だろうか。たばこを吸いたい人の権利を侵害しないだろうか。ブログで政府案に肯定的な評価を示していた猪野亨弁護士に聞いた。
「そもそも禁煙・分煙は世界の流れです。そんな中で、努力義務にとどまる日本は立ち後れていました。生産者を含めたたばこ業界に対する配慮から努力義務にとどめるなどという話もありましたが、政府は今回、罰則をつけるという方向でまとめようとしています。この点は評価できます」
飲食・宿泊業界は「分煙で、喫煙者の客が離れる」といった理由で、義務化の回避を求めてきた。一律義務化によって、営業の自由が損われる心配はないだろうか。
「憲法上、『営業の自由を制約することができるかどうか』という問題もありえます。ただ、受動喫煙による被害を防止することは、すべての人の健康を守るためものです。罰則付きの制約が実現されたとしても、これで憲法に違反するとまでは言えません。
特に飲食店は、禁煙席と喫煙席を分けたとしても、実際には空間を共有する形で「分煙」しているだけなので、どうしても煙が流れてきます。飲み屋は禁煙席すらないことも多く、非喫煙者が受動喫煙を強要されてきました。健康増進法での「努力義務」だけでは、分煙は遅々として進みません。
一部の業者が抜け駆け的に喫煙可としてしまえば、各業者の自主的な努力で、達成することは絶対に不可能です。だからこそ、罰則をもって一律に強制しなければ、受動喫煙の被害そのものを防止できません。また、一律義務化は、どの業者も同じ土俵に立たせるという意味で、規制に合理性を持たせることができます」
たばこを吸いたい人の権利は、損なわれないだろうか。
「そもそも喫煙が人格の発現(憲法13条)レベルの人権といえるかは、はなはだ疑問です。喫煙の自由が憲法上の自由とは言えるかが争われた裁判では、刑務所に収監されている在監者の喫煙という特殊性はありますが、判決は憲法上の保障の有無について判断せず、在監者の喫煙の制限を認めています(最高裁昭和45年9月16日判決)。
今回の義務化は、他の人に『受動喫煙』を強いるようなところでの喫煙が、事実上禁止されるだけです。吸いたければ、喫煙のための空間で吸えばいい話ですので、憲法上は何ら問題ありません」
猪野弁護士はこのように話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
猪野 亨(いの・とおる)弁護士
今時の司法「改革」、弁護士人口激増、法科大学院制度、裁判員制度のすべてに反対する活動をしている。日々、ブログで政治的な意見を発信している。
事務所名:いの法律事務所
事務所URL:http://inotoru.blog.fc2.com/